ダークパレスでは、異変が起きていた。
自分たちの主であるアゼルが行方不明になったのだ。
原因を追究しようとする配下たちだったが、セントラルタウン付近で出没した謎のデビル――グールへの対応で忙しくなり、結局原因は突き止める事はできなかった。
ただ、ここまできてようやくアゼル派のデビルたちも気がついた。
今、ここではとんでもない事が起きているのだと。
グールは、地上や天界でも出現し始めていた。
*
地上。サン・ミゲル。
「一体何なんや!」
ザジが叫びながら太陽結界を強化する。が、グールたちはその結界を強引に破りながら前進してきた。
「魔界にいるジャンゴたちに何かあったのかもしれないわよ!」
まだ天使状態のアルニカが爪でグールを切り裂きながら、ザジの問いに答える。
彼女の答えに、翔に抱えられたおてんこさまが空を見上げた。
「おてんこさま……」
「ノルンの選択か……!」
その言葉に、ザジはあの星読みを思い出した。
救世の名の下に、ヒト選ばれる時
世界は新たな姿を見出さん。
今、まさに選択の時が来ているのだろうか。
「サバタ、ジャンゴ……!」
ザジは心細くなり、おてんこさまと共に空を見上げた。
*
天界。エタニティパレス。
「街に謎のデビルだと!?」
「光の魔法で応戦しろ! 戦える者は全員出せ!」
当然、ここでもグールが出てきていた。
ここに残っていたナガヒサと嵩治はコスモスシティにとどまらず、クリスタルリングやグラスフィールドを回ってグールを倒している。
ミカエルはエタニティパレスで指示をとり続けていた。息子が前に出て戦っているのだが、自分はあえてここで指揮官として戦っている。
一通りの指示を終えると、窓に近づいた。
空にある星もこれからの異変を察知しているのか、どこか焦ったきらめきを放つ。
「始まったぞ、ルシファー」
ここにいない、旧知の男に話しかける。
「もはや我らにできることは残り少ない。……あとは子供たちの判断次第だ」
*
リタたち女性陣はダークパレスの中に飛ばされた。
「きゃあっ!」
声色こそ違うが、全員同じ悲鳴を上げた。
一番最初に立ち上がったのはエレジーだ。すぐにあたりの気配を探るが。
「親父の気配がない!?」
「ええっ!?」
エレジーの言葉に、未来が目を丸くする。エレジーの父親、つまりアゼルはこのダークパレスの中にはいないということになる。
「姫様!」
困惑している女性陣に、一人のデビルが話しかけてきた。エレジーの付き人であるアスモデウスだ。
「アスモデウス! どうした!?」
エレジーが返事をすると嬉しそうに顔をほころばせるが、すぐに顔を引き締めた。
「姫様、アゼル様が姿を消しました! それと同時に、セントラルタウンにもグールが!」
「なんですって!?」
驚きの声を上げたのはドヴァリンだった。アスモデウスはドヴァリンの方を見てちょっと首を傾げるが、エレジーがいいからと言わんばかりに首を振る。
「他の連中はどうした!?」
「ルシファー派のデビルはそろってルシファー様を探しています。ですが、アゼル派のデビルはアゼル様がいなくなったことで混乱していますね。
セントラルランドの異変と相成って、指揮系統が混乱しています」
エレジーはその報告を受けてしばらく考えていたが、「なら私が指示を出す!」と顔を上げた。
「姫様!? それは無茶です!」
「無茶でもやるしかない! 今は親父の行方を突き止め、この異変をどうにかするのが先だろうが! 刹那たちも行方不明なんだぞ!!」
その言葉で、リタと未来の顔がこわばった。
アスモデウスもここまで来たら姫を止めるより、その姫をサポートするのが早いと悟ったのだろう。協力を申し出た。
エレジーはイモータル3姉妹のほうを向く。
「お前ら、協力してくれるか?」
3人は揃ってうなずく。
彼女達も兄であるダーインが心配なのだ。今は、この魔界のプリンセスに協力したほうがいい。
「じゃあ私達は刹那のお父さん……ルシファーを探すわ。あの人なら、何か知っているかもしれないし」
未来の提案に、エレジーがうなずく。未来はすぐにリタの手を取ると、ダークパレスの奥へと向かって行った。
「どこか心当たりでもあるんですか?」
「全然ちっとも!」
断言する未来にリタは危うくずっこけそうになった。
「ともかくどこでもいいから探しまくるのよ! 刹那も、ジャンゴ君も、将来君も、サバタ君も皆戦ってるわ!
私達だけ何もしないわけにはいかないの!」
「……そうですね!」
未来の言葉にリタは大きくうなずく。
*
まるでシャッターを切ったかのように、自分の視界が切り替わる。
その時には、ジャンゴたちはさっきまでいた場所から別の場所へと転移していた。
「何だぁ!?」
将来がパニックになる。
「どこだここ!?」
「一体何が起きたんだ~!?」
その他の面子も戸惑いを隠しきれていない。最近転移されてばっかりのジャンゴは「ああ、今度はどこなんだ」と冷めた反応だったが。
そのジャンゴが落ち着いて人数を数えてみる。
一、二、三、四、五……。
「うわぁぁぁ! いないよー!」
一番パニックになった。
人数が足りない。
正確に言えば、リタや未来、エレジーにベール、イモータル3姉妹などの女性陣がごっそりといなくなっている。
それに気がついた男性陣は、慌てて探しに行こうとするが、
「大丈夫だよ」
くすくすと笑う声とその一言で、水を被ったかのように真剣な顔に一転する。
刹那が声の方を向いた。
「高城!」
「今は深淵魔王ゼブルさ」
高城ゼット――深淵魔王ゼブルはにやりと笑った。そのまま笑いながら続ける。
「ジャンゴ、刹那、将来、サバタ。そしてデビルチルドレンのパートナー達。
ここは暗黒城。君たち専用のラストステージだ。
勝利は生。敗北は死を意味する」
「「!?」」
暗黒城、のフレーズにジャンゴとサバタが反応した。
自分たち兄弟が死闘を繰り広げた場所。そして、クイーン・オブ・イモータル、ヘルを倒した場所。
兄弟が反応したのを見て、ゼブルは話を続ける。
「かつて、地球を作った全ての原種・ホシガミ様はここにダークの欠片であるジャシンを封じ、全く同じ場所であるここに選択の間・オルゴールルームを置いた。
どの選択を取るにしても、ジャシンをもう一度封印しなおせるほどの力を持たなければ、真なるメシアにはなれない。あれは3つの力を持って始めて、封印を施せるからね。
そして今、メシアとしての素質を覚醒した者と、その3つの力を通す“門の一族”の使徒。君たちがここへと導かれた。
イモータル・デビルの究極体、アゼル=ダーインを滅ぼすためにね」
「アゼルを追い詰めたのか……」
「それとも、追い詰められたのか……」
誰かが知らないうちにつぶやく。
「アゼル=ダーインは、もう魔王アゼルでもイモータル・ダーインでもない。二つの魂が融合し、歪んだ形で誕生した存在。
地球が持つ闇と空から来た闇を同時に持つ『彼』なら、楽にジャシンの封印を破壊できる。倒すのなら、今のうちだ。
だが、さっきも言ったように勝利は生、敗北は死を意味する。
……それでも行くかい?」
ジャンゴたちの答えは決まっていた。
無言で、ゼブルの後ろに続く最上階への階段を目指して走る。
ゼブルはそれを見送りながら、静かに消えた。
「これで君たちを導く僕の使命は、一応終わったわけだ。
グッドラック、ノルン・チルドレン(運命の仔達)!」