遊園地でつかまえて - 1/3

 私を探さないで、
 楽しんでくれる?
 仕掛けなんてないわ。
 置いて行かないから、
 寂しくないでしょう?
 額面通りに受け取って構わないわ。
 心配しないで。
 手紙にしたんだから。

 その手紙が届いたのは、食事を済ませてそろそろ出ようかと相談し始めた頃だった。
「……なあこれって」
「探してくれってメッセージだよな、多分……」
「……」
「うん、でも……」
 手紙を覗き込む蒲生慈玄、伊織陽真、魅上才悟、深水紫苑――ジャスティスライドの四人。
 横から読めばそのまま「私を探さないで」になるのだが、縦読みすれば「わたしおさがして」――私を探してとなる文章。彼女の意図は、どっちなのだろうか?
 縦読みを理解したらしい才悟が席を立つが、すぐに陽真が止めた。
「落ち着けって、さらわれたわけじゃないんだから」
「だが、皇凜花が」
「だから、今からこれを読み解こうって事なんだよ」
 陽真に諫められて、渋々と席に着く才悟。それを見て、紫苑がぽつりと「本当に探してほしくないのかも」と呟いた。
「一人で楽しみたいのかも知れないよ」
「だったら縦読みとかしこまねえだろ」
 慈玄が真っ向から反対すると、紫苑はそれはそうなんだけど、ともごもごと言った。

 ……そもそもこの遊園地は曰く付き――過去に事件が起きた場所でもあった。

 才悟のカオストーンを持つカオスイズムの妙な動き。
 それに合わせての才悟と陽真の真っ向からの対立、そして改めて育まれた二人の友情。
 事が過ぎれば「いい思い出になった」で済んだ事件ではあったが、当時は本当に冷や冷やしたものだった。そんな場所にエージェントの少女――皇凜花を誘ったのは、他でもないジャスティスライドの面々だった。
 遊園地のチケットが三枚手に入ったので、残り一枚買ってまたジャスティスライドのみんなで行こうと言う話になったのだが、それじゃいつもと変わり映えがないと言う事で、もう一枚買って凜花も誘おうとなったのだ。
 その時の凜花の表情を思い出す。「あなた達の思い出の場所に連れて行ってくれるのね」と何か思案気に目を伏せていた。その時何を考えていたのかは、誰も知らないし解らない。

 本当は誘われて嬉しくなかったのかも知れない、と陽真は思う。だが、おめかしまでしてきてくれて、入り口のゲートを楽しそうにくぐる彼女の顔は本物だった。その後、全員で並んでジェットコースターに乗ったり、メリーゴーランドに乗った時の笑顔もまた、本物だった。
 何かが変わったのは、昼食の時。
 いつもと同じ穏やかな微笑みを浮かべたまま話を聞いていた凜花だったが、食事を終えるとちょっとトイレと席を外したのだ。
 それから彼女は帰ってくる事無く、話のネタも尽きたところでそろそろ……と言う時、店員が「お客様から預かっています」と一枚の紙を渡されたのだった。ついでに「会計は既に済ませておられます」という言葉も添えて。

 慈玄は自分たちの言動を振り返る。思い出話に花を咲かせたのは事実だが、凜花を置いてけぼりにしたつもりはない。だがそう思っていたのは自分たちだけで、彼女は相当寂しい思いをさせていたのかも知れない。だとしたら由々しき事態だ。何故なら、最初にチケットを三枚もらったのは自分だから。
 こんな事になるのだったらチケットを受け取らずに突っ返すか、それともマッドガイ辺りに渡せば良かったと思う。でも一緒に行こうと誘った時の凜花の顔は嬉しそうだったし、道中の会話もちょくちょく参加しては笑っていた。その笑顔は本物だったと思う。
 では何が彼女をそうさせたのだろうか。せめてそれだけは知りたかった。

 渡された紙を何度も見ながら、紫苑は本当は探してほしくないのかも知れない、と思う。確かに縦読みすれば探してとなるが、横読みの探さないで楽しんでほしい、もまた、彼女の本心のように思えるのだ。
 凜花は本音を奥深くしまい込んでいる。それは自分たちを信じていないのではなく、自分たちを尊重しすぎているからゆえの建前だ。
 だからこそ今回の遊園地で少しでも心を開いてほしいと願ったのだが、逆に心を固く閉じる結果になってしまったのではないか。そう思えて仕方がないのだ。何故なら、自分たち……特に魅上才悟を深く想っているから。
 自分たちは悪い事をしたのだろうか。そう思うと、涙が出てきそうになった。

 才悟がその読み方に気づいたのは直感だった。
 しかし直感はそこまで。何故探さないでと言いながら探してとメッセージを含めたのか。それが解らなかった。
 自分にとってこの遊園地は特別だった。「友達」というよく解らない物を理解でき、ジャスティスライドの仲間たちを友達とはっきり言えるようになった場所。そして、改めて自分が目指すものが何かを理解した場所。
 だから凜花にも来て欲しかった。ここに来て、笑顔になって欲しかった。
 それなのにどうして……。

「……とにかく、探してみようか」
「そうだな」
「解った」
「手分けして探そうぜ」

 話がまとまった後の動きは早かった。マップを見て、それぞれ探すエリアを決める。
「才悟、一人で全部探し回ろうとか考えるなよ?」
「解った」
 見つかったらライダーラインで連絡。それだけを決めて、四人は飲食店から飛び出した。

 最初に見つけたのは紫苑だった。
「あ!」
 遊園地を巡る機関車の中で、見覚えのある少女を見つける。遠いから解りにくいが、間違いなくそれは凜花だった。
 大声で名前を呼べば彼女も気づいたらしく、微笑んで手を振る。つい釣られて手を振りそうになるが、そんな事をしている場合じゃないとすぐにライダーラインに連絡を入れる。
「あの機関車、終点はどこだっけ……?」
 急ぎマップを開いて機関車のルートを探る。当然だが、その間も凜花を乗せた機関車はのんびりと走って去って行った。
『深水、見つかったのか?』
 最初に反応したのは慈玄だった。それを見た紫苑は、機関車の終点が今慈玄のいるエリアだと気づく。紫苑は慈玄に凜花が見つかったことを告げ、終点駅で見張って欲しいと書き込んだ。
 しかし紫苑は見落としていた。機関車は終点までいくつもの駅があり、凜花はそのうちのどこかで降りたらしく、慈玄がいくら見張っていても彼女は降りてこなかったのだった。

 次に見つけたのは陽真だった。
 途中でふらりと立ち寄ったお土産屋。そこで凜花が食べ物らしき箱を手にしていた。
「凜花……うおっ」
 名前を呼んで近づこうとするが、大きなお土産屋故に人も多い。それらに足を取られている間に、凜花はまた別のお土産を見に行ったらしく、姿を消していた。
 別のお土産屋なら会えるかなと思って一つずつ見て回ったものの、もう彼女はお土産に興味がなくなったのか、どこの店に行っても見当たらない。こうなったらエリア移動するかと思って外に出ると、外は既にパレードで移動が難しくなっていた。
 昼のパレードはこの遊園地のメインでもある。凜花はその隙をついて自分たちから逃げ回るつもりだろうか。そう思っていると。
『皇凜花を見つけた』
 タイミングよく、才悟からラインが来た。話を聞くと、パレードを見ながらクレープを食べて歩き回っているらしい。パレード中なので道を横切るわけにもいかず、タイミングを見計らっているとの事だ。
『気づかれるなよ?』
『いや、もう気づかれた。手を振られて、別の所に行ってしまった』
 陽真は頭を抱えた。

 慈玄は聞き込みをしつつ、自分の担当エリアをしらみつぶしに探していた。
「そうですか、ありがとうございます」
 知らないと言う人に頭を下げてその場を離れる。
 このエリアはジェットコースターをはじめとした絶叫系が多く、並ぶ人も多い。一応ざっと見て回るが、彼女らしい影は見当たらなかった。
(凜花は絶叫系は大丈夫だったか……?)
 真っ先に乗ったジェットコースターを思い出す。彼女は乗る前は「こういうの初めて」と言ってわくわくした顔でついてきていたが、乗った後の感想は聞いていなかった。聞いておけばよかった、と軽く後悔する。
 そう思って再度ジェットコースターの列を見渡すと。
「……!」
 奥の方に見知った影……凜花がいた。
 列をかき分けて彼女の所にたどり着きたいが、それだと並んでいる人たちの迷惑になる。仕方ないので名前を呼ぶと、彼女もこっちに気づいたらしく紫苑たちにしたように微笑んで手を振る。そしておまけとばかりに、口に指をあてて「しーっ」というサインまでしてきた。
 馬鹿にされてるような気がして少し腹が立ったが、次の手を合わせるような仕草を見て呆れてしまう。まるで「内緒にしてね」と言っているかのような仕草。
 仕草を見る限り、自分たちがいなくても楽しんでいるのは解る。では、自分たちは要らなかったのだろうか。
 違う気がする。慈玄は何回か首を横に振り、列から離れた。内緒にしてほしい、という願い通り、ラインに連絡を入れることはなかった。

 パレードもとうに終わり、人々はアトラクションやお土産屋を目指して歩いている。それを見ながら、才悟はぼんやりとベンチに座っていた。
 思い出すのは、パレードの中で見た凜花の顔。
 華やかなパレードを見る彼女の顔……笑顔を見た時、胸が締め付けられる気がした。
 午前中彼女が笑わなかったのかと言われれば、そうではない。アトラクションに一緒に乗る時も笑顔だったし、メリーゴーランドの時もそうだった。
 なのに。何故。
 考えれば考えるほど、彼女の真意が解らなくなる。探してほしいのか、ほしくないのか。自分たちがそばにいていいのか、悪いのか。それが知りたい。
『魅上くん、見つかった?』
 紫苑からのラインに対し、まだだと返す。ここまで来ると、そっとしておいた方がいいのではという流れになってきているようだった。
『オレが、悪かったのか?』
 元々三枚だったチケット。それに二枚足して五枚にしようと言い出したのは才悟だ。いつもの四人で行くのもいいが、ここの思い出を凜花と共有したかった。
 なのに彼女は一人で楽しんでいる。もしかしたら、自分たちが一緒の時よりもはるかに楽しそうなのだ。
『魅上くんは悪くないよ』
 才悟の弱音を否定する形で、紫苑が慰める。それでも才悟の心は晴れず、心の中の「何故」は消えない。
 それでも泣き言を言ってる場合ではない。仲間の励ましを受けて立ち上がろうとした時。

『ヒントが欲しい?』

 唐突な凜花からのラインに才悟はベンチから立ち上がる。他の皆も驚いているのか、何も言わない。
 そんな驚きも意にも介さず、彼女からのラインは続く。

『ナイトパレードも素敵なんですってね。先に席を取っておくわ』

「……!」
 彼女からの最大のヒントを受けた才悟は、ナイトパレードのコースに沿って探し始めた。