SELECT! RESET OR CONTINUE?「セントラルランド」(出立編 vol.DEVIL)

 

 エタニティパレス・地下。

 混乱の中、ミカエルを探していたナガヒサは、そのむごたらしい光景に青ざめる。
 それでも歩を進めていると、奥の方、ジャンゴが“純応”の洗礼を受けていた場所のもっと奥に一つの違和感を見つけた。
 近づくと、それは何かの封印だった。ナガヒサはスフィンクスたちと共に、封印をこじ開ける。

 そこで彼は、ようやく自分の父親と再会することができた。

 

 

 

 ジャンゴとアルニカの転移は、下で戦っていた嵩治やガブリエル、メタトロンも察知した。
 互いに示し合わせたかのように、すぐに最上階に向かって駆け出す。
 と、
「お前達、少し待て」
 後ろから呼び止める声に足を止めた。振り向いた嵩治はいつの間にかいた見知らぬ人物に首を傾げるが、ガブリエルとメタトロンの大天使とレイは目を見開いた。

 最上階。
 残り少ない大地の実を分けてようやく回復したサバタとリタは、ジャンゴたちが消えた先が分かる手がかりを探し回っていた。
 が、あるのは残骸のみで手がかりになりそうなものは何一つ残っていない。
「嵩治のデビホンで、法皇あたりに連絡を取るか……?」
「その必要はない」
 サバタのつぶやきは第3者が否定した。声の方に視線をやると、さっきまで戦っていた大天使二人に、嵩治とレイ、それからナガヒサと見知らぬ天使だった。
「ナガヒサ、そいつは誰だ?」
 その質問はナガヒサではなく、本人が答えた。
「私はこの天界を治める天使長ミカエル。そして、ナガヒサの父だ」
「ミカエルだと!?」
「ああ。お前達太陽仔の都市から天界に帰ってすぐに、ラグエル派の天使に捕まり、エタニティパレスの地下に封印されていたのだ。
 エンジェルチルドレンの暴走で私が封印されていた部屋も見つけられ、ナガヒサが助けに来てくれたのだ」
 そう言ってミカエルは息子の頭をなでた。ナガヒサの方は、父親になでられて少し照れたが、すぐに顔を引き締めた。
「それより、さっき祈りの塔からもの凄い速さで光が飛んでいきました。波動が前のとそっくりだったので、おそらくジャンゴさんとアルニカさんです」
「あいつらは俺たちの目の前で姿を消したからな」
 おかげでリタがこんなザマだ、とサバタがリタの方を見る。2回もジャンゴとアルニカが目の前で消えられたことがあまりにもショックで、ずっとうつむいたままである。
「飛んでいった場所は特定できるか?」
「正確には無理です。大雑把程度なら……」
 難しい顔をするナガヒサだが、サバタは大雑把程度でもいいから位置を知りたかった。「それでもいい」と答えると、ナガヒサははっきりと答える。

「魔界です。彼ら二人は魔界に飛びました」

 

         *

 気がつくと、また見知らぬ場所のベッドの上にいた。
「……なんか最近飛ばされてばっかりだな……」
 地上→天界・エタニティパレス→天界・祈りの塔→今いる場所。これら全部ジャンゴは『自分で歩いて行っていない』。しまいには足が萎えてしまうのではないかと本気で思った。
 ベッドから起き上がると、自分の武器やソル・デ・バイスが丁寧に磨かれて置いてあった。ソル・デ・バイスを右腕に着けていると、がちゃりとドアが開いた。
「おぉ、目が覚めたようじゃな」
「わっ!」
 現れたのは大きな鍋に乗った老婆だった。しかも、顔色からしてどう見ても普通の人間ではない。老婆はジャンゴの反応を見て不機嫌になってしまったようだ。
「なんじゃい『わっ!』ってのは。全く最近の子は礼儀ってもんがなっちゃいないね。爺さんがかわいそうだからって、余計なものを拾ってくるから全く……」
「あっ、ご、ごめんなさい! その、助けてくれてありがとうございます!!」
 そのまま永遠に続きそうな愚痴を遮るかたちで、ジャンゴは老婆に頭を下げてお礼を言った。老婆もそんなジャンゴの素直さには感心した。
「お礼は爺さんに言うんだね」
「あ、はい」
 とそこまで言って、ジャンゴはあることに気がついた。
「あの、そのおじいさんが拾ったのは僕だけですか? 近くに誰かいませんでしたか?」
 その質問に老婆は少し首を傾げたが、すぐに思い出したようだ。
「あぁ、お前以外に一人いたね。頭に羽なんか生えてるから、天使かと思ったんだけどさ」
 どうやらアルニカも保護されたようだ。ああは言ったものの、そのまま見捨てられてほしいなんて思っていないのでほっとする。
 装備を改めて確認してから、ジャンゴは老婆と共に部屋を出た。

 居間には眉毛と髭がたっぷりとした老人と、アルニカがいた。おいしそうな匂いが漂っている、と思ったらテーブルにはスープが置いてあったりする。
「おー、坊主も目が覚めたか」
 老人が人懐っこそうな声でジャンゴの回復を喜ぶが、隣のアルニカは全く反応しない。目の前に置かれてあるスープも、彼女の分は全然減っていなかった。
 ジャンゴの視線に気がついたのか、老人はスープを勧めた。何だかんだ言ってもお腹は空いていたので、ジャンゴはスプーンを取った。

 老人の名前はストリボーグで、老婆の名前はハッグ。
 この老夫妻は、昼過ぎに森のほうへ出かけた時に倒れているジャンゴとアルニカを発見したらしい。
 アルニカの姿を見て、ハッグは天使とその仲間かと思い助けるのを躊躇したが、ストリボーグの方はまだ幼い彼らを放っておく事ができなかった。家に連れて、二人を介抱したのだ。
「……ところで、ここってどこですか? 飛ばされてきたから、どこがどこだか……」
 恥ずかしい質問だが、ジャンゴは一番聞きたい事を聞いた。事実全ては話せないので、当たり障りのない言い訳でごまかしておく。
 老夫妻もその言い訳で納得したようだ。嫌な顔をせず、深く聞きもせずにジャンゴの質問に答えてくれた。
「ここはセントラルランドのコンゴラの村じゃよ。で、ここの北にあるアララト山を越えれば、ルシファー様たちがいらっしゃるダークパレスがあるセントラルタウンじゃ」

「!?」
 ストリボーグの答えにジャンゴは危うくスープを噴出すところだった。

 セントラルランドの地名は、刹那から聞いている。確か魔界の中心地だ。
 ……と言う事は、今自分たちがいるのは天界ではなく魔界と言うことになる。あの光で、ここまで飛んでくるとは思っていなかったのだ。
 いきなりげほげほとむせるジャンゴに、全員――アルニカも含めてだ――ジャンゴに注目した。
「どうしたんじゃ?」
「あ、いえ……」
 慌ててハンカチで口周りを拭くジャンゴ。……実際に噴出していないのだからあまり汚れてはいないのだが、とりあえずというやつである。
 口直しに、少なくなったスープを一口含んでから、ジャンゴは質問を続ける。
「セントラルタウン……でしたっけ? ここからそこに行くまで、どのくらい時間がかかりますか?」
 この質問はストリボーグではなく、ハッグが答えた。
「飛べる奴らはともかく、お前らなら歩いて丸二日、ってとこだね。あそこは高い代わりに、山ん中に通路が出来てるから」
「行くにしても、今日はここで休んだほうがいいぞ。もうすぐ日が落ちるからの」
「ありがとうございます」
 老夫妻の勧めに、ジャンゴは頭を下げ……その先にスープ皿があることに気がつき、ちょこっと下げる程度に留めた。
「そっちのお嬢ちゃんもそうするといい」
 ストリボーグはアルニカの方にも声をかけるが、彼女は無反応だ。それでもお腹が空いているのには耐えられなかったのか、少しだけスープの量が減っていた。
「なんじゃい、最近の子は彼女の面倒も見ないのかい。薄情もんだね」
「そういうのじゃないです!!」
 ハッグの邪推をジャンゴは大きく否定した。

 翌朝。
 ストリボーグとハッグにお礼を言って、二人はアララト山を目指すことにした。
 ――そう、ジャンゴとアルニカの二人である。

 ストリボーグ宅を出る時、彼女をどうするかで少し悩んだ。普段なら一緒に行こうと誘うくらいだが、あの時自分から拒絶した以上誘うのはためらわれた。
 だがこのまま彼らの元に預けていたら、逆にあの老夫婦が危険になるのではないかと思ったのだ。それに、あの夫婦はジャンゴと一緒に行くものだと信じて疑わなかった。

 前を歩く中、時折振り返って彼女の様子を見る。ジャンゴに拒絶されたことであの女帝のような力強さが消え、吹けば飛びそうな弱さでただただ後ろからついて来ていた。

 アララト山は、魔界の中でも高い山として有名である。
 そのためコンゴラの村からセントラルタウンに行くための山道が整備されている。山を貫くような洞窟の通路も、その一つだ。
「この先、セントラルタウン」と書かれた古い看板を横目に、ジャンゴは洞窟の中へと入ろうとするが。
「あ、ジャンゴじゃないか」
 いきなりの声に足を止める。声を探してきょろきょろすると、近くの草むらから高城ゼットがひょっこり顔を出した。
「ゼット! 君、確か地上にいたんじゃないのか!?」
「ん、ヤボ用で魔界に来てたんだ」
 驚くジャンゴとは別に、アルニカは複雑な顔で彼を見ている。ラグエルの支配から解き放ってくれたのは彼だが、手放しで感謝できるわけではなかったから。
 ゼットはそんな全く違った二人の視線を受け止めて、いつもの心が読めない笑顔になった。
「でも良かったよ、ここで会えて。変な所に飛ばされてたりしたら彼女達に悪いもの」
「彼女達?」
 ジャンゴが目をしばたたかせた。ゼットは一つうなずくと、自分の後ろにいた者たちを呼んだ。

 それは青い肌をした人魚のようなデビルと、アヒルと女性が融合したようなデビル、足が何匹もの犬になっている女の子のデビルだった。
 共通点が見当たりそうにないその3人の女デビルをよく観察しているうちに、ジャンゴはある考えに達した。

「もしかして、君たち……なのか?」

 ジャンゴの出した答えに、ゼットは今度こそ穏やかな笑顔になった。