ミステリー・チョコレート - 3/3

 もらったチョコレートは、今もソロの手の中にある。
 ミソラがいなくなったので捨てることもできるが、味は良かったし捨てるのも何となくもったいなく感じて、こうして手元に残してしまっているのだ。
「ファンも気の毒だな」
 目的の相手に食べてもらえず、こうして見知らぬ誰かに食べられる。
 そんな皮肉まみれのチョコをもう一つ口に放り込もうとすると、近くのエア・ディスプレイから声が聞こえてきた。

『そういえばそろそろバレンタインだけど、ミソラちゃんはチョコ誰かにあげるの?』
『えへへ~、上げたい人にはほとんど用意してます!』
『うわー、俺もミソラちゃんのチョコ欲しい!』

 どうやらバラエティ番組で、響ミソラがゲストとして出ているらしい。話の内容からするに、生放送ではないようだ。
 ミソラの「上げたい人にはもう用意してます」の言葉に、ソロはスバルの事を思い出す。彼女の事だ。さぞかし気合の入ったチョコレートを贈った事だろう。
 番組の会話は続く。

『じゃあチョコあげましょうか? ファンからのチョコをそのまま、ですけど♪』
『そ、それはヒドいよ! そりゃミソラちゃんはチョコをたくさんもらってるけど!』
『あはは、冗談ですよ。ファンからのチョコは全部施設に送ってるんです。事務所からも声明出してるんで、みんな解ってくれてますよ~』

 ぴたり、と手が止まった。
 今、彼女は何て言った?

“ファンからのチョコは全部施設に送っている”
 では、自分が受け取ったチョコは一体何だ?

 エア・ディスプレイに映るミソラはファンのチョコは施設送りにしていると言っているが、先ほどチョコを渡してきたミソラはファンからのチョコだと言っていた。
 どっちが彼女の本当の言葉なのだろうか。

 ソロはチョコレートを改めて見直してみる。
 ラッピングはさっき破ってしまったので手元にないが、箱にあるロゴはソロでも見覚えのあるものだった。つまり有名ブランドものだ。
 もちろんこれだけで「誰が」買ったチョコなのかは解らない。だが、食べる時の彼女の真摯な顔と去る時の赤い顔を考えると、もしかしたらという考えが頭に浮かぶ。
 しかし。

“上げたい人にはもう用意してます”

 その言葉がリフレインし、考えを否定させた。
 色んな可能性が頭に浮かぶが、どれも信ぴょう性が薄くていまいちすっきりしない。もやもやした気持ちになってきたので、チョコを捨てようかと思った瞬間。

『ミソラちゃんからのチョコを拒む奴なんていないでしょ?』
『面と向かっていらないって人はいないですよ~。でも受け取ってくれるか解らない人は確かにいますね。拒まれたらどうしようかなぁ』

 ……ソロの手が、再び止まった。