Solar Boy meets Devil Children「青い犬」(装入編)

 朝が来れば夜が来るように、

 光があれば闇があるように、

 とかくこの世は対称で出来上がっている。

 だから、彼は僕に懐いたのかもしれない。

 

「犬?」
 大地の実を買い込みながら、太陽少年・ジャンゴは大地の巫女・リタに問う。
 リタはニコニコ笑顔で、最近の珍客である犬について語り始めた。
「カラーリングからして変わってるんですよ。青と赤。あ、あと右目に傷がついてましたね。
 かご持っていつもやって来るんです。膨れ面で。よっぽどおつかいが嫌なんでしょうか」
 膨れ面がとっても可愛いんですよ。と終始笑顔で語るリタを見て、ジャンゴはその犬を見てみたくなった。
 ……実は犬が大好きなのである。
「ねえリタ、その犬、いつになったら来るの?」
 ジャンゴが尋ねると、リタは少し考えた後「夕方くらいですね」と答えた。
「じゃあその頃また来るよ」
「それよりもジャンゴさまが手伝ってくださるなら、時間を気にしなくてもいいと思いますけど?」
「うっ……」
 リタの提案にジャンゴはうなった。
「どうです?」
 言葉ではジャンゴに判断を任せているものの、その顔は手伝ってくれると信じ込んでいる顔だ。
 イストラカン事件から、ジャンゴはリタのこの顔に弱い。……というより、頼まれると嫌といえない性格なのだ。
 こういうキャラほど貧乏くじを引きやすい。注意されたし。

 はてさて。
 繁盛しているリタの果物屋を手伝いながら、待つことしばし。かりかり、と軽く何かを引っかく音がした。
「あ、来ましたね」
 押して開けられないのか、その犬はいつもかりかりとドアを軽く引っかいて合図するらしい。リタの代わりにジャンゴが引いてあげると、犬はするりと入ってきた。
「うわ、かわいい」
 ジャンゴは正直な感想を漏らした。ルックスはリタの言った通りで、膨れ面も愛嬌がある。犬は口にくわえていたかごを、リタに差し出す。
 かごの中をのぞいてみると、お金と一緒にお使いメモが入っていた。
「あ、はいはい。かごの中にいっぱいですね」
 リタがメモを見ながら必要な実をそろえている途中、ジャンゴは犬に構っていた。あごをなでてやると、犬はくすぐったそうにする。
 犬もジャンゴのことが気に入ったのか、さかんに彼の匂いを嗅ぐ。差し出した手をくんくんと嗅ぎ、足元をくるくると回った。
「うふふ、ご主人様と同じ匂いがするんでしょうか?」
 ほほえましい光景に、リタはくすくす笑う。犬は「その通りだ」と言わんばかりに、くーんと鳴いた。
「まあ、この子が鳴くの、私初めてです」
 リタ曰く、いつも無愛想にかごを出して、中身を入れてもらったらすぐに帰ってしまうのだ。
 らしいと言えばらしいが、ジャンゴは何となく気になった。
「お前、お使いなんていやだってご主人様には言わないのか?」
 犬はぷるぷると首を振った。ここまで嫌そうなのに、何でご主人様はこの犬にお使いをさせているのだろうか?
「そうとう怖いご主人様なのかもしれませんね」
 リタが同情のまなざしで犬を見たが、犬のほうは「余計なお世話だ」と目で語った。

     *

 翌日。
 ジャンゴがアンデッドダンジョンから帰ってくると、パイルドライバーが設置してある広場にあの犬がいた。
 驚いて近づくと、犬のほうもジャンゴのほうにやってきた。何かを加えている、と思ったら紙である。
「どうしたんだ? 家出でもしたのか?」
 ジャンゴが犬に聞くと、犬は黙って加えていた紙をジャンゴに渡した。

『赤いマフラーの男の子へ。
 悪いんだけど、しばらくクールを預かっててくれないかな?
 4日後に引き取りに行くから、その時はいつも行かせてる果物屋で待っててほしいんだ。
                                                  K.S』

「クール? お前の名前か?」
 ジャンゴが犬――クールの方を向くと、クールは「おん」と一声鳴いて答えた。
 クールと手紙を交互に見ながら、ジャンゴは困ってしまった。犬好きのジャンゴにとって、クールを預かってくれと言う頼みは嬉しい。だが、
「兄さん、犬嫌いかもしれないぞ……」
 ひねくれ者で偏屈な兄。例え犬好きだとしても、事情を説明すれば「さっさと飼い主に引き取ってもらえ」の一言で切り捨てられるかもしれない。
「リタに預かってもらおうかなぁ…」
 とは言え、預かり手に任命されている以上、誰かに預かってもらうのも何となく気分が悪い。
「宿屋……はダメか。ザジに絶対ばれるし」
 ザジだけではない。宿屋はリタもサバタもよく来る。宿屋でこっそりと面倒を見るのはほぼ不可能である。
「どうする?」
 ジャンゴが困り果ててクールの方を見ると、クールは「俺に聞くな」と言わんばかりの視線を向けた。

 選択肢はない、と言うわけですか……。

「しょうがない、うちでこっそり面倒見てあげるよ。だからクールも余計なことしちゃ駄目だぞ?」
 兄さんにばれたらただじゃ済みそうにないし。

 ジャンゴはどきどきはらはらしながら家路に着く。
 その後をクールが黙ってついていった。

     *

 陸番街のはずれに、ジャンゴの家はある。今は、ジャンゴと兄のサバタの二人暮らしだ。
「た、ただいま~……」
 ジャンゴがおずおずと声をかける。これでサバタがいなければ、今のうちに準備をしようと思っていたのだが。
「ああ。帰ってきたか」
 返事が返ってきた。顔を見に、玄関までやってこないのが幸いか。
「やばいなぁ……」
 ジャンゴはこっそりとつぶやく。暗黒仔であるサバタは、昼間めったなことでは外に出ない。夕方以降に、ふらふらとどこかに出かけることもあるが、その頃準備をするのは遅すぎる。
 どうやって隠そうかとあたふたおろおろしていると、イラついたサバタの声が聞こえてきた。
「いつまで玄関にいるつもりだ!」
「……おいで、クール」
 しかたがない。自分の部屋に連れて行こうとしたのだが、クールは真っ先にサバタがいるらしい居間へと飛び込んでしまった。
「な、何やってるんだよクール~!!」
 慌ててジャンゴが後を追うと、クールはすぐにジャンゴの元に戻ってきた。
「……何なんだこの犬は。いきなり人の足元に来て、匂いを嗅いできたぞ」
 後から呆れ顔のサバタが顔を出した。ジャンゴはクールを抱き上げ、サバタのほうに顔を向けさせた。
「クール、兄さんは悪い人じゃないよ」
 犬は本能で善悪を見極める、と言う話を聞いたことのあるジャンゴは、まずクールに兄を認識させる。第一印象を悪くすれば「捨てて来い」と言われかねない。
「で、その犬は何なんだ」
「あ、預かってくれって頼まれたんだ!」
「誰に?」
「知り合いだよ!」
 サバタの問いに、ジャンゴはあたふたしながら答える。とりあえず嘘は言ってない(はず)。サバタは何か考えた後、「俺は面倒見ないぞ」と言った。
「…それって預かっててもいいってこと?」
「お前が全部面倒見るならな」
「やったぁー!!」
 まさかこんなに簡単に許可がもらえるとは思っていなかったジャンゴは、クールを抱えてくるくると回った。

 さて、クールと呼ばれるこの犬……実は犬ではなかったりする。
 実はこの犬(?)がきっかけで、太陽少年はとある出会いを果たすのだが……。

 とにかくここに居座ることで話がついたようだ。

「……たった4日間の間だけだろうが」

 異様なまでにはしゃぎまくるジャンゴを見て、サバタは呆れて言った。