ゴシックロリータ

「いや本当に助かったよ~。服もよく似合うし!」
 そんな事を言うのは国民的アイドル響ミソラ。
「……報酬のためだ。勘違いするな」
 ミソラの言葉に対して冷たく否定するのは、鋭く赤い目が印象的な白髪の少年――ソロだった。

 何故こうなったかと言うと。

 ファッション雑誌のクリスマス特集の表紙写真のモデルとして、ミソラが選ばれたのだ。どうも、今年のクリスマスモデルは「甘ロリ&ゴスロリ!」がテーマらしく、甘ロリが似合う少女としてミソラが選ばれたのだ。
 だがここで問題になったのは「ゴスロリが似合う少年」。
 ミソラは最初スバルを呼ぼうと思ったのだが、出されたクールな感じのゴスロリ服を見て似合いそうにないと思った。無理やり着せても、おそらく違和感しかないだろう。
「こっちも似合いそうな男子タレントを探してみたんだけどね……」
 とはファッション雑誌編集部の言葉。確かに、ゴスロリ服が似合ってミソラと同じぐらいの年齢のタレントとなると相当絞られるだろう。少なくともミソラの中で、候補になりそうな男子タレントはいなかった。
 ……と、ふと頭の中で一人だけ似合いそうな少年が浮かんだ。
 改めて出された服を見てみる。フリルなど飾りは多いものの、すらりとした服。脳内で着せて見ると、違和感はあまりなさそうだった。
「ミソラちゃん?」
 考え込んでいたミソラを不思議がったか、編集部の人が声をかける。とりあえずミソラはダメ元で、「一人似合いそうな子がいるんですけど」と言ってみた。
 そして呼び出した似合いそうな子――ソロの返事は当然「ふざけるな」。
「わざわざ呼び出してきて何を言い出すかと思えば、そんなくだらない事で……」
 さっさと踵を返して帰ろうとするソロを、必死になって止めるミソラ。デバイスからハープまで飛び出して、何とか彼を引き留めようとする。
「おーねーがーいー! 似合いそうなのソロだけなんだよ~! アルバイトみたいなもんだと思ってやって!」
「星河スバルにやらせればいいだろうが」
「この服だよ? 似合うと思う?」
 ミソラが服の写真を見せると、ソロはその服を着たスバルを想像したのか沈黙した。そこのセンスは自分と同じで良かったなぁと、内心ほっとする。
 だがソロを引き留めるにはまだ押しが足りない。元々人とつるむのが嫌いな彼に、どうすれば一緒に写真を取ると言う苦痛の時間を耐えさせることが出来るのか。
 肝心のソロはひっつくな、と無理やり引きはがそうとしている。以前だったら殴り飛ばしてでも振り払っただろうに、そこは成長と言うべきか何と言うか。
 とにかく彼にやる気になってもらいたい。そのために必要なのは……。
「そ、それじゃあさ、何かゲーム一つ買ってあげる! それで引き受けて!」
 本当はムーの遺産か何かがあれば一発なのだが、あいにくそのようなアーティファクトは手持ちにない(あったらあったで速攻奪われていたと思う)。だから、現在の趣味の物で釣る事にした。そしてそれはうまく行ったようで、ソロの動きがぴたりと止まる。
「……何でもか?」
「さすがに世界規模の超激レアモノは無理だけど」
「……いいだろう」
 予想以上にあっさりと乗ってくれた。驚きではあるが、受けてくれたことには感謝だ。
「ありがとう~~!! 本当に恩に着るよ!」
「うるさい。さっさとその写真を撮るぞ」
「OK!」
 ミソラはソロの手を引いて、撮影現場へと走った。

 そう言うわけで、ソロは大人しく服を着て写真撮影に応じている。
 クールなゴスロリ服はソロのためにあつらえたかのようにぴったりで、ミソラは改めて自分の目に狂いはなかったと自画自賛する。
「いいよいいよ~。いい感じにハマってる!」
 雑誌編集者も気に入ったらしく、さっきからずっとべた褒め状態だった。カメラのフラッシュが焚かれる度に、その笑みが深くなる。
 表紙写真はあくまでミソラをメインにしつつ、ソロの方にもカメラが向けられる。その度に彼の表情が歪むが、ミソラが「我慢して」とそっと注意した。
「一枚取れれば後は問題ないんだから」
「ちっ……」
 いつぞやのシーサーアイランドでも思い知ったが、グラビア撮影と言うのは思ってる以上に疲れる作業だ。カメラに向かって笑顔を向け続けるのもだが、気に入られたポーズを延々と取り続けると言うのも精神的にクるものがある。それなりに慣れているミソラでも疲れるのだから、おそらく初めてであろうソロは相当苦痛なはず。
 悪い事をしているなあとミソラは思う。キズナや人と接することを否定する彼に、このような仕事を手伝わせているのだから。
 だが今彼が着ている服は彼にしか似合わないだろうし、何よりミソラ自身一緒に仕事するのも悪くないと思っている。それだけ楽しい思い出が一つできるのだから。
 どのような形であっても、楽しいと感じればそれは思い出になる。例えその出会いや戦いが最悪だったものだとしても。
 そうして思い出を積み重ねて、いつかは友達とはっきり呼べるようになりたい。友達と認めさせたい。そう言う気持ちがミソラにはあった。
(まあ本人は絶対に認めないだろうけどさ)
 ソロの意志の固さは嫌ほど解っている。だけど自分が思うだけ、自分が言うだけならタダだと思う。何故なら、人の付き合いと言うのは千差万別。ソロの付き合い方がそれなら、自分の付き合い方はそう言うものなのだ。
「うん、このくらいかな」
 やっと編集者が満足できる写真が撮れたらしい。終了の合図が上がった。
「本当はもっと色んなポーズを取らせたいんだけど、ミソラちゃんの相手の子はこういうの慣れてないだろうし」
「ありがとうございます!」
 編集者の気遣いに、ソロの代わりにミソラが頭を下げる。肝心のソロはようやく身体を自由に動かせるようになったので、軽く体をほぐしていた。
 出来上がった写真を見せてもらったが、さすがプロと言える出来栄えだった。これが書店に並ぶのかと思うと、ミソラは凄く楽しみになった。

 撮影は無事に終わった。
 着替え終わったソロに、同じく着替え終わったミソラが声をかける。
「今日は本当にありがとう。雑誌は12月10日に出るから、良かったら買ってよ?」
「買わん」
「電子書籍も出るんだけど」
「そっちもいらん」
 自分の写真なんだから興味持てばいいのにと思うが、仕事自体が嫌だったのだろうから仕方がない。ミソラは改めて頭を下げた。
「私は買うよ。ソロのかっこいい恰好見れたし、一緒に写真撮れたしね」
「貴様が一緒に写真を取りたいのはオレじゃないだろうが」
「そうでもないよ」
 ミソラがからりと笑うと、ソロは意外そうな顔になる。
 確かにスバルとたくさん写真を撮りたいが、スバル以外はお断りだなんて思っていないし思いたくない。自分に関わる人たちとはたくさん写真を撮りたいし、たくさん思い出を作りたい。その中に、ソロもいる。それだけなのだ。
「……まあどう考えていようと、オレの考えは変わらん」
 ソロはそう冷たく突き放したが、ミソラは笑顔を崩さなかった。
 一緒に仕事に付き合ってくれただけで充分なのだから。

 

「あ、なんかすっごいキラキラしてるんだけど。3つぐらい」
「き、貴様、SSRをそんなにたくさん出したのか!!?」