寝ただけでは説明できない乱れたシーツ。
散乱した衣服。
お互い生まれたままの姿。
説明無用。言い訳不可能。どう見ても、これは。
(……魅上くんと)
(……エージェントと)
――エッチしてしまった。
落ち着け、とエージェントは裸の身体を抱きしめる。
(どうしてこうなったんだっけ……)
記憶を掘り出して、原因を探る。
確か昨日は才悟と飲んだ。そう、二人とも飲める年になったから酒を飲んでみたのだ。
お互い不慣れなので酒の味がよく解らない、いつも飲んでる水の方が美味しく感じる、などなど。いろいろ話して笑い合ったのを思い出す。
それでも飲んでたらお互い酔いが回ってきたらしい。ぼんやりとしてきた。その時の会話は……。
落ち着け、と才悟は必死になってエージェント……恋人から視線を逸らす。
(どうしてこうなった……)
記憶を掘り出して、原因を探る。
確か昨日は彼女と飲んだ。彼女が酒を飲める年になったから、一緒に酒を飲んだのだ。
自分たちの舌に合うカクテルを作ってもらったものの、いまいち旨いと感じられなかった。舌が酒に慣れていなかったのだろう。
「魅上くん、味解る?」
「いや、いまいち解らない……」
「私も……」
「海羽静流はこれが旨いと言っていたが」
「やっぱり飲み慣れてるからかしら?」
それでも飲み進めていればいつかは慣れる、と執事に笑われ、何回か杯を重ねた。そして。
「何かぼんやりしてきた」
「私も」
これ以上は無理だと判断して、切り上げたのだ。
(それから……)
「大人になったって言っても、実感が湧かないわね」
水を飲みながら自分がそう言うと、才悟も確かに、と頷いてくれた。大人と言っても子供の延長線。酒が飲めたりと出来る事は増えたが、やる事自体は変わらない。
現に酒を切り上げたのも、明日の調査の事を考えての事だ。だが、時間を見ると家に帰るには少し遅すぎた。
「そろそろ帰る」
才悟が立ち上がるが、飲み過ぎたか少しふらついている。この状態で一人で家に帰らせるのは危険な気がした。
レオンに車を出してもらおうか。そう思ったが、彼は店の奥に引っ込んでしまっている。自分の我儘で呼ぶのは気が引けた。
「今日はこっちに泊まる?」
「え……」
提案すると、予想外だったらしく目を丸くした。
「今日はこっちに泊まる?」
そう聞かれた時、相手の正気を疑った。
酔っ払った男を自分のテリトリーに入れるという意味を、彼女は解ってるのだろうか。
これがしばらく前の自分なら解ったと答えるだろうが、いろいろ知ってしまった今、その誘いがどれだけ危ないかを解ってしまっている。
どうすればいい。考えたいが、酒のせいで頭が回らない。あれこれ悩んでいるうち、彼女はあれこれと話をまとめてしまっている。もう自分がこっち……仮眠室で寝るのは確定のようだ。
(仮眠室でも少し話して)
(大人になって出来る事とは何だろうと話して)
たどり着いてしまった。
(その答えに)
そして気づいてしまった。
――誘ってしまった。
――誘いに乗ってしまった。
服を脱いだのか、それとも脱がされたのかは覚えていない。
気づけばお互い生まれたままの姿で、ベッドの上に座っていた。
恋人とは言え自分の全裸を見せるのは恥ずかしかったし、相手の全裸を見るのも恥ずかしかった。
鍛えられて無駄のない身体。幾多の戦いの傷跡は、更に胸を高鳴らせた。
そっと押し倒され、深く深く口づけられる。これからの事を考え、思わず身を固くしてしまった。
服を脱いだのか、それとも脱がせたのかは覚えていない。
気づけばお互い生まれたままの姿で、ベッドの上に座っていた。
恋人の裸はとても柔らかそうで、何より綺麗だった。自分の貧相な妄想を遥かに上回るくらいに。
傷一つない清らかな身体。今までそんな身一つで自分たちを支え、守ってくれたのだと思うと胸に来るものがあった。
そっと押し倒し、深く深く口づける。これからの事は成り行きと情熱に任せよう。そう思った。
それから先の事は、あまり覚えていない。
ただただ熱に浮かされ、狂ったように互いを求めた。
これから、キミの初めてをもらう。
そう言われた時、改めて大人になったのだと実感した。だから「いいか?」と聞かれた時、ためらうことなく頷いた。
貫かれた瞬間、痛みに顔をしかめてしまったが、歯を食いしばって耐えた。これくらいの痛みで泣いていたら、彼を心配させてしまうから。
大丈夫、と笑うと、彼は少しだけ泣いた。
これから、キミの初めてをもらう。
そう言った時、改めて恋人を抱いているのだと実感した。ためらわずに頷かれ、身を固くしてしまった。
貫いた瞬間、彼女の顔が痛みに苦しんでいたが、もう止められなかった。本能が、もっと寄越せと騒いでいたから。
大丈夫、と微笑まれ、自分は少しだけ泣いてしまった。
本当の意味で一つになった瞬間、このまま溶け合いたいと思った。
もう理性による歯止めは役に立たなくなった。ただ、愛があると思った。
一緒にいこう。
そう言ったのはどっちだっただろう。
涙や汗、体液でシーツを濡らし、初めて完全に達し合った。
(痛かったのに、すごく気持ち良かった)
お互い初めてのはずなのに、あんなに気持ちよくなるとは思わなかった。
思い出すだけで身体の奥がきゅんきゅんとうずき、まだ足りないとさえ思ってしまう。油断すれば今もまたやりたい、なんて思ってしまいそうだ。
(それなのに……)
(最高だったのに、まだ足りないと思ってしまった)
体力に自信があったからか、へとへとな恋人に対して自分は起き上がる余裕があった。
自分のモノはまだ足りないと言わんばかりにそそり立ち、恋人を欲していた。明日の事を考えればもうやめるべきなのに。
それなのに。
「もう一回……」
(もう一回ヤッちゃったのよね……)
(もう一回ヤッてしまった……)
全てを思い出し、手で顔を覆った。
最後の辺りは半ば意識が飛んでいて、条件反射で動いているような感じだった。
それでも繋がっていると言う嬉しさだけは残っていて、離れる事を嫌がっていたような気がする。
勢いでエッチしてしまったが、後悔はしていなかった。それだけは確かなのだ。
だから今、こうして恥ずかしい思いをしているのだが。
全てを思い出し、頭を抱えた。
最後の辺りは半ば本能で動いていて、ただただ彼女の中で達することだけを考えていた。
快楽に溺れきったわけではないと思う。愛する恋人でなければ嫌だった。
決して勢いで二回戦目を始めたわけではない。それだけは確かなのだ。
だから今、こうして穴があったら入りたい衝動と戦っているのだが。
恥ずかしくて、恋人の顔が見れない。
相手が何を思っているのか聞きたいけれど、何を言われても恥ずかしいのは確かだ。
だが、このままではいられない。そろそろ起きないと、執事か誰かが来て大騒ぎになってしまう。執事は口が軽いところもあるから、あっという間にライダーたちの間に広まるだろう。
覚悟を決めなければならない。
勇気を振り絞り、そっと相手の方に視線を向けた。
「あの!」
「おい!」