ミステリー・チョコレート - 1/3

「はい、これ」
 2月14日。バレンタインデー。
 サテラポリスに呼び出されたソロに渡されたのは、かわいらしくラッピングされたプレゼントだった。

「……何のつもりだ」
「バレンタインよ。チョコレート」
 訝しげに問うソロに対し、プレゼントの送り主である響ミソラがややつっけんどんに答える。しかし、その答えは彼が望むものではなかった。
 さすがにソロも今日が何の日で、このプレゼントの中身が何なのかは解る。聞きたいのは、何故自分に渡すのか、だ。
 自分と彼女の関係はただの顔見知り程度。しかも彼女は本命がいるのだから、わざわざ自分に渡す理由がないはずだ。
 ミソラの方もこっちが聞きたい事を察したか、ちょっと困ったような顔になって説明し始めた。
「ファンからたくさんチョコもらっちゃって、とてもじゃないけど食べきれないの。だから、こうして知り合いとかに配ってるんだ」
「? 貴様はむしろ渡す方だろう?」
「最近は女の子同士で交換し合ったり、男の子から女の子に渡すのも流行ってるんだよ」
「そうか」
 ミソラは女子だが人気アイドルでもあるため、こういう時は大量にプレゼントが届くようだ。日持ちしにくいお菓子なので、こうして配っているという事か。
「あ、スバル君にはもう手作りチョコ渡したからね。そういうところは気にしなくていいから」
 思い出したかのように付け加えるミソラ。手作りの部分は余計な情報だが、そこは気にしないでおいた。
 ともあれ、自分にまでチョコを渡す理由は解った。こうなると、後は受け取るべきか否か。
 受け取る理由はない。受け取らない理由もない。チョコは好きでも嫌いでもないから、尚更困った。
 ふと気づくと、ミソラはじっとこっちを見ていた。
「……何だ」
「捨てられたら嫌だから、食べるまで見てるの」
「……」
 どうやらこっちの思考を読まれていたようだ。観念して、ソロはラッピングを剥がした。
 中にあったのは、立方体や球型のチョコがいくつも入ったアソートメントもの。どれを食べても良かったが、その中でオーソドックスな色と形のチョコを取って食べた。
 舌に乗せて、軽く転がしてみる。甘すぎず苦すぎずの程よいスイートな味。悪くない味だ。
「……どう?」
 こっちが食べたのを見て、ミソラがおずおずと感想を聞いてくる。嘘をつく必要もないので、ソロは素直に「悪くない」と答えた。
「良かった」
 安堵のため息をつくミソラ。
 とりあえず1つは食べたからか、彼女はお礼を言ってその場を去っていった。
 その顔は何故か赤かった。