Solar Boy meets Devil Children「少年と少年」(迷惑編)

「やあ、いい月夜だね」

 その少年は自然と闇が似合っていた。

「………お前は誰だ?」

 もしかしたら

 

 自分より似合っているかもしれない、と彼は思った。

 

 

 時はジャンゴが始めてクールと出会った日の夜まで遡る。

 暗黒少年サバタは、暗黒物質ダークマターを求めて町を彷徨っていた。
 彷徨う、とは言っても、夜――しかも月が出ているなら自然とサバタの力はチャージされていく。ダークマターもそこらに漂っているので、そんな必死になるものではない。
 ただ行く当てもなく散歩するだけ。それだけでサバタは充分なのだ。

「やあ、いい月夜だね」

 背後から声がかかる。
 反射的に暗黒銃ガン・デル・ヘルを構えて、戦闘体制を取るサバタ。

「そんなに敵視しないで欲しいな」

 飄々とした態度で、少年がひょっこりと姿を現した。その姿を見て、サバタの目が鋭くなる。
 浅黒い肌を覆う緑の帽子と服。髪も緑と緑尽くめの少年。サバタが凝視したのは唯一つ。

 血のように赤い瞳。

「……貴様、暗黒仔か? それともイモータルか?」
「暗黒仔……? ああそうか。空から来た闇を受け容れた者はそう言うんだっけ」
「質問に答えろ」
「じゃあ答えるよ。僕はそういう者じゃない。イモータルのように死から逃げ出した者じゃないし。
 君みたいに、空からの闇――ダークマターを受け容れた者じゃない」
 ひらひらと手を振る少年。その態度に、サバタはますます視線を鋭くする。
「だから、そんなに敵視しないで欲しいってば。僕は君たちと敵対するつもりはないもの」
「ふざけるな。何が目的だ!」
「原種の欠片の復活がそんなに怖い? 怖がらなくてもいいよ。君たちが刺した『槍』は、少なくとも1000年は持つ。
 もうこの町を狙う奴はそうそういないよ」
 さらりととんでもないことを言う少年。その態度が逆に彼の言っていることの真実性を強め、サバタはガン・デル・ヘルを下ろした。
 サバタのその行動に、少年はにっこりと笑う。
「その銃、暗黒銃でしょ? 初めて見たよ。と言う事は、君が月下美人だね」
「知っているのか」
「まあ、いろいろとね……」
 笑顔ではぐらかす少年に、サバタは何となく父を操ったダーインを思い出した。ただ、ダーインと大きく違うのは、この少年には確固とした『実態』があるということだ。
 幽霊のような存在ではない。
 だが、目の前にいる「少年」の姿も彼の本当の姿ではないように思える。
(影か…!)
 サバタはようやく違和感に気がついた。月の光によって生まれた少年の影が、自分のものと全く違う。

 彼は背中に蝿の羽を生やしていた。

「お前は何者なんだ?」
 サバタはもう一度問う。
「それは今回は関係ないことさ」
「今回?」
「僕が誰なのか、君たちには関係ないってこと」
「!!」
 下ろしたガン・デル・ヘルをもう一度構えなおす。

 暗黒弾を放つ瞬間、少年の笑みが邪悪なものに変わった。

「せっかちだね。弟さんとは大違いだ」
「なっ……!?」
 暗黒弾を握りつぶす少年に、サバタは驚きを隠せなかった。月が出ている夜という好条件で放った一撃が、避けられるのではなく受け止められるとは……。
 少年の方もただではすまなかったらしく、受け止めた手にふうふう息を吹きかけていたが。
(奴はダークの手の者じゃない。だが、限りなくダークに近い場所にいる。それだけなのか)
 サバタは理解した。正体は気になるが、確かに自分たちには関係ないのかもしれない。超危険人物ではあるが。
「……ところで君、犬は好きかい?」
「犬?」
 唐突に切り替わった話題に、サバタは眉を寄せた。
「好き?」
「……別に嫌いというわけではない。吠えてうるさいだけの獣だ」
「あはは、そうとう嫌われやすいんだね」
 悪意なしに笑われて、サバタは不機嫌な顔になった。その顔を見て、「可愛い膨れっ面」と少年はまた笑う。
「だったらさ、しばらく飼っても大丈夫でしょ」
「……?」
 意味不明な理論展開。サバタはますます眉を寄せる。未来でも予知してるのか、この少年は?
「知り合いがさ、犬を預かってくれる人を探してるらしいんだ。僕は君の弟を推薦した」
「おい!」
「だって、自称誇り高い彼が飼い主以外の誰かになつくなんて、君の弟しかいないんだよ? となると自然にその人を進めるしかないじゃん?」
「そう言う事じゃない!」
 何でお前がそんな俺が知らないことを色々知っているんだ。
「大丈夫大丈夫。君には吠えないよう言っておくし、4日間の間だけだからさ」
 完全に任せきった顔でパタパタと手を振る少年。その様子を見て、どうやら明日ジャンゴが犬を連れてくるのはほぼ確定事項だ、とサバタは悟った。
「厄介ごとにならなきゃいいんだがな……」
 ぽろりと出たサバタの本音に、少年は苦笑した。
「……それは仕方ないよ。君達は運命(ノルン)の子供達(チルドレン)なんだからね」
 話はおしまい、と言って、少年はサバタとすれ違う。

 すれ違う瞬間、少年はサバタに耳打ちした。

「僕は浮遊する悪魔。そして世界の管理者さ」

 サバタがはっとして少年の方を向くと、一匹の蝿がぶーんと飛んでいくところだった。
「……浮遊する悪魔? 世界の管理者だと?」
 サバタは少年の言ったことを繰り返した。

 翌日。
 少年の言った通り犬をつれてきたジャンゴを見て、サバタはため息をついた。

 

「…もう厄介事に片足を突っ込んでたか」