適当に歩いては気になった場所を覗いていると、たくさんの人が集まっているのが見えた。
目を凝らして見ると、屋台が並んでいるようだ。祭りでもないのにこの数は結構珍しい。
「行ってみる?」
隣の才悟に聞いてみれば、彼も興味津々らしくこくこくと頷いた。
屋台はお約束のたこ焼き、お好み焼き、焼きそばはもちろん、綿あめやりんご飴などもずらりと並んでいる。珍しいものではジャンボ串焼き、ベビーカステラなどもあった。
「あれは何だ?」
その中で才悟が興味を示したのはシャカシャカポテト。ファストフード店でも出ているメニューだが、才悟は知らないようだ。
「気になる?」
問うてみれば、彼はこくりと頷く。幸いその店は並んでなかったので、すぐに注文することが出来た。
数ある粉ソースの中からバーベキューを選び、揚げたてほやほやのフライドポテトを受け取る。才悟が興味深そうにのぞき込む中、粉ソースを袋の中に振りかけた。
「ふりかけ? いや、カップ焼きそばの粉ソースか?」
「どっちも不正解。これはね……」
袋の端を折ってふたを閉めると、勢いよく振る。名前の通りシャカシャカと軽快な音をしばらく鳴らしてから、ふたを開けた。
「食べてみて」
香ばしい匂いが辺りに広がる。その匂いに誘われて、才悟が1本ポテトを取り出して口に入れた。
もぐもぐと咀嚼、そして……。
「……旨い」
「でしょう?」
一度食べるとやみつきになったか、才悟はひょいぱくとポテトをつまんでは食べる。気づけば、彼の指はバーベキューの粉まみれだ。
才悟もそれに気づいたらしく、粉をぺろりと舐める。汚いわよ、と笑ってソースをハンカチで拭ってやれば、「ありがとう」とお礼が返ってくる。
「箸で食べるのが正しい食べ方なのだろうか」
「ああ、ルーイさんならそう食べるでしょうね」
そんなことをのんきに話していると、ポテト屋の隣にいた店主が「そこのお二人さん」と声をかけてきた。
「よかったらうちの綿あめ食べてかない? 最後の一個だから、ただでいいよ」
「え、いいんですか?」
「いいのいいの。カップルで仲良く食べな!」
「カップル……」
思わず顔を見合わせる。才悟は相変わらずいつもと変わらない顔ではあるが。
いろいろ言い訳したかったのだが、店主は自分たちに綿あめを押し付けて店じまいの支度に入ってしまった。もうこちらの言葉は届かないだろう。
残されたのは綿あめのみ。
「た、食べる?」
「……ああ」
綿あめは1つ。自分たちは2人。仕方ないので、ちぎって一口ずつ食べていった。
「不思議だ。この前食べたやつよりも甘い」
この前。つまりカオスワールドで展開されていた文化祭の事だ。あの綿あめは虹色をしていたらしいが、これは普通に白の綿あめだ。
自分は久しぶりの綿あめだが、その時の味はもう覚えていない。でも、それほど変わっていない気がする。
「キミと一緒に食べたからだろうか」
ふと呟いたような才悟の言葉に、思わず顔を赤らめてしまった。
それから数時間後。
デートを終え、自宅に戻ってきたタイミングを見計らったかのように、ライダーフォンが鳴った。
『やっほー! 才悟今帰ってきたぜ!』
陽真だった。どうやら才悟の帰宅を知らせるために電話をかけてきたらしい。
「こっちも今帰ってきたところよ」
『そうかー。良かった。デートどうだった? 才悟、変なとこなかったか?』
「強いて言えば服装ぐらいかしら」
『あー、あれは止めるべきだった。マジでごめんな』
「いいわよ。それに……」
『それに?』
「デート楽しかったし、何より嬉しかったから」
ついつい笑いながら言うと、電話の先の陽真も「そっか」と笑って返した。