IN THE END・5 - 2/2

 ハスターは、倒れていた。
 自分の矛盾に気づかず、何故こうなったのだろうと考えていた。

 自分はカーミラを愛している。誰よりも強く、誰よりも激しく、誰よりも深く。
 それなのに、何故、彼女は自分と共に行かない道を選んだのだろうか。

 分からない。

 分からないまま、ハスターは外では日が昇るのを感じていた。
「もうこんな時間か…」
 ゆらりと立ち上がると、体の傷を少しずつ癒していく。さっきは不意打ちで大きなダメージを食らったが、自分はイモータルなのだ。太陽の光でもない限り死ぬことはない。
 そして自分には時間がある。カーミラにも時間はある。だがあの暗黒仔には時間はない。ならば時間をかけてゆっくりと、彼女をモノにするだけだ。
 傷が半分以上癒えたところで、ハスターは外に出ようとした。
 が、途中で足を止める。日の光に足を止めたのではない。その光を遮るものがあったから足を止めたのだ。

 知らないうちに、入り口に二人の人影があった。

 一人は白とに地色で装飾された鎧らしき物に身を包んだ、豹を思わせる若者。
 もう一人は、白尽くめの銀髪の少女だった。若者とは違い、彼女はその手に槌に近い杖を持っていた。

 しゃりん

 杖が鈴のような音を立てる。
 その音が合図だったらしく、豹の少年が飛び掛ってきた。慌てて応戦体制を整えようとするが、それより先に彼の爪がハスターを捉えた。
「ッッ!!」
 熱い! ハスターの悲鳴は口の中ではじける。
 並大抵の熱さではない。稲妻に打たれたような短さだが、その痛みは炎の中に手を突っ込んだかのように熱い。応戦に使おうとしていたダークマターの塊は、弾になることなく霧散する。

 しゃりん

 もう一回、杖が鳴る。
 今度動いたのは彼女だ。その手に持っていた杖を大きく振り回し、ハスターの頭を間違えることなく捕らえる。
 頭部に重い一撃を食らったハスターは大きくもんどり打つ。立ち上がろうとすると、視界が急に閉ざされた。

 棺桶の中に閉じ込められたんだ、と理解する間もなく、凄まじいまでの光と熱が彼の意識を闇に落とした。

「これで終わりですね?」
 豹の若者がぎこちない敬語――どうやら慣れていないのだろう――で少女に聞く。白尽くめの少女は、無言で一つうなずいた。

 しゃりん

 三度目の杖の音。ただ二度目までの音と少し違い、それは魔力的な音を帯びていた。
 どうやらその音が一つの呪文だったらしく、少女と若者は転移した。

 後には、少し床が焼けた静かな空間が残っていた。