鳴り響くベルに、仮面ライダー才悟は足を止めた。
たくさんの生徒たちが校舎に吸い込まれていく。どうやら朝の登校時間のようだ。
『今日授業終わったら何する?』
『はー、やっと朝練終わった~』
『おい、そろそろ校門閉めるぞ!』
『やだなー、宿題済ませてなーい』
放課後の予定を話し合う者、朝の部活が終わった者、授業を憂う者、生徒たちを追い立てる者……。その流れに乗りながら、才悟も校舎へと歩みを進めていく。おそらくこの世界の主は校舎にいる。
そんな中、見覚えのある影を見つけた。
「魅上くん、授業終わったら博物館の特別展見に行こうよ」
聞き覚えのある声が、自分の横を通り過ぎる。
その声に釣られて視線を向けると、制服を着たエージェントの少女の後ろ姿があった。そしてその隣には、似たような制服を着た自分の姿。瞬時にカオスワールドが生み出した幻だと察し、少女を引き留めようと一歩踏み出すが。
『ああ。特別展の後は近くの店で食べて行こう』
明らかに自分が言わない言葉。――自分には、思いつかない言葉。
あそこにいたのが自分だったら、きっと「何故」と言って彼女を困らせる。何故なら、誘ってくる理由が解らないから。だが今彼女の隣を歩く「自分」は、彼女が誘ってきた理由を理解して、その次の予定も組んでいる。それも至極当然にだ。
……解っている。あれは幻で、自分ではない。もっと言うなら、自分以外の誰かが想像した「魅上才悟」だ。なのに。
(オレよりも、あの人の事を理解している)
そう思えて仕方がなかった。
「待て!」
ふり絞るように声を上げ、急に重くなった足を上げて彼女の元に急ぐ。校舎内に入れてはいけない。本能が鳴らすアラームに、素直に従った。
制服の少女がこっちの声に気づいた瞬間、才悟はその腕をつかむ。
「え? え??」
困惑する少女の隣で、「魅上才悟」……ノイズまみれのガオナが振り向く。自分の顔を殴ることに困惑を覚えつつも、才悟はガオナを殴り飛ばした。
「あ……」
ようやく手品のタネが解ったらしい彼女が、目を瞬かせながらも才悟に近づく。ガオナが倒されたことで、正気に戻ったようだ。
「ごめんなさい、カオスワールドの幻に囚われていたのね」
「ああ。でももう大丈夫だ。主を探そう」
「ええ」
ようやく本来の目的を思い出した少女は、迷うことなく校舎へと駆け出す。
才悟は後を追わず、ガオナが消えた場所を改めて見た。
「……サヨウナラ。もう一人のオレ」
その言葉は、誰にも拾われることなく、カオスワールドに溶けて消えた。