シャッターチャンス

 最初に気づいたのは、伊織陽真だった。

「あれ、このアルバム……」
「どうしたの?」
 深水紫苑がひょこっと覗き込む。何だ何だと魅上才悟と蒲生慈玄も覗き込むが、三人とも陽真が気づいたポイントには気づいてなさげだ。
「いや……あの子の写真が一枚も載ってないなって」
 ここで言う陽真の「あの子」とは、自分たち仮面ライダーを支えるエージェントの事だ。先ほど自分たちの写真を撮ってくれた、若い少女。
 その彼女は今、席を外している。食べていた料理の皿を下げるついでに、他の客の注文を取りに行ったのだ。その間、写真からアルバムの話になり、レオンがそのアルバムを持ち込み四人で覗き込んだ。そして冒頭の陽真の言葉に至るわけである。
 さて問題のアルバム。見てみれば、確かに彼女だけが写った写真は一枚もない。陽真が言った通りである。
 とはいえ、本当に一枚もないわけではない。遠いながらも写っているのもあれば、母親らしき女性と写っているものもある。ただし、どの写真も表情はお世辞にもいいものではなかったが。
 四人が揃って彼女の執事であるレオンに視線を向けると、レオンは眉根を寄せて「実は」とその問いに答えた。
「お嬢様は写真が苦手なようなのです。撮るのはいいのですが、撮られるのは嫌がられまして」
 撮るのはいいが撮られるのは嫌。我侭な気もするが、自分の見た目に自信がなかったりと事情があったりもするので一概にそうとは言えない。
「私としては今後の事も考えて一枚は用意したいのですが、あれこれと理由をつけては逃げ回られてばかりで困ってるのです」
「へー……」
 誰かが相槌を打つ。
 と、止まりかけた空気を動かすように、陽真が手を叩いた。
「じゃあおれ達でその写真、撮ってこようぜ!」
「何?」
 慈玄が食いつくと、陽真は待ってましたとにこにこ笑顔で今思いついた考えを話した。
「スマホでも使い捨てカメラでも何でもいいからさ、それぞれみんなであの子の写真を撮ってくるんだよ。四人もいれば一枚はいい写真が撮れるだろ?」

 と言うわけで。
 半ばノリもあって、仮面ライダー屋の次の仕事(?)は「エージェント嬢の写真を撮る」ということになった。
 四人とも写真に詳しくはないモノの、最近のスマホはカメラにも負けないほどのいい写真が撮れる。そう思っていた。

 ……それが浅はかだったと思い知るのは、そう遅くもなかった。

 深水紫苑は被写体との距離の長さに悩み、
 蒲生慈玄はうっかりフラッシュを炊くわピンボケを起こすわのドジを繰り返し、
 伊織陽真は逃げ回る被写体を撮ろうとしてはブレてばかり。
 魅上才悟に至ってはあろうことか本人に「写真を撮らせてくれ」と頼んで断られる始末。
 そんなドタバタの末、失敗写真がスマホにたまり続けてしまった。

 それでも。
 諦めきれずに写真に挑戦し続けた結果、誰が撮ったか解らないが、二枚ほど綺麗な写真が入り込んでいた。

 それは仮面ライダーたちのトレーニングに付き合う少女の真剣な顔と、同じくライダーたちに囲まれて幸せそうに笑う少女の顔だった。