エージェントの休日・春

「みんな、空いてる時間はあるかしら」
 年若いエージェントがウィズダムシンクスをはじめとした仮面ライダーたちに呼びかける。
 その切り出し方に懐かしい物を感じつつも、彼らは少女の言葉に耳を傾けた。
「やっと暖かくなってきたでしょう? この機会に『花と煉瓦の街』にみんなを招待したくて」
 春の暖かさが満ちる頃、先代エージェントがよく足を運んだ場所がある。コスモス財閥が中心になって作っている街――花と煉瓦の街がそれだ。
 生活よりも行楽を中心に作られた街は、二つ名にふさわしくいたるところに花が咲いている。一年中花で覆われた街ではあるが、一番華やかな色合いを見せるのはやはり春だと言う。
 そんな色とりどりの花と煉瓦の中にあるのは、街の雰囲気に合わせた店の数々。
 例えば中央通りに近い店はチーズメインの食べ物が並んでいるし、挟んで向かいの方では初老のバーテンダーが好みの酒を並べてくれる。少し離れた金木犀の木の近くでは、深みのある抹茶を立ててくれる和風の茶室も用意されているとの事だ。
「当然、桜もあるから花見もできるわ。でも、騒ぐのは程々にしてね」
 逆に騒ぎを起こさなければ、何をしてもそれほど咎められることはない。例えば、広場で昼寝をしてもいいし、ちょっとした大道芸をしてもいい。
 またここで楽しめるのは花だけではない。街を巡る運河と、その運河を渡るゴンドラも魅力だ。
 運河近くの店で買った料理を持ち込み、流れに身を任せつつ料理や街を堪能するのもいい。昼ならソフトドリンク、夜ならアルコールと飲む物を変えるのもまた、楽しみの一つのはず。
 春のうららかな一日を、世間の喧騒から離れた場所で過ごすのもまた、息抜きの一つとなるのではないだろうか。
「私もここは初めてだから、知らないお店もあるかもしれないの。もし見つけたら教えてね」
 彼女はそう笑う。その笑顔を見ながら、ライダーたちはどんな街なのか思いを馳せるのだった。

 

 広場に足を踏み入れると、男――ルーイが目を覚ました。
「おはようございます」
「んぁ……? ああ、ここは虹顔市じゃねーんだったな」
 声をかけると起きて首をかしげていたが、すぐにここがどこだか思い出したようだ。うーんと身体を伸ばしているが、その目はまだ眠そうではある。
「俺にとっちゃ退屈な街だ。ゲーセンねーし、エナドリも売ってねー」
 さもありなん。この街は娯楽地区と大きく違い、サブカルチャーとは少し縁遠い。自他共に認めるゲーム廃人である彼にとって、この街が気に入るとは到底思えなかった。
 それでも来てくれたのは、仲間に誘われたと言うのが大きいのだろう。何だかんだ言いつつも、彼は自分たちからのお願いには弱いところがある。
「美味しいコーヒーなら売ってますよ」
「知ってる。さっき寄って飲んだ」
 悪くなかったな、と笑うルーイにほっと胸をなでおろす。どうやら全部が全部気に入らなかったと言うわけではなさそうだ。
 二度寝を決め込む彼の元を離れ、近くのガラス細工の店へと入る。そこでは興味深そうにグラスを眺める高塔戴天がいた。気になりますか、と問えば、グラスだけでなくこの街全体が、と答える。
「このような花をメインのコンセプトにしつつ、行楽を主とした純情可憐な街を作り上げる。言うだけなら簡単ですが、実際にやって見せたのはなかなかです」
 大企業の社長らしい視点だった。
 自分はこの街に関してほとんど一般人と同じぐらいしか知らず、微笑んでその言葉を受け取るしかない。戴天もそれが解っているからか、苦笑を浮かべた。
 さてその隣にいるのはやはり社長秘書の雨竜。彼は彼で、並んでいるグラスに真剣な目を向けていた。
「気になるの、ある?」
 似たような質問をすると、雨竜は「どれも気になります」と真剣な顔のままで答えた。可愛い物が好きな雨竜だから、ここのデザインは気に入ったのだろう。
 そんな弟に戴天はくすくすと笑いながら、二羽の小鳥が彫られたガラスのグラスを二つ手に取る。
「兄さん、それは……?」
「たまには兄弟お揃いの物も良いでしょう?」
 戴天はそう言いながらレジに行く。どうやら、この街の思い出が出来たようだ。
 一方Qは珍しく悪戯よりもこの街で売っているスイーツ――グミに夢中だった。
「虹顔市のグミより数が豊富かも!」
 たくさんのグミを手に満面の笑みを浮かべるQ。カラフルなグミが宝石のような輝きを放つ中、一つつまんで口の中に入れれば、鮮やかな色に負けない甘味が口の中を満たす。
「花の形なんて女の子っぽいのが、ちょっとだけマイナスだけどね」
 そんな事を言うQだが、一種の減らず口だと誰もが知っている。その証拠に、彼の手元からものすごい勢いでグミが消えているのだから。
 なお、隣で同じようにカラフルなチョコをつまんでいるのはフラリオだ。同じ店で買ったらしく、グミと同じ色のチョコが多数彼の手に乗っていた。アニメと全く関係のないチョコだが、味で気に入ったらしい。
「そうか? 安くて旨いとかマジ最高じゃねえか」
「キミには聞いてないから」
「何だよ」
 これは一触即発かと思いきや、いつの間にか近くにいたカフェラテを持った颯が「何々~?」と割り込んできた。
「あー、グミもチョコもカフェラテには合うよね! これどこで売ってるの?」
 わざとか素か、天真爛漫な笑顔を浮かべつつ尋ねてくる颯に毒気を抜かれたらしい。Qとフラリオがあっち、と買ってきた店を指す。それを聞いた颯は手に持っていたカフェラテを飲んでから、二人が指した店へと飛び込んでいった。せっかくなので、その後を付いて行ってみる。
「ありがとうございます」
 場の空気をやわらげたお礼を言うと、颯は「何のこと?」と笑って答えた。
「Qたちが食べてたグミとか、僕も食べたかったのは事実だしね」
 確かに。二人が持っていたチョコもグミもとても美味しそうだった。
 せっかくなので一緒に並び、フラリオが持っていたチョコの一つ、ルビーチョコを買ってつまんでみる。たっぷりとベリーが練りこまれた、甘酸っぱいチョコだった。

 花と煉瓦の街を歩く中、二人の「美形」について耳にした。
 一人は白髪の天使のような美貌の男。彼は路地裏に隠されているジビエ専門店であれこれ食べつつ「どこで買った」とか聞いていた、らしい。
 もう一人は黒髪のややエキセントリックな美青年。彼はテラス付きの紅茶専門店で手鏡を眺めつつ、優雅なティータイムを堪能している、らしい。
「美しいのは俺だけで充分だが……話題になっていると言うのは悪くない」
 様々な春薔薇に囲まれた紅茶専門店。
 黒髪の美青年こと神威為士が、薔薇の花びらを浸した紅茶を飲みつつ、その噂について自身の見解を述べる。
 勧められたので紅茶を飲んでみると、優雅で深みのある味がした。正直に感想を述べると、彼はそうだろうと満足そうな笑みを浮かべる。
「紅茶に浮かぶ薔薇の花びらが、ここに映る俺の美しさをさらに引き立てている。その点においてもこれは素晴らしい逸品だ」
 彼らしい評価だった。この付近の店に手鏡も売っている事を伝え、紅茶専門店を出た。
 さて、店を出るともう一人の話題の主である皇紀と出会う。彼の手にはジビエ専門店の物か、ビニール袋があった。
「買ってきたんですか?」
 気になって聞いてみると、ぶっきらぼうに「ああ」と返ってきた。
 皇紀が買ってくるまでのジビエは気になるが、噂で流れてくる限りたどり着くだけでも相当難しいようなので諦めた。気まぐれでくれるような男でもない。
「期待してなかったが、悪くねえ」
 ウィズダムで出すのか、それとも自身で楽しむのか。どちらにしても、この街の物を一つでも気に入ってくれたようなら何よりだった。

 チョコレートカラーの煉瓦でつくられたアーチ橋で、宗雲と魅上才悟を見かけた。
「綺麗なカンパニュラだ」
「ああ。色合い、植え方、どれをとっても見事なものだな」
 どうやら橋に植えられた花について話しているらしい。確かに、橋の方々に咲いた花は無造作に見えて綺麗に整えられている。
「楽しんでますか?」
 声をかけると二人とも満足そうな顔を浮かべた。
「珍しい虫は見つからないが、植物はたくさんある」
 才悟の言葉に宗雲も笑って頷く。彼らにとって店よりも周りの花々の方が魅力的だろう。花より団子と言う言葉があるが、この二人に限っては団子より花というわけだ。
 宗雲がアーチ橋から運河……その先の花々に視線を向ける。
「ここだけではない。街全体で花が綺麗にセットされている。この街の住人がきちんと手入れしているのだろうな」
「最初は職人が指導したらしいです」
「なるほどな」
 ガイドマップの受け売りだ。宗雲も目を通しているだろうとは思うが、彼は何一つ言わなかった。もしかしたら、ウィズダムの新しい展開について考えているのかも知れない。どこまで行っても仕事の虫だ。
 しかしここに来た以上、仕事もライダーの事も忘れてほしいというのが願いではある。素直にそう言うと、「解っているのだが、な」と宗雲は苦笑を浮かべた。
 考えてみれば、花と煉瓦の街もウィズダムも、モットーは似ているのかも知れない。訪れる者たちに最高級かつ夢のようなひと時を。だからこそ、宗雲はこの街の花に目を向けるのかも知れない。
「俺ばかりに目を向けては、彼が可哀想だぞ」
 宗雲がそう言って、自分に背を向けさせる。そこには、いつの間にかいたのか、伊織陽真が自分の持っているハンバーガーを才悟に一口分けていた。
「伊織くん」
「おっ、きみも食べる? 期間限定のレモンソルトスペシャル!」
 そう言ってちぎって渡してくるのは、レモンと肉の匂いが漂うバンズとハンバーグの欠片。薄紫のクロッカスを背負った移動屋台で買ったものだと言う。
「本当はパニーニがメインなんだけど、キーワードを言えばハンバーガーとかも提供してくれるんだってさ!」
 この街の住人か常連しか知らない裏メニューの一つだが、仲良くなった住人からキーワードを聞いたと陽真は話してくれた。相変わらずのコミュニケーション能力だ。
 口に入れてみれば、名前通りレモンと塩のさわやかな香りと味が口の中を満たす。一個丸ごと食べてみたくなるが、彼からキーワードを聞き出すのは反則な気がして、感想を述べるにとどめておいた。しかしパニーニは後で食べようと心に決める。
 同じく陽真からハンバーガーの欠片を食べていた才悟が、「少し歩くか?」と食後の散歩に誘う。あなたから誘ってくれるなんて珍しい、と正直に言えば、才悟の顔に少しだけ赤みが入った。
「キミが宗雲や伊織陽真と楽しそうに話しているのを見て、オレもそうしたいと思った」
 そうして二人は手を繋いでアーチ橋を渡る。言葉数の少ない彼だけれども、こうして歩くだけでも幸せな気分になるのは、この街だからなのかもしれない。
 言葉少ないながらも楽しそうに歩く二人を、色とりどりのツツジが祝福していた。

 浄たちからカフェ・クルーズのお誘いを受けたので、応じて一緒に乗りこむ。
「本当は二人で乗りたかったんだけどね」
 苦笑いを浮かべながら、苺とホイップクリームがたっぷりと乗った二段重ねのスフレパンケーキにフォークを刺す浄。
「ここのクルーズは時間制だし、待ってたら夜になっちゃいそうだったから……」
 シナモンがまぶされたきつね色のベイクドチーズケーキを口にしつつ、同じく苦笑してしまう深水紫苑。
「まさか俺達三人、同じタイミングで誘うとは思ってなかったよ」
 色とりどりのチーズが練りこまれたクラッカー詰め合わせを受け取った阿形松之助が、がりがりと頭をかいた。
 三人は組んで誘ってきたのではない。それぞれがエージェントを誘った結果、四人で乗り込むと言う妥当な結末に落ち着いたのだ。
「考えることは皆同じ、ですね」
 少女が笑って大きな苺の乗ったショートケーキを一口食べると、三人が声を出して笑う。
 街の運河をゆるりとめぐるカフェ・クルーズ。当然、見覚えのある人影も何人か見かけた。やれあそこで誰々を見た、やれあの店で一緒に美味しいスイーツを食べた、エトセトラエトセトラ。オーク木材のテーブルがそんな話で盛り上がる。
「僕らはいつでもこうして遊びに行けるってわけじゃないから」
 あなたの誘いはいつだって嬉しい、と紫苑が付け加える。タピオカミルクティーをパープルのマドラーでくるりとかき混ぜると、甘い香りがほのかに漂う。
 松之助も「俺も同じだ」と言って、抹茶オレを一口飲む。普段は誘うことが多い自分だけど、誘われることも嬉しいし、何より自分たちのために身を粉にして働く少女が、少しでも癒されるのを見るのに幸せを感じる、とも。
「思い思われ、そうやって絆を紡いでいく。君らはいい関係を築けているようだ」
 一人だけ軽めのリキュールを飲む浄がくすくすと笑う。そう言って他人のふりをするのは良くないですよ、と言い返してやれば、浄は手厳しいねと肩をすくめた。
 大輪の薔薇を咲かせるアフターヌーンティーが運ばれてくると、それぞれが気になる物に手を伸ばす。例えば松之助は一番下の段に置かれたピクルスが挟まれたサンドイッチだし、紫苑はエージェントの少女と一緒に二段目のオレンジのムースを取る。一番上の段に置かれた市松模様のクッキーは浄が手を伸ばした。
「こうしてクラス関係なく笑い合えるような機会を、もっとたくさん作れればいいんですが」
「充分さ」
 小さな子供をあやすように、松之助が少女の頭を撫でる。そんな様子を見て、紫苑がふふっと軽く笑った。
「頑張り過ぎると、彼が心配するからね」
 含みのある言葉だが、誰の事だかすぐに解ってしまうのが恥ずかしい。おそらく該当する人物はくしゃみをして、隣にいるであろう親友に何故と問いかけているだろうが。
「全く、君たちは本当に仲がいいね」
 浄もそれに合わせてか、からかうように言ってくる。この場合における「君たち」が誰と誰を指すか……想像に難くなかった。
 カフェ・クルーズはゆっくりと街を巡る運河を渡る。その間、彼女たちの座る席に笑いが絶えることはない。
 穏やかな心地のまま、夢のような時間は続くのだ。

 クルーズを降りてから適当に歩いていると、大きな金木犀の木に見守られるかのような団子屋を見つける。そこにいたのは、蒲生慈玄とランス天堂だった。
 二人が手にしているのは三色団子と桜餅。日本の和菓子だ。
「日本の和菓子もちゃんと売ってて良かったよ」
「ああ、味も最高だ」
 山吹に囲まれたベンチに座り、和菓子を堪能する二人。声をかけると、二人は笑って返事してきた。
「ここはどうやって知ったの?」
「街の住人に聞いたよ。せっかくだから、桜餅を食べてみたいってね」
「俺も同じだ。和菓子メインの店はないか、とな」
 二人とも似た内容の質問をして、ここを勧められたらしい。ここで出くわした時は逆に笑ってしまった、とランスが付け加えた。
「お勧めはあるかしら?」
 そう聞くと慈玄は羊羹、ランスはイチゴ大福を勧めてきた。
 緑色に透き通った羊羹はその色の通り抹茶をベースにしたもので、イチゴ大福はぽってりとしたイチゴ1つ丸々入れた物らしい。サイズと値段もお手頃で、一休みの身体にはちょうどいい代物だ。
 座って食べると、歩き回った身体に程よく甘みが広がる。お茶が欲しいなと思っていたら、慈玄がそっと冷たい粗茶を出してきた。
「この後何か予定はあるの?」
 粗茶を飲みながら尋ねると、ランスは笑いながら歩きながら考えると答える。
「実はここ以外にも和菓子を出してくれる店があるって聞いたからね。そこに行ってからは……自由行動さ」
 花に囲まれての読書もいいかもね、と付け加えると、慈玄が「それも悪くないな」と乗る。
「俺はここに来る前に見つけた古本屋で本でも探してみる。品揃えには期待しないが……面白い本が見つかれば、ランスが言ったように適当な場所で読書もいいだろうな」
「古本屋? それは知らなかったよ」
 どうやらランスと慈玄、ここにたどり着いたルートはそれぞれ違っていたらしい。是非とも連れて行ってくれとランスが頼み込むので、慈玄も「そっちのいう和菓子の店も紹介してくれるなら」と条件付きで呑む。どうやらこの二人は、この街でずっと一緒に行動することが決まったようだ。
 その二人と別れて中央広場の方に戻る。赤白黄色のチューリップが咲くのを眺めつつ歩いていると、陽気なギターの音楽と歓声、そして拍手が聞こえてきた。
 音に釣られて行ってみると、プリムローズ咲き乱れる小さ目な広場で、久城駆が皆に手品を見せている。その隣では、海羽静流がギターで聞き覚えのある音楽を奏でていた。
「ワン・ツー・スリー!」
 駆の景気のいい掛け声とフィンガースナップ。二つの「魔法」で、コインが一輪の造花の薔薇へと変わる。気障な仕草で近くの女性に手渡すと、女性はきゃあきゃあ言いながら、足元に置かれた静流の帽子に小銭――おひねりを入れた。
「もっと見たい、聞きたいなら、お気持ちを入れてくださいねぇ~♪」
 ギターをじゃかじゃか鳴らしながら、静流がお気持ちことおひねりを要求する。その言葉に応じて、観客が自分の思うような小銭を投げ入れていた。少女もこっそりいくらかの気持ちを小銭にして投げ入れる。
 おひねりを貰ったことで駆のマジックショーはアンコールと相成った。何回か見た事のあるカードマジックが繰り広げられ、観客の度肝を抜いていく。
 前よりも大きな拍手を受け、駆と静流はぺこりと頭を下げた。
「これにてマジックショーは閉幕、ありがとうございました!」
 満足した観客はさらにおひねりを投げ入れ、それぞれ散らばっていく。後に残るのはエージェントの少女と駆、静流の三人だけだ。
「お疲れ様です」
 声をかけて再度小銭を入れると、二人はにかっと笑う。帽子の中は小銭でいっぱいで、かなり稼いだようだ。
 そのうちの一枚を手にしつつ、駆がぽりぽりと頭をかく。
「最初はバーで飲んでたら金が無くなっちまってな」
 ツケの代わりにマジックを披露していたら、バーのマスターだけでなく客までが興味を持って集まって来たらしい。そこで一緒に飲んでいた静流を巻き込んで、大道芸の一つとして簡易マジックショーと相成ったわけらしい。
「おかげでツケにせずに済むどころか、祝勝会ができそうなぐらい稼げたぜ」
「ちょっとちょっと。それでまた飲み過ぎてお金ないないになっても、俺助けないよ?」
「そっちこそ、酔い潰れても助けねぇぞ」
 一緒に酒を飲んだこととマジックショーで、お互いすっかり意気投合したようだ。顔を見合わせて、大きな声で笑い合う。あいにく自分は酒は飲めないが、飲める者同士で解り合うものがあるようだ。
 なら次はつまみでも、と誘えば、それもありだなと彼らは笑う。
 目指すは中央通り近くのチーズ店。そこで酒のつまみに合いそうなチーズをじっくりと探すのだ。

 空に赤みが入るころ、ライダーフォンが鳴った。
 電話の主のナビゲートの通りに歩けば、奥まった場所にある店……プロテイン専門店にたどり着いた。
「絶対あるって思ってたんだよ!」
 そう言って笑うのはナビゲーターこと荒鬼狂介。なんと彼は、丸一日ずっとこの店を探し出すことに専念していたらしい。
「チャラチャラしたのは俺様には合わねェと思ってたんだけど、最初会ったじいさんに『そう言う事ならお勧めの店がある』って言われて、ずーーーっと探してたんだよな」
 曰く、知る人は片手で数えられるほどしかいないという幻の店。花と煉瓦の街に合わせた調合をしつつも、スポーツ選手などに向けたちゃんとした物を提供するというらしい。狂介はそれを執念で探し当てたと言うわけだ。恐るべし執念、である。
 早速作ってもらったのは朝摘みレモンスムージーのプロテインドリンク。狂介はそれを半分まで飲み干すと「たまんねェなぁ!」と満面の笑みを浮かべた。

 それぞれがお目当ての物を見つけ、笑顔になる花と煉瓦の街。
 世界に危機は迫れど、花は決して絶えることなく咲き続ける。
 だからこそ、春の陽気と花は確かにライダーたちの心を癒していた。