絵の具で塗りつぶしたかのような青い空を見上げ、ふうと一息つく。
シルバーとブレイズは互いの顔を一旦見て、湧き上がる気恥ずかしさからすぐに視線をそらした。最近はいつもこんな感じだ。
――どうしてこうなんだろう。
もう何度目か解らない問いを、己の中で投げかける。前は普通に接することが出来たのに、今では出来ないことばかりだ。あと少し、「何か」があれば近づけるはずなのに。
もしそれが解ったなら……
「なあ」
シルバーの方が先に口を開いた。ブレイズが一瞬びくりと体を震わせたが、すぐに呼ばれた方を向いた。
「な、何だシルバー」
「え、えーと……あ、これ」
ごそごそと取り出したのは、紫色の袋。かすかに漂う甘い香りは、袋の中身がお菓子であるという事実に他ならない。
今日は、ホワイトデーだった。
バレンタインデーの時は、ブレイズはシルバーにトリュフチョコを贈った。意地を張って「買ったもの」と言ったが、本当は前日深夜まで時間をかけた手作りだった。
そしてホワイトデー。お返しにシルバーがブレイズに贈るのは、同じように手作りのマーブルクッキー。問われれば手作りと答えるつもりだが、表立ってそれを話すつもりはなかった。
おそらく周りもこんな感じで盛り上がっているのだろう。喜怒哀楽、さまざまな感情が入り乱れた楽しいイベント。
「あ、ありがとう」
手作りクッキーを受け取るブレイズ。受け取る瞬間、お互いの手と手が触れた。
(このまま時が止まればいいのに)
そんなことを思う。時が止まれば、自分が抱える苦しみも切なさも止まる。ただ触れ合っている手のぬくもりだけを、感じていられる。
だが、あっけなく手は離れる。いつまでも手をつないではいられない。それが解っているからこそ、何も言えずに終わるのだ。
――言える訳がない
二人はそろって、そう思う。
いつも胸に仕舞いこみ、口に出そうと思っても言えずに終わる。言えば、この関係は崩れて消える。それが、怖い。
もしかしたら、お互い同じ想いを抱いているのかもしれない。告げることで、この微妙な関係を昇華できるかもしれない。それでも言ってしまうのが、怖い。
それはどうしても言えない、禁じられた言葉。
『あなたがすき』