まだ「今日」は続く

 夜桜を見終わった後も、「今日」はまだ続く。
 ミソラに連れていかれた場所は、とあるホテルのスイートルームだった。
「VIP待遇でOKもらえる時、人気者で良かったって思うのよね」
 彼女はこう言って笑っていたが、それでもかなりの金を支払っているはずだ。後でこっそり半額入金しておこうと思う。
 そんな事を思いつつ、ソロは電波変換を解いた。
「別に2人で入っても大丈夫だと思うんだけどな」
「スキャンダルで落ちぶれたいなら好きにしろ」
 芸能界入りして長いはずなのだが、彼女はまだこういうのに疎いようだ。周りが必死になって守るのもわかる気がした。

 そんな会話をしつつ、1つのベッドに寝転がったのは、1時間前の事。

「あっ! はぁっっ! あん、やあぁぁぁぁぁっっ!!」
 今はお互い生まれたままの姿になって、深く繋がり合っている。
 自分の腰の上で激しく跳ねるミソラを見ていると、ぞくぞくとして更に喘がせたくなってしまう。
 体を起こして突き上げるように腰を動かすと、ミソラは一層甲高い声を上げて体を大きくのけぞらせた。
「イッ、イッちゃうぅぅぅっ!」
 きゅうきゅうと締め付けられたことで、自分も達してしまう。ミソラがぐったりと倒れてきたので、思わず受け止めた。
 お互い息も荒いしとりあえずは満足したので、そのまま2人揃ってベッドに横になる。
「……ねえ」
 ゴムを処理して息を整えているソロに、ミソラが声をかけてきた。
 くすくすとほほ笑みながら、甘えるように抱き着いてくる。
「ベッドの上だと、すごく積極的になるよね」
「……人の事が言えるのか?」
 思わず呆れた声を上げてしまう。
 そもそも誘ってきたのはそっちで、一回きりと思いきや今もこんな関係を続けている。何故ここまで続けて来れたのかは、ついさっき解ったことだ。
 今考えると、彼女の痴態を知っているのは自分だけという事は、彼女の一部を独り占めできているのではないだろうか。
 ミソラの方も同じことを考えたか、「そんな顔も、私だけの前だよね」と笑った。
「何だかんだ言って、私たちはちゃんと色々与え合っていたんだよ」
「……そうか?」
 改めて彼女の顔を見た。
 最初出会った時よりもだいぶ大人びたが、瞳の明るさは何一つ変わっていない。その輝きで、様々な光を見てきたのだろう。
「オレは何か与えたつもりはない。何もないからな」
 一瞬ミソラの顔が陰ったが、すぐに優しいそれに戻る。
「何もないからこそ、与える事の難しさとか色々教えてもらったんだよ」
 ソロの目が丸くなった。
 何もないからこそ、与えられたものがあった。そんな事は考えたことすらなかったからだ。
 それに引き換え、自分は与えられまい欲しいと思うまいと、彼女からの優しさを全て拒絶していた。ずっと彼女は星河スバルの女だと思っていたのもあったのだが。

「ねえ、ソロは私から何を与えてもらったの?」

 来た。
 何もないなんて言いたくないし、かと言って何を与えてもらったかを言うのは恥ずかしすぎる。
 さて何を言うべきか、まさかセックスの機会なんて酷い事を言うつもりはない。
 結局何一つ思いつかずに黙っていると、そっと頬を撫でられた。
「焦らなくていいよ」
 そんな風に笑う彼女を見ていられなくて、強引にキスで口を塞いだ。
 舌を入れて口の中をひたすらかき回す。深い口づけで翻弄する間に、体勢を立て直して彼女を組み敷く形にした。
 口を離すと、とろりと唾液が零れ落ちる。
 ずるいよ、と蕩けた声で言われ、ソロは深くうつむいた。
「……そういう関係に持ち込んだのはお前だ」
 いずれ変わる日が来るとしても、今はそんな関係だと言うしかなかった。

「あっあっ、あぁぁっ……」
 乳房を念入りに揉み、気まぐれに軽く口づける。
 きゅっと乳首をつまんで引っ張れば、ミソラは更に甘く蕩けた声で鳴いた。
 彼女の声に酔いしれつつも、ぼんやりとさっきの事を考える。
 こうして体を重ねる機会は、自分だけに与えられたものだ。彼女の裸も、歌声とも違う嬌声も、全部自分だけが知る響ミソラの姿。
 だがいつかはそれも失われるだろう、とソロは思っていた。
 ミソラの心の中に星河スバルがいる限り、彼女はいずれ自分の元から離れていくだろうとも。

 なら、今は?

「そ、ソロぉ……ふぁぁ、あん、あ……やあ……んっ!」
 今こうして自分の名前を呼んで、自分の愛撫に酔いしれるこの女は?
 乳首を舐められ、吸われて喘いでいるこの女は?
 胸が苦しくなるほど愛おしいと思ってしまっている、この女は?

 ――今だけは、オレの女なんだ。

 この1日だけ彼女は自分だけを見つめ、自分だけを愛してくれる。
 そしてこの1日が終われば、彼女は自分の元から消えていなくなる。
 自分のような男に、これ以上の幸福はあるのだろうか?
「あっんんっ!」
「イくか?」
「わ、解んないぃぃ……」
 なら、今だけは思うままに響ミソラを自分だけのものにしよう。
 望むままに彼女と一つになろう。
 孕ませることはしないけれど、オスとしての本能のままに彼女を貪りつくそう。
 手始めにつんと勃ちあがっている陰核をつまみ、弾く。どろりとした淫蜜が溢れ、あっという間に指を濡らした。
 もう一度乳首を口に咥え、甘噛みする。
「や、やだぁっ、おっぱいでイッちゃうぅ……、もう、す、吸わないでぇ」
「そのままイけ」
「はぁぁぁんっっ!」
 少し強く吸いつくのと、空いた乳首を同じように強く引っ張る事で、お望み通りにイカせた。
 ミソラの目尻に涙が溜まる。こういう時あいつなら拭うんだろうなとぼんやり思うが、自分は彼ではないので浅いキスでとどめた。
「ずるい、それにえっち」
「お前もな」
「ち、ちが、あん! ……あぅ、そ、そこにキスするのだめぇ……」
 股間に顔をうずめ、濡れた秘部に舌を這わせる。ちゅ、ぐちゅ、とわざと水音を立てて刺激すると、ミソラの体が跳ねた。
 指で少し広げて舌を入れれば、彼女の方も腰を動かして更に快感を貪るようになった。
 淫蜜を軽く吸い、更に気持ちよくさせる。淫らな喘ぎがソロの肉竿を太く固くしていった。
「あぁぁ、ひぁぁ、んぁっ、んんああっ」
 顔は見えないが、声の震えからしてまたイキそうなようだ。そしてこっちも、そろそろ彼女の中に挿れたくなっている。
 ゴムを付けてわざとらしく見せつけると、ミソラがゴム越しに軽く口づけた。
「早く……ちょうだい……」
「ああ、行くぞ」
 一気に押し込むことで、どっと強い衝撃が二人の間を駆け巡る。
「ぉああぁぁッッ!!」
 前戯のおかげか、かなり締め付けられた。勢いよく出しそうになるのをぎりぎりでこらえて、そのまま奥まで埋めていく。
 こつ、と肉竿が最奥にたどり着いた。体を倒して密着させると、それだけで相手の膣内がさらに締め付けてきた。
「動かすぞ、ミソラ」
「あぅぅ、お、お願い……」
 もうダメなの、と蕩けた声で懇願されたことで、スイッチが入った。
 勢いよく腰を動かして、何度も最奥を激しく突く。抜き差しするたびに、ミソラの膣内が逃がすまいと締め付けた。
 まるで、ミソラの方も「今日」を終わらせたくないと言っているかのよう。
「あっ、あぁっ、ひぁぁっ、やぁぁんっ! あううう、ずんずん来て、るぅっ! ソロの、おっきいのがぁぁっ!」
「欲しがってるから、くれてやってるだけ、だ……っ!」
「そ、そうだよぅ! 欲しいんだもんっっ! はぁぁっ!」
 何度も抱いてる身。既に彼女の弱い部分は熟知済みだ。
 なおそれはミソラの方も同じで、激しく乱れつつもタイミングよく膣壁やひっかかりでソロの肉竿を刺激していた。
 ずちゅ、ぐじゅという繋がり合う音、ぱんぱんとぶつかり合う音、淫らな鳴き声。
 激しい抽送も加わり、感情が高ぶっていく。いけない、と解っていても、禁じていた言葉を口走りそうになる。
 ミソラの方はそれほど律していないのか、熱に流されるまま喘ぎ、言葉を紡ぐ。
「そ、ソロ、す……んんぅ」
 彼女の口からその言葉が漏れそうになった瞬間、キスで止めた。
 腰の動きはそのままなので、互いの口からくぐもった声が漏れる。息苦しさもあるが、それがますます快感を引っ張り出してきていた。
「だ、だめ、ぁあん、またぁ、い、んっ、イッちゃうよぉっ!」
「淫乱め……!」
「あっあっ、い、言わないでぇぇぇっ!!」
 お互い限界は近い。
 流されまいと踏ん張っていたが、そんな頑張りすら押し流さんとする快感が、体全体を駆け巡っていた。
「ミソラ……溺れろっ!」
「あぁああぁぁぁ――――ッ!」
 最後の一発で、貯め込んでいたものが全て吐き出された。
 ミソラも達したらしく、一瞬だけ力強く抱きしめてきた後にぐったりと力なくソロから離れる。
 ソロもゆっくりと起き上がり、改めて達したミソラを見る。
 火照った顔に、未だ艶を失っていない体。軽く指を這わせると、吸い付きそうなほどのきめ細やかな肌。
 極上の女だと思う。そして本来なら手を出せない女だとも思う。……だからこそ、閉じ込めてしまいたくなる。
「ん……」
 まだ熱が冷めきっていないのか、指の動きに合わせてミソラが軽くうめく。
「まだイキ足りないか」
「違うよぉ……あぅ」
 わざと乳房の方をなぞると、艶めいた声になる。まだ余裕があるなら、もう1戦してもいいだろう。
 ミソラもそう思ったようで、ソロの股間に着いたままのゴムをひっぺ返して直接亀頭に口づけた。
「そっちもいっぱい気持ちよくなってね」
「……ふん」

 

 まだ夜も明けきらない中、ソロはベッドを抜ける。
 脱ぎ散らかした服を拾って、裸のまま風呂場に向かう。シャワーでざっと汗を流し、服を着た。
 ベッドに戻ると、当然だがミソラは寝ていた。数時間前まで快感にまみれた表情を見せていたのが信じられないくらいの、穏やかな寝顔。
 朝になれば、いつもの国民的アイドルとして仕事に向かうのだろう。
 髪をなでようと手を伸ばしたが、すぐにひっこめた。もう「今日」は昨日になった。自分と彼女の間には何もない。
 それでも。
「……くそっ」
 頭を何度も振って、名残惜しさを消し去った。引きずられるな、と自分に言い聞かせて、スターキャリアーを取り出す。
 部屋を出ようと眠る彼女に背を向けた時、頭の中で昨日の会話が蘇った。

 ――ねえ、ソロは私から何を与えてもらったの?

 昨日は答えられなかった。答えてはいけないと思った。
 でも、答えを置き去りのままにするわけにはいかない。彼女は答えてくれたのに、自分だけずるずると逃げるのは卑怯だと思った。
 眠っているのを確認したのち、ソロは彼女の耳元でこっそりと「答え」をささやいた。

 

 ソロが去った後、ミソラは目を開いた。
 さっきまで寝ていたのだが、ソロの「答え」を聞いて目が覚めてしまったのだ。
「……馬鹿」
 真正面から言ってくれればいいのに。
 熱に浮かされている時でもいい。冗談めかしてでもいい。そういう言葉は自分の目を見て言ってほしかった。
 でもそれはできない。彼自身のプライドと、過去が許してくれない。
 それでも自分のために自身の意思を折ってまで言ってくれたことが、とても嬉しかった。
「馬鹿」
 もう一度、同じ言葉をつぶやく。
 ちょっとだけ甘いときめきを感じつつ、ミソラはまた目を閉じた。

『人を好きになる気持ちだ』

 夢を見る前に、ソロの言葉を頭の中でもう一度繰り返した。