気持ちいい風が、顔を撫でる。
そんな風にあおられるように空を見上げれば、青空が広がっている。いい天気だ。
「みかみせんせー!」
後ろから自分を呼ぶ声が聞こえる。その声に振り向けば、小さな子供たちが手を振っていた。
自分を呼んでいたのは、一番前に立っていた眼鏡をかけた子だ。
「まなぶか。どうした?」
「みかみせんせい、あっちでアリ見つけたんだ! アリのすもちかくにあったよ!」
「そうか。先生は気づかなかったから、連れて行ってくれないか?」
「うん!」
まなぶがそう言って自分の手をひこうとすると、右隣の少女が頬を膨らませる。
「まなぶくんばっかりみかみせんせい一人じめずるい! わたしもせんせいとあそびたい!」
「あいこちゃんもそう言ってみかみせんせい一人じめするじゃん!」
「わたしはみかみせんせいのおよめさんだからいいの!」
子供たちが自分をめぐって言い争いを始めてしまった。何とか言い争いを止めるべく声をかけようとした瞬間、
「こらこら、魅上先生が困ってるでしょ?」
別の方向から柔らかな声と手が子供たちを抑えた。
「魅上先生と遊びたいなら順番か、みんなで遊びましょうね」
「あ、せんせー!」
今まで喋らなかった子供が、呼びかけた保育士の少女名前を呼ぶ。その彼女の言葉を受けて、せっかくだからと一つ頷いた。
「みんなでアリの巣を見よう。もしかしたら、アリが巣に運ぶところも見れるかも知れないぞ」
「はーい!」
「ふざけるな」
子供のように甲高い声を上げるガオナを、才悟は拳で殴り飛ばす。
『ミカミセンセイ!』
「先生」付きで自分を呼ぶガオナ。声を聞く限り、自分を保育士として見ているようだが全く興味はない。
最後の1体を倒すと、また脳内に直接声が飛び込んできた。
――じゃあ、これはどう?
「気持ちいい風!」
最近見つけたお気に入りの場所で、少女が微笑む。
ここは高い場所にあるから、自分や彼女が働いている保育所がよく見える。今日は休み故に誰もいないが、平日はそこで子供たちと自分たちが走り回っているのだ。
「気に入ってくれてよかった」
駐輪場にバイクを止めるついでに、荷台に積んだリュックからある物を取り出す。
その動きが気になったか、少女は自分から目を離さない。正直少しでもいいから自分から目を逸らしてほしかったのだが、こうなっては仕方ない。
取り出したのは、指輪だった。
「これって……!」
手を口に当てる少女が愛おしく、つい顔を赤くして目をそらしてしまう。ここで弱気になったらだめだと解っていても、足が震えそうになった。
心の中で自分に喝を入れて、彼女の顔をまっすぐ見つめ直す。
震える恋人の手を取り、その手に指輪の入った箱を置いた。
「オレと、結婚してくれないか」
「ふざけるな!」
エージェントの少女に似たような声を上げるガオナに、今度は蹴りで粉砕した。
『ウレシイ』
『アリガトウ』
「黙れ!」
半壊したガオナはしつこく自分に呼びかけてくるが、それに対しては蹴りと拳で応える。
「オレにそんな未来はない」
――……どうして
「オレにそんな未来は許されない」
――……何故
「こんなのは嘘だ。まやかしだ。オレにある未来はライダーとして戦い、ライダーとして死ぬだけのものだ」
――……あなたは
「オレが生きていい未来があるとしたら、それは……」
――……
「エージェントが許してくれた未来だ」