「ほんと助かったよ。掃いても掃いても全然片付かないからさ」
そう言って才悟を称賛するのは、今回の依頼主である地区内会の一人。季節は秋なので、中央公園で大量の落ち葉を掃いて片づけたいのだが、人手が足りないという理由で、仮面ライダー屋全員に依頼が入ったのだ。
中央公園は広い。なのである程度場所を決めて二人一組で掃いている。才悟も地区内会の一人と落ち葉を掃いていた。
秋は過ごしやすいが、落ち葉の処理を考えると大変な季節でもある。才悟も最初は落ち葉掃きはそれほどトレーニングにならなさそうだと思っていたが、その量と片付ける手間で結構体力を使っていた。自分ですらこれなのだから、伊織陽真たちは大丈夫だろうか。ふと気になった。
と。
才悟の獣じみた視力が、とある人物を見つけた。
凜花が、執事レオンをはじめとした数人の大人を連れてあれこれ話している。ただ凜花はいつもの服とは違い、スーツ姿だ。びしっとしたその姿に、一瞬だけ見惚れてしまう。
「魅上くん?」
地区内会の人が声をかけてきたので、才悟は一瞬びくりとしてしまう。悪い事をしていたわけではないのだが、いきなり声をかけられるのはやはり驚くものだ。特に見惚れていた時などは。
さて。凜花がスーツ姿で男たちを連れているのは、訳がある。別の市からやって来た財閥関係者に、虹顔市を紹介している。なぜ才悟がそれを知っているのかと言うと、昨日それを凜花から直接聞いたからだ。明日はこの仕事があるから、調査には行けないと。なので才悟は今日はトレーニングでも……と思っていたのだが、家に帰ってすぐに地区内会から直接依頼を受けたのだ。
また仕事に戻るついでに、凜花の方に視線を向ける。遠目だからよく解らないが、至って問題なさそうだ。だけど、自分たち相手にしっかりしている凜花だが、大人たち相手にはやや苦労をしているらしい。少し疲れている様子が見えた。
今すぐそっちに行きたい。行って自分が付いていると言いたい。だがそんな事をすれば騒ぎになるだろうし、何より今自分は仕事をしている身だ。近づくことはできない。それでも、力になりたいと心底思ってしまった。
(困った時はオレに言えと言ったけれど)
こんな風に助けられない事がある。そんな時がつらい。そう思っていると。
――目が合った気がする。
当然、自分の思い込みだ。相手がこっちを見たと言う保証は全くない。そもそも自分がいると言う事に気づいていないだろう。だが、確かに目が合った、と才悟は思った。
だから、才悟は彼女の向かって「がんばれ」と口パクで応援した。
本当はもっといろいろ言いたかったし、何より声を出したかった。それらを我慢して、一番簡単で解りやすい言葉だけを送る。届いたかどうかは関係ない。ただの自己満足。
これ以上地区内会の人に何か言われないうちに、才悟は凜花に背を向けた。
仕事が終わり、地区内会の人から芋を貰う。せっかくなので落ち葉を使って焼き芋をやろうと言う事になり、地区内会の人たちにもご馳走することになった。深水紫苑が美味しくなるタイミングを教えてくれたので、美味しく平らげる事が出来た。
あまりにも美味しかったので、凜花と執事におすそ分けしようといくつか残し、ジャスティスライド全員で仮面カフェまで急ぐ。凜花も仕事が終わってるはずだから、仮面カフェに戻っているはずだ。
「あら、いらっしゃい」
「いらっしゃいませ!」
予想通り二人は仮面カフェにいた。タイミングが良かったらしく、客はいない。
才悟たちは四人で顔を見合わせた後、伊織陽真が持っていた焼き芋を出す。
「これ、中央公園の掃除のお礼にもらったやつで作った焼き芋なんだ。凜花とレオンさんにも上げようと思って!」
「あら、くれるの? ありがとう」
焼き芋を受け取る凜花。レオンはその焼き芋の匂いを嗅ぎながら、「本当に美味しそうですね」と嬉しそうな顔になる。
「何か作りましょうか? それともこのままいただきましょうか?」
「せっかくだからそのまま食べてほしいな。上手く焼けたからね」
紫苑がるんるんで手を合わせる隣で、一番多く平らげていた(とは言っても一つ多かった程度だが)蒲生慈玄がこくこく頷く。受け取った凜花たちはそのお勧めを聞いて、「じゃあそうしましょうか」とそのまま一口かじった。
「……美味しい!」
「これはこれは、本当に絶妙な焼き加減ですね!」
二人に褒められて、紫苑は本当に嬉しそうな顔になる。陽真たちも残していた焼き芋を一つずつ取り、もぐもぐと食べ始めた。
皆で美味しい美味しいと食べる中、凜花がそっと才悟の方に近づく。
「皇凜花?」
名前を呼ぶと、凜花が「中央公園って事は、私たちの事見てた?」と聞いてくる。見ていた事をとがめられたような気がして、才悟は胸を抑えた。
「ああ、見ていた。たくさんの大人に囲まれていたな」
「そう」
会話はそこで途切れる。それだけしか聞いてこないので、別に見られていたことに関しては何もないようだ。なら、なぜ聞いてきたのだろう。
凜花は焼き芋を一口かじってから、くすりと笑う。その笑みはほんの少しだけ苦みが混じっていた。
「レオンが付いていたから良かったけど、今日は本当に大変だったのよ。みんないい人ってわけじゃないから、あからさまに『こんなガキが』って態度な人もいたし」
疲れた顔の理由を察し、才悟はまた胸が痛くなる。
どうして傍にいたいと言う時には傍にいられないのだろうか。自分から困った時は力になると言っておいて、実際に困っている時に力になれないのが、とてもつらい。
才悟がしょぼんとした顔になったのを見て、凜花が慌てて慰めるように才悟の頭を撫でながら「でもね」と告げる。
「どこからか、魅上くんが私を見て『がんばれ』って言ってたような気がしたから、私頑張れたの。あれがなかったら、本当に疲れてたかもね」
「……!」
不思議な事もあるものね、と微笑む彼女に、才悟の手がぴたりと止まる。
確かに自分はあの時目が合ったと思った。そして頑張る凜花に「がんばれ」と応援した。相手がこっちを見ているとは思っていなかったし、言葉も届いたとは思っていなかった。本当に、ただの自己満足。
だが凜花は確かに才悟が自分を見て、自分を励ましてくれたと言った。才悟の思いが、届いていたのだ。
胸が熱い。顔も手も、今持っている少し冷めた焼き芋より熱い気がする。
「魅上くん?」
凜花が顔を覗き込むので、更に顔が熱くなった気がした。熱さを覚まそうと顔をぶんぶんと何度も振ってから、実は、と切り出した。
「多くの大人たちに囲まれてて、キミが疲れているように見えた」
今度は凜花が黙る番になった。落ち着きを取り戻すために焼き芋を一口かじったが、味はあまりしなかった。
「だから、『がんばれ』と応援した。キミが少しでも頑張れるように」
「……! それって」
「オレの応援が、キミに届いたんだと思う」
理論は全然解らないが、確かにその時自分の応援が凜花に届いた。才悟にはそうとしか思えなかった。
もう一度焼き芋を一口かじる。今度は公園で食べた時よりも甘い味が口の中に広がっていく。まるでこっちの気持ちを見抜いているかのようだ。
「以心伝心って本当にあるのね」
「以心伝心?」
凜花がぽつりと呟くのを、才悟が拾う。戴天が好きそうな言葉だなと思っていたら、本当に四字熟語の一つで「言葉を使わなくても、お互いの心が通じ合って相手の気持ちが解る事」らしい。なるほど、自分たちの間に起きた事について相応しい言葉だ。
ともかく。自分の気持ちが通じていたのが解って、胸の熱さが少し収まった……ぽかぽかとした感じになった気がする。
才悟と凜花はお互いの顔を見合わせて、ついくすりと笑ってしまった。