SELECT! RESET OR CONTINUE?「独占欲」(執着編 vol.ANGEL)

 

 好きな人に振り向いて貰うために、貴方は何をしますか?

 

 好きな人に愛されるために、貴方は何が出来ますか?

 

 

 

 

 

 衝撃が、祈りの塔を襲った。
「何だ!?」
 足を踏ん張らせて、何とか転ぶのを耐えたジャンゴは窓に近づく。
 窓の外が、妙にゆがんでいた。
「これは?」
「! 結界を破る気なの!?」
 衝撃で目が覚めたらしい。アルニカがジャンゴの隣に立って、窓の外を見た。
「結界?」
 初耳だ。何故そんなものを張っていたのだろうか。そう思った時、さっきよりも強い衝撃が塔を襲った。
「うわっ!」
 無意識にアルニカを庇うジャンゴ。その腕の中で、アルニカは外に見える者たちを憎悪の目でにらみつけた。

「大分硬い結界だなっ!!」
「手持ちのアイテムが尽きるのが早いか、結界を破るのが早いか……」
 ここに将来のクレイがいてくれればなあ、と嵩治は心の中でぼやいた。サンダーボルトを得意とするキマイラなら、結界を破るのが少しは楽になっただろうが…。
 2個目の魔法薬を飲み干して空になったビンを無造作に捨てながら、サバタは暗黒弾を一点に集中する。むやみやたらに撃ちまくるより、集中したほうが早いというのはお約束だ。
 リタは片っ端からマジックアイテムを投げつけている。単体攻撃用の勾玉がもろくなっていそうな部分に当たって爆発するが、爆発が派手なだけでダメージは与えられていない。
 いい加減息切れが激しくなってきた時、

 ぴしっ!

 ひび割れの音がした。
 最初は小さいヒビだったが、連鎖的にヒビがどんどん広がり、亀裂と化す。
「よし!」
「後もう一撃だ!!」
 暗黒弾とハクリュウのジオンガが当たり、止めとばかりにワルキューレのイナズマづきが亀裂に決まった。

 バリィィィィィィィン!!

 結界は完全に消滅する。
「突入するぞ!」
「ええ!!」
 サバタ、リタ、嵩治にレイが塔の中に進入する。

 結界が砕けた事は、内部にいるガブリエルとメタトロンも察した。
「結界が砕けたぞ!」
「アルニカ様とジャンゴさまをお守りせねば!」
 メタトロンが背負っていた大剣を抜き、ガブリエルも羽つきの水晶玉を出して、敵の攻撃に備える。
 構えた瞬間、サバタたちが飛び出してきた。
「来たか!」
 メタトロンが大剣を振りかぶった。剣先が彼らに届く瞬間、レイがソニックブームで勢いを弱める。そのおかげで、戦い慣れていない嵩治も何とか攻撃を回避した。
「アクエスー!」
 アクアクラウドが氷の塊をガブリエルに向かって放つ。が、彼女は羽つき水晶玉をかざしてそれを打ち消した。そのまま力をこめ、吹雪を起こす。
 たちまち氷雪があちこちに積もり、床が凍り始める。足元が滑りやすくなってしまったことで、上手くバランスが取れなくなってしまった。
「このっ!」
 リタが懐をまさぐって出した業火の勾玉を、床に叩きつける。凍りついた床が炎によって溶かされ、水蒸気が立ち込めた。
 凍りついた床を元に戻すのと同時に、水蒸気によって姿が見えなくなる。その隙に、サバタとリタは水蒸気の霧の中を一気に飛び出した。
「しまった!」
「行かせはせんぞ!!」
 後を追おうとするメタトロンとガブリエルだが、その二人の間を魔法が飛んでいく。
「!? 貴様!!」
「悪いけど、ジャンゴ君は取り返すよ! 彼は僕たちに必要な人なんだ!!」
「それはこちらとて同じこと!!」
 嵩治の啖呵にメタトロンが吼える。レイがヘルフェニックスへとランクアップし、嵩治も最後の仲魔であるオオニクヌシをコールした。

 サバタとリタはまっすぐに最上階を目指す。エタニティパレスとは違い、ここにいる天使はあの二人しかいないようだ。二人は何の抵抗も受けずに、最上階まで来ることができた。
「ここか!?」
「ジャンゴさま!! アルニカさん!」
 サバタが最後のドアを蹴り開ける。

「そこまでだッ!!」

 いきなり敵――アルニカの歓迎を受けた。両手の爪が鋭く輝き、部屋に入った二人を切り伏せた。
「兄さん! リタ!」
 ジャンゴが二人に近づこうとするが、アルニカの腕から離れたウロボロスがジャンゴを締め付けた。
「アルニカ!?」
「ジャンゴは私が守る!!」
「守るって……! 兄さんとリタは敵じゃないよ!!」
「私からジャンゴを取り上げようとする奴はみんな敵だ! みんな私が倒してやる!!」
 二人に止めを刺そうとアルニカが手を振り上げる。それを察知したリタは、ジャンゴの目の前で大きくスカートが翻るのも構わずに、大きく右足を跳ね上げてその手を弾く。
 それでも二人のピンチは終わらない。サバタがガン・デル・ヘルを撃とうとすると、瞬時に察知して頭の翼で吹き飛ばし、リタの攻撃は鋭い爪で抑える。
 特にリタへの攻撃は凄まじく、あっという間に彼女は傷だらけになる。防御力がそれなりにあるはずの大地の衣が、無残な布切れに成り果てるのも時間の問題だと思えた。

 リタとサバタを助けようと、ジャンゴは拘束を解こうと精一杯力をこめる。ウロボロスの方も、ジャンゴを動かすなという命を受けているために必死に抵抗した。
「お願い、だからっ……は、放してくれ……っ!」
「そういうわけには参りません!」
「でも、このままじゃあっ……!」
 このまま放っておいたら、確実にアルニカはリタとサバタを殺してしまう。それだけは、避けなければいけなかった。
 リタやサバタのためだけではなく、アルニカ本人のためにも。
 その心が通じたのか、ウロボロスの抵抗力が少しだけ減った。全力をこめ、ウロボロスを振り払うジャンゴ。
 改めて様子を見ると、アルニカがリタに止めを刺そうとしていた瞬間だった。サバタの方もあちこち切り裂かれ、おびただしい量の血を流している。
 ぼろぼろになったリタに、血塗れになった爪が捉える。その間に、ジャンゴが割って入った。
「!」
 ジャンゴの乱入に一瞬と惑うアルニカ。そんな彼女めがけて、ジャンゴは大きく左手を振りかぶった。

 ぱん!

 決して大きくないはずなのに、その音は部屋の中でよく響いた。――ジャンゴがアルニカの頬を叩いたその音は。

「ジャンゴ……?」
「もういい加減にしろ!」
 恐る恐るジャンゴの顔を見ると、その顔はアルニカが今まで見たことのない形の怒りに染まっていた。哀しみが入り混じった、辛い怒りの顔だった。

「そんな事されても僕は全然嬉しくない! 
 他人を殺してでも、好きな人を閉じ込めてでも守るなんてのは、ただの自分勝手なだけだ!!
 君がそこまでやるのなら、僕はもう君を守れない! 君の側にいてあげられない!!」

 その目から、ぼろぼろと涙がこぼれていた。ジャンゴのその顔を見て、アルニカも涙混じりになって叫ぶ。
「……嘘でしょ!? だって、ジャンゴ約束してくれたじゃない!! 私を守ってくれるって!」
「僕が約束したのは今の君じゃない。相手の気持ちを考えていない君とは約束していない!」
「約束したもの!!」
 力が放出され、家具などが一気に壊れるが、ジャンゴは微動だにしない。ただただ、涙まみれの冷たいまなざしをアルニカに向けるだけである。
「…もうさよならだ」
「嫌よ! 私にはジャンゴしかいないのに!!」
 力がまた放出された。今度は破壊の力ではない。

 転移の力だった。

「ジャンゴ、離れろ!!」
 サバタが起き上がってジャンゴに注意を促すが、その声に反応してジャンゴが振り向いた瞬間。

 ジャンゴとアルニカは光に包まれた。

「ジャンゴさま!」
 今度こそ離れ離れにならないようにとリタが手を伸ばす。ジャンゴの方も手を伸ばしたが、その手が触れ合うかどうかのところで二人は消えた。
 後に残るのはサバタと手を伸ばしたままのリタのみ。

「……また、行ってしまった……」
「ジャンゴ……」

 二人は呆然と、さっきまで彼らがいた場所を見つめ続けていた。