出会ってからずっと、キミは色んな事を教えてくれた。
知らなかったこと、知る気のなかったこと、教わらなかったこと、教わる気のなかったこと、様々。
いつしかキミに聞くことが日常になり、アカデミーで学んだことよりもキミから教わったことの方が多くなった気がする。
何でも知ってるわけじゃないよ、とキミは笑うが、オレはそうは思わない。少なくとも、オレよりかははるかに色んなことを知っている。
だからこそ、キミが教えられないと言った時、何かがぐらりと揺れるのを感じた。
キミだって知らないことはある。そんなのは知っている。
だけど、知りたかった。誰でもない、キミの口から話してほしいと心から思った。
事の発端は、大分前。
ランニング中に、見知らぬ男と笑うキミを見た。
曰く、道案内していただけだと言う。
キミは嘘をつかないから、きっとそれが真実なのだろう。だけど、心のどこかに暗い何かが沈んだ。
あの時キミは笑顔だった。オレと一緒の時と変わらない笑顔で、道案内をしていた。それが何故か引っかかってしまった。
次に気になったのは、ピクニックに行く前の買い物の時。
伊織陽真が誘ってくれたから、とキミは言った。
その時、何故かこう強く思った。
――オレが誘ったらどうしたんだ?
優しいキミのことだから、きっと笑って「いいよ」と答えるんだろう。だけど、何故かその未来を信じきれないオレがいる。
忙しいから、カオストーン探しをするから、家のことがあるから。そう言って、笑って断るキミを見たら、オレはどうすればいいんだろうか。
いつものように立っていられるんだろうか。
ピクニックが終わった帰り道、キミはいつかオレに楽しいと言う気持ちを教えると約束してくれた。
嬉しかった。
だけど、本当に知りたい感情については教えてもらえなかった。教えられない、と言われた。
何故か顔を赤くした彼女が、私だって何でも知ってるわけじゃないと言ったけど、それでもオレは悲しかった。
教えてほしかった。完全な答えじゃなくても、キミの口から聞きたかった。
心のもやもやは大きくなり、動けなくなりそうだった。
トレーニングルームに行ってトレーニングに打ち込もうとしても、腕が動かなかったくらいに。
キミの言葉が聞きたい。
キミの気持ちが知りたい。
心のもやもやを、振り払ってほしい。
それだけが頭を占めて、動けなくなりそうだった。
こんな気持ちは初めてだ。
教えてくれないか。
今オレの中にあるこの気持ちは、いったい、何だ?