ハスターは、倒れていた。
自分の矛盾に気づかず、何故こうなったのだろうと考えていた。
自分はカーミラを愛している。誰よりも強く、誰よりも激しく、誰よりも深く。
それなのに、何故、彼女は自分と共に行かない道を選んだのだろうか。
分からない。
分からないまま、ハスターは外では日が昇るのを感じていた。
「もうこんな時間か…」
ゆらりと立ち上がると、体の傷を少しずつ癒していく。さっきは不意打ちで大きなダメージを食らったが、自分はイモータルなのだ。太陽の光でもない限り死ぬことはない。
そして自分には時間がある。カーミラにも時間はある。だがあの暗黒仔には時間はない。ならば時間をかけてゆっくりと、彼女をモノにするだけだ。
傷が半分以上癒えたところで、ハスターは外に出ようとした。
が、途中で足を止める。日の光に足を止めたのではない。その光を遮るものがあったから足を止めたのだ。
知らないうちに、入り口に二人の人影があった。
一人は白とに地色で装飾された鎧らしき物に身を包んだ、豹を思わせる若者。
もう一人は、白尽くめの銀髪の少女だった。若者とは違い、彼女はその手に槌に近い杖を持っていた。
しゃりん
杖が鈴のような音を立てる。
その音が合図だったらしく、豹の少年が飛び掛ってきた。慌てて応戦体制を整えようとするが、それより先に彼の爪がハスターを捉えた。
「ッッ!!」
熱い! ハスターの悲鳴は口の中ではじける。
並大抵の熱さではない。稲妻に打たれたような短さだが、その痛みは炎の中に手を突っ込んだかのように熱い。応戦に使おうとしていたダークマターの塊は、弾になることなく霧散する。
しゃりん
もう一回、杖が鳴る。
今度動いたのは彼女だ。その手に持っていた杖を大きく振り回し、ハスターの頭を間違えることなく捕らえる。
頭部に重い一撃を食らったハスターは大きくもんどり打つ。立ち上がろうとすると、視界が急に閉ざされた。
棺桶の中に閉じ込められたんだ、と理解する間もなく、凄まじいまでの光と熱が彼の意識を闇に落とした。
「これで終わりですね?」
豹の若者がぎこちない敬語――どうやら慣れていないのだろう――で少女に聞く。白尽くめの少女は、無言で一つうなずいた。
しゃりん
三度目の杖の音。ただ二度目までの音と少し違い、それは魔力的な音を帯びていた。
どうやらその音が一つの呪文だったらしく、少女と若者は転移した。
後には、少し床が焼けた静かな空間が残っていた。