Solar Boy meets Devil Children「騒乱、太陽都市」(祈願編)

 太陽都市。
 先端を警備していたパワーたちは、光の玉がこちらにやってくるのを見た。
 光の玉は都市の上で弾け、中にいた少年少女たちが具現する。
「!?」
 パワーたちが剣を構える中、彼らは同じ言葉を叫んだ。

「お邪魔します!!!」

 

 太陽都市は騒然となった。
 デビルチルドレンと太陽少年がこの時間帯に攻めてきたのは予想外だったのだ。
 眠っていた天使たちはたたき起こされ、次々と迎撃に向かう。

「はぁぁぁぁっ!」

 トランスした黒ジャンゴがソードを振りかぶる。錆びることのない魔剣グラムが次々と天使ヴァーチャーを襲い、切り伏せた。

「クール!」
「ベール!」
「Yes,Master!」

 二人のデビルチルドレンの命を受けたケルベロスとグリフォンが、炎と風を撃つ。巻き込まれた天使パワーが、塵一つ残さず消滅する。
「みなさん、急いで!!」
 リタが3人を先導する。
 太陽都市の先端は、太陽風が吹き荒れる地域。空を飛べる者たちはともかく、ジャンゴたちが巻き込まれたらひとたまりもない。
「ナハトコボルト! 後衛を頼むわ!」
「任せて!」
 未来がコールした寝巻き姿の妖精・ナハトコボルトが、土塊を天使たちに叩きつける。それに刹那のジャックフロストも加わり、後を追いかけていた天使たちはみんな足止めされた。
 ジャンゴたちが内部に飛び込んだ瞬間、夜が明けた。

「やはり、来ましたか」
 太陽都市最上階。
 カーミラがいたその部屋は、ナガヒサ、ラファエル、ウリエルがいた。
「私はここで指揮を取ります。ウリエル、貴方は先陣に立ち、デビルチルドレンを倒しなさい」
 司令官的な立場のラファエルがウリエルに指示を出す。だが、ラファエルの謀反を知っているウリエルは「お前も来い」と反論した。
「ナガヒサ様にはスフィンクスがついているからな」
「……いいでしょう」
 ウリエルとラファエルが連れ立って部屋を出て、後にはナガヒサと2匹のスフィンクス(もう1匹はミカエルが帰る前にくれた)だけが残った。

 奇襲に浮き足立っていた天使たちだが、徐々に体勢を立て直し始めた。
 汎用兵器であるエクスシア・ガルガリン・キュリオテスを始めとして、決戦用兵器のデュナミス・メルカバが投入され、ジャンゴたちの前に立ちふさがる。
「くっ!」
 トランスを解除したジャンゴがガン・デル・ソルを放つ。併せて、クール・オルトロス兄弟のコンボ・ヘルズファイアがエクスシアたちをなぎ払う。
「きりがないわね!」
 杖で殴ってくるセラフィムを思いっきり蹴り飛ばしながら、未来が愚痴る。その背後に、鎌を持った天使アルケーが立つ。
「危ない!」
 リタの拳がアルケーの横っ面に見事ヒットした。顔を大きくゆがめながら吹っ飛んでいくアルケー。
 未来は感謝をサインで現すが、すぐに別の相手に向かう。
「二手に分かれたほうがいいのか?」
「難しいね。君達はここ知らないだろ?」
 背中合わせに会話するジャンゴと刹那。天使たちの攻撃も激しくなってきている。突破口を開かない限り、ジリ損は確実だ。
 どうする? このまま全員で突き進むべきか…。
「刹那君、ジャンゴ君、行きなさい!」
 悩む刹那にベールが声をかけた。その身体が発光している。その状況に、刹那は見覚えがあった。
「ランクアップか!」
「そのようだ!」
 ベールに併せて、クールも発光している。光が収まると、2匹は大きく姿を変えていた。

 クールは髪が伸びて角が生え、首輪に2匹の狼の顔がついた。ベールはもう一対翼が生え、鮮やかな色合いに変化していた。
 キングケルベロスとキンググリフォンの覚醒である。

 クールが炎を吐く。
 その炎は、今までのとは比べようがないくらいに勢いが増していた。
 ベールが風を巻き起こす。
 生み出される真空波の数が増え、鋭くなっていた。

 ランクアップしたパートナーを見て、刹那はすぐに考えをまとめた。
「未来、リタを頼む!」
 クールの背中にジャンゴを乗せ、自分も乗り込む。先に中枢に乗り込んで、ナガヒサとメシアの角と瞳を取り返す役だ。
「分かったわ! 刹那も気をつけて!!」
 未来はリタと一緒に広場に走り出す。こっちは敵をひきつける囮役だ。
 クールとベールのランクアップにより、戦力は倍になった。だからこそ、二つに分かれて行動したほうが早いと思ったのだ。

 敵が二つに分散したことにより、天使たちも二つに分かれた。
 故意か偶然か、刹那たちを追うチームはメシア・ジャンゴ派であり、未来たちを追うチームはメシア・ナガヒサ派であった。

      *

 未来たちは囮として、広場に向かった。囮として目立つためには、派手に暴れられる場所のほうがいいからだ。
 後を追ってきた天使たちは全員抹殺の命を受けているのだろうか、聖女として目をつけていたリタにも刃を向けた。まあ、それでひるむ連中ではないのだが。
 ベールとその妹ヒポグリフのデスハリケーンを起点に、ナハトコボルトのマグナスが、霊クイックシルバーのジオンガ(電撃魔法)が、未来とリタの蹴りが天使たちを倒していく。
 最後に残ったデュナミスも全員の一斉攻撃を受けて破壊され、あらかた敵は片付いた。

 と、
 一陣の風が舞い、白銀の鎧で身を固めた大天使が降り立った。
「貴方がウリエルですか?」
 体制を崩さないままリタが尋ねる。鎧の大天使――ウリエルは、リタの方を見て一瞬驚くが、すぐに剣を抜いた。話し合いの余地はなさそうである。
「貴方はナガヒサ君の味方? それとも敵?」
 未来が弾の入っていないデビライザーを構えて聞く。その質問に、ウリエルは無言で返した。
「行くぞ」
 ウリエルが翔る。
「ベール!」
 未来の声に、ベールが大きく羽ばたいた。
「たっぷりくらいなっ!!」
 天使たちをなぎ払った必殺のソニックブームが襲い掛かるが、ウリエルは歩みを止めない。
 真空の刃が、ウリエルの鎧を切り裂く。が、彼はそのダメージをものともせずに突っ込んできた。
「あぶないっ!」
 クイックシルバーが氷塊をウリエルに叩きつけ、軌道をそらす。かろうじてリタと未来は避けるが、相手はまたすぐに彼女達に狙いを定めた。
「避けてるだけじゃ駄目!」
 リタが足を止めて、拳を構える。ウリエルは相手がリタでも躊躇せずに剣を振り下ろした。
 紙一重で交わす。カウンターとして、がら空きになった場所に拳を叩き込んだ。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
 カウンターをもろに喰らい、大きく吹っ飛ぶウリエル。追い討ちをかけるように、ナハトコボルトのマグナスがウリエルを捉えるが、間一髪で飛んで避けた。
「お前ら……」
 剣に力が篭る。あの時撃てなかった天中殺だ。
「邪魔だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
 光の波動が襲う。リタと未来はヒポグリフたちが壁となって防いでくれたが、ベールは思いっきり喰らってしまった。
「みんな!」
 未来が仲魔たちの元に駆け寄ろうとするが、その前にウリエルが立ちふさがった。

「……ナガヒサ様を裏切ったお前は必ず倒す……」

 ウリエルの一言に、未来の顔色がさっと変わる。
 かつて未来はナガヒサと共に旅していたことがあった。ナガヒサにとって未来は母親的存在であり、自分を勇気付けてくれた存在だった。
 天使たちはそんな未来を聖女に仕立ててナガヒサのパートナーとしていたが、刹那の襲撃により洗脳がとけ、未来は刹那たちの元に帰ったのだ。
 慕われていることを知ってはいたが、彼女は刹那を選んだのだ。その時のナガヒサの心境は、未来に大きな重石として残っていた。
 あの時の自分は本当に間違っていなかったのか?
 もしかしたら、あのまま残っていたほうが彼のためではなかったのか?
 それとも……。

「私達はナガヒサさんも助けに来たんです! ナガヒサさんを倒しに来たんじゃありません!」

 リタの声で、未来ははっとなった。
 そうだ。自分たちは虹色のメシアの角と瞳を取り戻しに来ただけではない。ナガヒサを助けにも来たのだ。
 ここで立ち止まっていては、ナガヒサを救い出すことは出来ない。彼が自分を拒絶したとしても、今の自分にとって彼を助け出したいという気持ちが重要なのだ。
「そこを退いて。私達は、ナガヒサ君の所まで行く」
 未来たちの真摯な瞳に、ウリエルは後ずさる。
「……信じられるか……」
 ウリエルがかすれた声で未来たちの言葉を否定する。
 剣のブレは、彼の心の迷いを示していた。
「信じられるかぁぁぁぁぁぁっ!!」
 2度目の天中殺が未来たちを襲う。
 今度は庇う仲魔もおらず、未来とリタは大きく吹っ飛んだ。リタは巫女装束である大地の衣のおかげで幾分かダメージは抑えられたが、未来は悲惨だった。
 致命傷とまでは行かなかったが、痛みは彼女から立ち上がる気力を奪っていた。
「くっ!」
 リタが未来の前に立つ。ベールたち仲魔が立てない今、未来を守れるのは彼女だけだ。
 スカートが鮮やかに翻り、ウリエルを挑発するように手を振る。
「お前も! ナガヒサ様を裏切るか! 共に歩まぬと言うのかぁぁっ!」
 完全に逆上したウリエルの剣をリタは全てかわす。未来に、仲魔に当たらないように慎重に。そのせいでカウンターは狙えないが、ウリエルの動きはよく観察できた。
 剣がぶれた瞬間、リタの手がはねた。
「おらぁっ!」
 見事な手刀が決まり、ウリエルの手から剣が弾き飛ばされる。
「! 剣を奪われた程度で!」
 魔法を使おうとするウリエル。リタはそれに怖気づくことはなく、真正面から彼を見据えた。……いや。
 視線の先は、彼の後ろだった。
「!」
 視線がずれていることに気づいたウリエルが振り向くが、時すでに遅し。目に飛び込んできたのはすらりと伸びた脚だった。
「せぇいっ!!」
 回復した未来がウリエルの顔面に蹴りを入れた。
 未来の前に立ったリタは、わざとスカートを翻すことで中に隠していた大地の実を落としたのだ。瞬時に回復アイテムと悟った未来はそれをかじり、ウリエルの背後に回ったわけである。
 兜をかぶっているとは言え、全力をこめたキックはさすがに痛い。よろけるウリエルにリタと未来は同時に足を高々と上げた。

「「ツイスターハリケーーーーーーーン!!」」

 ごっ、と鈍い音が鳴り、ウリエルはばったりと倒れた(どこに当たったのかはあえて言わない)。

 静かに羽根へと変貌していくウリエルを見つめ、リタがぼそりとつぶやいた。
「……この人、ナガヒサさんを助けたかったんでしょうね」
「たぶんね……」
 未来が答える。独断でジャンゴたちに襲撃をかけたくらいである。
 それだけナガヒサの安全を守りたかったのだ。
「悪いこと、しましたね……」
「………そうね……」
 ウリエルは羽根となって散る。その羽根は、まるで何かを訴えかけるように舞った。

(ナガヒサ様を頼みます……)

 リタと未来は全ての羽根が散るまでずっと見つめ続けていた。

         *

 こちらはジャンゴと刹那。彼らはひたすらに中心部を目指した。
「次は右!」
 ジャンゴの指示に従って、クールはどんどん突き進んでいく。途中で立ちふさがる天使たちは、クールのファイヤーブレスによってばたばた落ちていった。
 コカトリス像の仕掛けも、一度解いたことのあるジャンゴが次々に指示を出して正常に動かしていく。
 そして、最上階。
 ジャンゴたちが扉に近づくと、中からばたばたと何かが暴れるような音が聞こえた。前の時といい、ずいぶんと壁が薄いよなとジャンゴはふと思う。
 二人はクールから降りて一つうなずきあうと、扉を思いっきり蹴り飛ばす。
「!」
 最上階のカーミラの部屋にいたのはラファエルとスフィンクスだった。一匹は無残に切り裂かれており、もう一匹は薄く発光しながらラファエルと対峙している。
 ラファエルはジャンゴと刹那に気づくと、持っていたメスを全部しまった。
「来ましたか。太陽少年」
 視線はジャンゴから離れない。隣にいる刹那とクールは完全に無視しているようだ。
 ジャンゴはぼろぼろのスフィンクスを庇うように前に出た。視界の端でスフィンクスが切り裂かれた仲間を引っ張って部屋を出るのを確認すると、ラファエルのほうに一歩踏み出す。
 ラファエルがジャンゴの手を取ろうとするが、ジャンゴはその手を大きく払った。
「僕はお前達のメシアになる気はない」
 きっぱりと言い放つと、ラファエルの目が人を見下すモノに変わった。
「ほう。では下賎な人間とイモータルがうろつきまわるこの地で、銀河意思と戦うつもりだと?」
「そうだよ。勝てる戦いだとは思えない。だけど簡単に諦めるつもりもない!」
「たいした自信だな。大方そこのデビルチルドレンにそそのかされたか?」
 ラファエルの視線が始めて刹那のほうに移った。
 刹那は厳しい目で、ラファエルを睨み返す。
「ジャンゴは自分の意思でそれを決めたんだ」
「そうかな? お前は自分たちデビルのことは一つも明かさず、我らが悪いとだけ言ったのではないのか?
 魔界で偽の魔王が暴れまわり、大きな戦争沙汰になっていることを一つも明かさずに!」
 ジャンゴが刹那のほうを見るが、刹那は視線を動かさなかった。ただただ厳しい目をラファエルに向けるばかりである。
「言う必要はなかったんだ。それに言ったところでジャンゴがお前らにつくとは思えないしな」
「はっ。魔界のごたごたを地上に持ってこられるなら、我らについた方が遥かにましだろう!
 この世で一番神に近く、太陽の遺志を継ぐに相応しい我々の方に!」

「ふざけた事を言うな!」

 反論したのは刹那ではなくジャンゴだった。拳を握る強さに、右手のソル・デ・バイスがぎしぎしと悲鳴を上げた。
「太陽はこの大地に生きる全ての命をみんな大切に思ってる! 共存を考えない奴らに太陽の意思なんか分かるわけがない!
 人々の命や意思を利用するお前達に、太陽の遺志を継ぐ資格なんてない!!」
「共存? 貴様らのような下等生物と!? そんなモノは利用する以外に価値はないだろうが!!」

 ジャンゴと刹那が動いた。

「「バカヤロォォォォォォォォォォォォッッッ!!!」」

 二人の拳がラファエルの身体に吸い込まれた。全力のパンチを二人分食らったラファエルは、部屋の奥まで吹き飛ばされた。
「僕はお前の言葉よりも刹那の言葉を信じる! 誰かを利用してまで世界を守る気はない!!」
「それだけの価値が、人間にあると思うのか!?」
 今の攻撃で出来た瓦礫の中から、ラファエルが飛び出した。

「異形の姿を! 異能の力を! それらから目を背け、同族であろうとも消し去ろうとする! そんな人間に価値があるのか!?」

 ジャンゴはカーミラを思い出した。異能の力ゆえ人々に恐れられ、殺されても伯爵に利用された薄幸の少女。
 彼女は人間の“裏”に殺された。だが、イモータルとして再生された時、彼女は人間の“表”に救われた。
 カーミラはサバタを愛し、サバタもカーミラを愛した。人間に価値はないかもしれない。だが、その気持ちに価値はある。
想い、愛する気持ちは無価値のものではない。

 かけがえのない、大切なもの。
 守りたいのは、それらを持つ者。

「あるさ!」
「少なくとも、愛を知らないお前よりは価値はある!」

 ジャンゴは剣を抜いた。
 それが、戦いのゴングとなった。