私のサンタは早寝です

「クリスマスイブにパーティーをやるんだ」
 時期は12月中旬。
 仮面カフェに遊びに来た伊織陽真の第一声は、それだった。
「仮面ライダー屋の仕事でクリスマスグッズをたくさんもらってさ。せっかくだからおれ達もパーティーやろうって事になったんだ」
 なるほど。
 陽真が言うには、マッドガイのメンバーも誘ったらしい。一応他のクラスも誘ったのだが、それぞれがクリスマスを楽しむと言うことで断られたとか。
その流れで、エージェントである自分と従者のレオンも誘われたわけか。
 ジャスティスライドとマッドガイのパーティー。さぞかし楽しい事だろう。しかし。
「申し訳ありませんが、その日はコスモス財閥の方でパーティーが行われるのです」
 自分の代わりにレオンが口を出した。
 そう。財閥の方でクリスマスパーティーが行われるため、代表として自分も参加せざるを得なくなったのだ。
 まだ未成年と言うことで早めに解放される予定ではあるものの、パーティー自体は参加しなければならない。残念だが、ジャスティスライド主催のパーティーには不参加だろう。
 頭のいい陽真はレオンの事だけでこっちの不参加を悟ったらしく、「そうかぁ……」と残念そうにつぶやく。その顔が本当に残念そうなので、こっちが申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。
「ごめんなさいね。でもライダーのみんなには、クリスマスの日にプレゼントを渡すつもりだから」
 エージェントになって初めてのクリスマス。なので、自分も少し張り切ってプレゼントを用意していた。とはいっても、全員分のジンジャーブレッドクッキー程度ではあるが。
 残念な気持ちを心の奥底に閉じ込めて、にっこりと微笑む。
「楽しんでらっしゃいね」

 時間が過ぎるのは早い。
 エージェントの仕事に財閥次期総帥としての仕事、そして仮面カフェオーナーとしての仕事。それらをこなしていると、気づけばクリスマスイブまで後1日というところまで来ていた。
「クリスマスは財閥の方に顔を出すのか」
 そう聞いてきたのは魅上才悟。
 毎度おなじみの仮面カフェの水に口を付けつつ、こっちに顔を向けて聞いてきた。
「ええ。次期総帥が顔を出さないなんて問題になりかねないし」
 同じ水を飲みながら、普通のペースで答える。ジャスティスライド主催のパーティーに行きたくないと言えば嘘になるが、コスモス財閥のパーティーも無碍には扱えなかった。
「そうか」
 才悟がぽつりと返す。何となく寂しそうに聞こえるのは気のせいだろうか。
「魅上くんもせっかくのクリスマスなんだから、楽しみましょうよ」
「そう言われても、何を楽しめばいいのか解らない」
「困ったら伊織くんたちに聞けばいいわ」
 彼らの事だ。才悟の何故何故攻撃にもちゃんと答えを用意してくれている事だろう。才悟がクリスマスをまともに楽しめない、と言うことはないはず。
 虹顔市に来てから初めてのクリスマス。アカデミーではロクなお祝いもしなかったであろうその日を、才悟にはたっぷりと楽しんでほしかった。何故なら、彼には本当の意味で過去がないから。
「楽しんでらっしゃいね」
 前にも同じことを言ったな、と思いつつ、エージェントは才悟に向かって微笑んだ。

 そしてクリスマスイブ当日。
 夕方から始まるパーティーに合わせ、昼から準備を始める。ドレスに化粧、髪のセットと目まぐるしく動いているうちは、ライダーたちのクリスマスに思いを馳せることはなかった。
「それにしても、何で会場で着替えるのかしら」
 ハンドバッグを手にぽつりとつぶやく。
 本当は家でドレスに着替えて行くつもりだったのだが、何故かレオンが「衣装は現地の方に送っておきました」と言ってきたので、現地で着替える羽目になった。まあ、いまだにハイヒールに慣れていないので助かるのだが。
 ライダーフォンが鳴る。送信者――レオンの名前を見て、そろそろ時間だと知った。
『ご主人様、そろそろ会場入りいたしましょう』
「ええ。今行くわ」
 さて、これからしばらく辛抱の時間だ。化粧で整えられた頬をぴしゃりと叩き、気合を入れ直した。

 パーティーは粛々と進められた。
 会社の社長やゲストの挨拶に続き、次期総帥である自分の挨拶。それからは歓談タイム。
 目の前に並ぶご馳走に目が行ってしまうが、それに手を伸ばす前に次々と色んな人がやってくる。大半が先代――父の知り合いで、自分に対して適当な挨拶をしていった。
 中にはあからさまに「小娘が」と舐めた態度を取る者もいたが、それらも全て笑顔でかわしていく。いちいち腹を立てていてたらキリがないからだ。
「お疲れ様です」
 そんな中、見知った客の一人である高塔雨竜が、自分に挨拶してきた。
「戴天社長の代理ですか?」
「ええ。社長は会社のクリスマスパーティーに出席していますから」
「ああ、そちらに……」
 お互い大変な境遇を思い、苦笑いを浮かべてしまう。富豪の家に生まれた運命とは言え、正直厄介な物である。

 そうして数時間が過ぎ、ようやく家に帰れる時間になった。
 本来なら最後まで残るべきなのだが、まだ若いと言うことで途中退場を許された。居残る者たちに頭を下げ、レオンを連れて会場を出る。控室で元の服に戻り、化粧を落とすと、ようやく一息ついた。
 時計を見ると、夜の9時過ぎ。家に着くころには10時を回っていそうな気がした。
 そう言えば、ジャスティスライド主催のクリスマスパーティーはどうなったのだろう。このぐらいの時間帯だともう既にお開きか、それとも逆にまだまだこれからと盛り上がっているところか。気になりはするが、もう夜は遅いし確かめに行く余裕はない。
 とりあえず家に帰ろう。それから電話なりして話を聞こう。そう思って、レオンの運転する車に乗った。
「ご主人様、家まで時間がありますから寝ててもいいですよ」
 レオンの好意に甘え、目を閉じる。だいぶ疲れていたのか、次に目を開けたら家の近くだった。
「お疲れさまでした。ごゆっくりお休みください」
「そちらもね。おやすみなさい」
 自分の家であるタワマン前でレオンと別れ、セキュリティを解除して最上階に上がる。家のドアを開けた時、違和感を覚えたが、疲れだと考えて明かりをつけた。

 リビングに、うずくまっている人影がいた。

「え?」
 正確には、テーブルに突っ伏している人影。赤いサンタ帽を被った見慣れた青年――才悟がすやすやと寝ていた。
 よくよく見ると、テーブルにはホールケーキが1つと小皿とフォークのセット、コップが2つ。それから仮面カフェの水が入っているであろうペットボトルが置かれている。もしかしなくても、パーティーのセットだ。
「どういう事?」
 思わず聞いてみるものの、答える者はいない。唯一返事できる才悟は既に夢の中だ。
 とりあえず、事情を知ってそうな者に連絡を入れるしかない。そう思って、ルームメイトの陽真に電話をかけた。
『もしもし? あ、家に着いたのか?』
「ええ。たった今ね。で、どういう事かしら?」
『どういう事? え? 才悟そっちにいない?』
「突っ伏して寝てるわ」
『あちゃー、サプライズ失敗かぁ』
「サプライズ?」
 ……つまるところ、これは才悟主体のサプライズのつもりだったらしい。
 こっちのクリスマスパーティーに来れないのを残念がった才悟が、それなら自分一人でもお祝いすると言って聞かなかったので、ケーキを持たせて行かせたとの事だった。
 ただ才悟の寝る時間は8時ごろ。自分が帰るのは早くても9時以降。その時間のずれを彼は考えていなかったようだ。
 恐らく彼も自分が帰ってくるまではと粘っていたのだろう。しかし眠気には勝てず、こうして寝てしまったと言うところか。
 ……と、そこまで考えて、とあることに思い至る。
「もしかして、レオンも協力してた?」
『……バレた?』
 陽真の悪戯がバレたような声色で、全ての辻褄が合った。
 パーティーの着替えを家ではなく会場でさせたのは、なるべく自分が家を空ける時間を長引かせるためだったのだろう。その間に、もしもの時にと渡していた合鍵で才悟が入り込んでいたわけだ。
 よく見るとホールケーキはイチゴのショートケーキ。クリスマスはブッシュドノエルが定番だが、あえてこれを選んだのは、自分がイチゴのショートケーキが好きなのを知っていたからだろう。
 サプライズは綺麗に決まるはずだった。才悟の寝る時間も考慮できていれば、だったが。
「みんな私の事を思いやってくれたのね」
 自然と笑いがこみあげてくる。ライダーやレオンたちから大事に思われているのが、とても嬉しい。
『そりゃ、おれ達の大事な仲間だもんな』
「ふふ、ありがとう」
 明日は楽しみにしていてね、と付け加えて、電話を切る。
 後に残るは自分と眠る才悟のみ。
「んん……」
 起きたのかと思って視線を移すが、才悟が目を覚ます気配はない。さっきのは寝言にならない寝言だったようだ。
「髪にクリームがついちゃうわよ」
 聞こえないと解っていても、つい口に出して注意してしまう。邪魔にならないように払おうとしたが、思い立って彼の頭を自分の膝の上に乗せた。
 眠る才悟の髪をそっと撫でると、サンタ帽がころりと転がり落ちる。
 きっと自分のために頑張って起きようとしていたのだろう。そんな努力も空しく、眠気には耐えられなかった才悟。まるでサンタを見ようと寝ずに頑張っていた子供のようだ。
「子供より先にサンタが寝たらどうしようもないじゃないの」
 世界一早寝なサンタの寝顔に、ついつい笑みがこぼれた。

 翌日、自分の家ではない場所(しかもエージェントの家)で目が覚めた才悟がパニックを起こすのは、また別の話だ。