「ふーむ、ミソラがソロにチョコをねえ……」
一方こちらは偶然その場面を見てしまった暁シドウ。
ミソラからもらったご当地旨い棒(バレンタインのプレゼント)をかじりつつ、一緒にいたアシッドとクインティアの方を見た。
『彼女と彼の関係は良好とは言えません。言った通り、ファンからのチョコを押し付けたのでは』
「いいえ」
アシッドが極めて普通の分析を出すが、クインティアはその結果を否定した。
「あれはミソラが彼のために買った物よ」
バレンタイン前日。つまり昨日。
義理チョコを求めて近くのデパートに行ったクインティアは、バレンタインブースで真剣な顔をしてチョコを選んでいるミソラを見たのだ。
その時選んでいたチョコの一つが、今日ソロに渡された。ここから導かれる結論は一つしかない。
だがそれだと、新たな謎が生まれてしまう。
『では何故、響ミソラは嘘をついたのでしょうか?』
相手のために買ったチョコなら、そのまま言って渡せばいい。なのになぜ、ミソラは嘘をつく必要があったのだろうか。
そもそも、何故わざわざ買ってまでチョコを上げたかったのか。
アシッドの問いに対し、クインティアは黙って肩をすくめた。さすがにそこまで解らないようだ。
ただ、シドウの方は何となく想像できていた。
ミソラが嘘をついた理由。それは単純で、ソロにチョコを受け取ってもらう口実作りだ。
彼の性格上、普通にチョコを渡したところで受け取らない。しかし受け取るだけの理由があれば?
助けてくれたお礼、試作品の試食、せっかくだから一緒に食べよう。色々な理由を考え、選んだのが「ファンからの大量のチョコをもらって困っている」だったのだろう。
星河スバルという本命がいるにも関わらずソロにチョコを渡すのは、ミソラにとって最大の冒険だったのだ。
(ま、そこまでするほどの感情を、あいつに向けているんだろうな)
それがどういう物なのかは解らないが、悪い結末にならないように祈るぐらいならできる。
シドウは不思議顔のままの相棒と恋人を見ながら、内心ミソラとソロの関係を思った。