待ち人来たらず?

 引いたおみくじは、末吉。
 失せ物は出る。待ち人は来たらず。波乱万丈な一年になるでしょう。
 ――待ち人は来たらず。

 おみくじの文言をじっくりと見たはずだが、頭に残ったのはただ一つ。待ち人は来たらず。
 エージェントの少女は、おみくじを木に縛り付けると、深くため息をついた。待ち人は来たらず。今現在、じっくりとそれを感じている。何故なら、ライダーたちは今自分の周りにいないから。
 とは言え、正確には誰かから誘われたわけではない。ジャスティスライドのグループラインで初詣に行こうという話題になり、自分もそれに付いて行く事になったのだ。
 そして当日、寝坊やら道が混んでるやらで、ジャスティスライドは全員遅刻という珍しい事になり、晴れ着の少女は先にお参りするとだけグループラインに入れて、一人だけ先にお参りしていたのだ。
 そして気まぐれにおみくじを引いた結果が、待ち人は来たらず。まさに今の状況にぴったりだった。
(まあ、少し待てばみんな来るでしょう。集合場所も決めておいたし)
 ジャスティスライドのグループラインを見る。そこには一緒に行けない事への謝罪が四人分、綺麗に並んでいる。少女はそこに、今いる場所――集合場所を書き込んだ。
 さて、後は待つばかり。そう思って、周りを見回していると。
「かーのじょ♪ 一緒にお参りしない?」
 この空気にあまりそぐわないナンパ男たちに声をかけられた。
 人待ちな以上、当然彼らの誘いに乗るつもりはない。穏便に済ませようと「人待ちなんです」と答えるが、彼らはその程度で引き下がるようではなかった。
「えー、こんなに長い時間待たせるなんて、その相手絶対に一緒に行くつもりないよ~」
「そうそう、君可愛いから、こんな所で立ってると変なのに絡まれるよ?」
「それはつまり、君らのような男たちの事かな?」
 ナンパ男たちの会話に、聞き覚えのある声がしれっと紛れ込む。声がした方を向くと、そこには暖かそうな格好をした眼鏡の美丈夫が立っていた。
「悪いね君たち。この子は既に予約済みなんだ」
 くすくすと笑う浄に勝ち目はないと判断したか、男たちはあっという間にその場を離れていく。
「浄さん」
「やあ、あけましておめでとう」
 新年の挨拶をされたので、こちらも挨拶を返す。一通りの挨拶を済ませた後、浄が不思議そうな顔で周りを見回した。
「一人とは珍しいね。誰かと一緒じゃないのかい?」
「魅上くんたちはまだお参りの列にいると思います。四人全員遅刻したので」
「それはそれで珍しいね」
 確かに。全員真面目な性格故、こういう時は時間通りか少し前に来ると思うだろう。実際自分もそう思っていた。
 しかし現実は全員遅刻。そして列に巻き込まれてこの有様だ。
「浄さんは一人ですか?」
 こちらも聞いてみると、彼はひょいっと肩をすくめた。
「いや、俺はウィズダム全員で初詣。宗雲はこう言うのうるさいからね」
 なるほど。確かに宗雲はお参りやらお炊き上げやらきちんとやりそうだし、颯は屋台のメニューに目移りしそうだ。皇紀は……ちょっと想像がつかないが、行くと言われれば付き合うだろう。
 ともあれ、浄がここにいる理由は解った。しばらくは「虫」除けとして残って欲しいと思ったが、彼は彼で用事(おそらく女性とのデート)があるらしく、「それじゃ」と離れていった。
 そしてまた少女一人だけになる。
 SNSでも見てようか、とぼんやりと思ってライダーフォンを手に取ると、タイミングよくぴんぽん、とライン着信の音が鳴った。
『ごめん、もうちょい時間がかかるっぽい! 先に屋台とか見て回っててくれないかな?』
 陽真からのメッセージだった。どうやら思ったより列の進みが悪いらしい。これはしばらく時間がかかるだろうなと思い、お言葉に甘えさせてもらうことにした。
 颯と会えるかなと思いつつ屋台を見て回る。定番の焼きそばやたこ焼き、変わり種としてアユの塩焼きまで、色んなメニューがずらりと少女を歓迎した。
 せっかくなので、一つぐらい堪能しようと思って近くにあったフランクフルトの店に寄る。
 さて一つ頼もうと思ってカウンターに近づいた瞬間、どん、と何かにぶつかった。ぶつかった方を見ると、赤ら顔の中年男性がそこにいた。
「あ、ごめんなさい」
 謝罪するものの、男のしかめ面は変わらない。それどころか「人にぶつかっておいてそれだけか」と絡んでくる。
「え、だからごめんなさいって」
「だからそれだけかって言ってんだよ! 姉ちゃん、人を舐めるのもいい加減にしろや!」
「……」
 元々酒を飲んでいるのに加えて、虫の居所も悪かったらしい。こっちが穏便に済ませようとしているのに対して、大声で怒鳴り散らしてきた。
 助けを求めたいところだが、周りの人々は遠巻きに見ているだけで何も言ってこない。先ほど助けてくれた浄も、今は行方知れずだ。
 待ち人は来たらず。
 波乱万丈な一年になるでしょう。
 そんなおみくじの文言が頭をよぎる。
「おい、聞こえてんのか!? 誠意ってやつを見せろっつってんだ!!」
 ぼんやりしていたらしい。男が更に激高して掴みかかってこようとしてきた。

 ――その手を、別の誰かが掴んだ。

 男とエージェントの少女が同時にそっちの方を見ると、そこには魅上才悟がいた。
「お、おま……」
「暴力は良くない」
 才悟が男の手をぐいっと掴むと、その強さに男が悲鳴を飲み込む。さすがにその痛みで酒が抜けたか、男はすごすごと引き下がった。決着がついたことで野次馬も散らばっていく。
 後に残るのは才悟と少女のみ。
「あ、ありがとう」
 お礼を言うが、才悟の反応はない。
 どうしようかと悩んでいると、才悟はすたすたとその場を去って行く。慌ててその後を追った。
「魅上くん」
「……すまなかった」
 唐突の謝罪。謝られる理由がないので、目を丸くしてしまう。
 謝罪した才悟は振り返らないので、彼の前に立った。彼の顔は、ほんのりと赤かった。
「宗雲に怒られた。エージェントを一人にさせてどうするんだ、と」
 なるほど。
 あの後、浄は宗雲にエージェントのことを話したらしい。ジャスティスライドとはぐれたのは彼らの不手際ではないのだから、怒る理由はないと思うのだが、宗雲としては許せなかったようだ。
「だから、お参りを止めてキミを探した」
「お、お参り止めちゃったの!?」
「ああ。こうして見つけられたから、止めたのは正解だったな」
 お参りを止めてまで探しに来た才悟に呆れ果ててしまう。宗雲も聞いたら「そこまでやれとは言ってない」と呆れる事必至だろう。それでも才悟は、責任を感じてそこまでやるべきだと思ってしまったのだ。大げさだと思う反面、ちょっぴり嬉しくもなってしまう。
「もう一人にさせない。一緒に行動しよう」
 才悟が差し出す手を取る。最初の時と同じ、暖かく力強い手があった。
 待ち人は来たらず。
 波乱万丈な一年になるでしょう。
 もう一度頭の中で、おみくじの文言が浮かぶ。
 しかし今なら、それらの言葉に舌を出すことが出来る。待ち人は来たし、波乱万丈な一年になるとしても、この手があるならきっと乗り越えられる。
「ありがとう、魅上くん」
 笑いながら言うと、才悟はぽかんとした顔でこっちを見た。
「ど、どういたしまして」
「うふふ」
 ぽかんとした顔が――彼には悪いが――可愛く見えて、ついつい声を出して笑ってしまう。のだが。
「今の綺麗なキミを他の誰かに見せたくない」
 ……ぼそりと言われた言葉に、思わず顔が赤くなってしまった。
 才悟も才悟で言った事が恥ずかしかったのか、少し赤い顔のまま立ち尽くしてしまう。
 こうして2人は、陽真たちが来るまで立ち尽くし続けるのであった。