VIPルームには、ぼんやりとした……暗い顔の魅上才悟がいた。
いつもならすぐに飲み干すはずの水も、コップ半分しか開けられていない。水が悪いのではなく、水が見えていないような感じだった。
「魅上くん?」
声をかけてみるが、反応はない。そっと隣に座ると、ソファのかすかな揺れでようやく気付いたのか、才悟がこっちの方を向いた。
「大丈夫?」
「……ああ」
具合が悪そうには見えないが、その表情は暗い。何かあったのかと声をかけようと思った時、才悟の方から口を開いた。
「カオスに、夢を見せられた」
「夢?」
「オレにとって有り得ない、幸せな未来の夢だ。見てはいけない夢だ」
「……魅上くんは、自分は幸せになっちゃいけないって思うの?」
返事は、ない。
「幸せな未来だったんでしょう?」
返事は、ない。
「じゃあ、その未来を目指してみてもいいんじゃない? ライダー以外の未来だって、あってもいいじゃない」
「だが、オレは」
何か言おうとする才悟を、そっと抱き寄せる。額と額がくっつきそうなぐらいに、顔を近づけて。
「魅上くんは幸せになっていいのよ。ううん、幸せになって欲しい。未来だって、いくつも夢見たっていいの」
「……」
「そのためなら、私は何でもするし、何でもあげる。貴方が足りないと思うなら、私の時間も、命も全部あげるから。
だからもうそんな悲しい事言わないで……」
先ほどの敵相手に何があったのかは解らない。だが、才悟はそこで何かを見て、打ちのめされるほどの大きな傷を負ったのだ。
エージェントとして、一人の人間として、今の才悟を放っておきたくなかった。
そんな少女の手に、才悟の手が重ねられる。
「もういいんだ。悲しまないでくれ」
重ねられた手の先を見ると、そこにはかすかな笑みを浮かべた才悟がいた。
「ライダーとしてキミを守れる今が、オレにとって一番幸せなんだ」