ソロの視線が、とある物で止まった。
適当に隅に寄せられたゲーム機の近くに、見覚えのあるゲームのパッケージ。超人気シリーズの最新作で、ソロもクリアしたことがあるゲームだ。
「それ、知ってるの?」
「ああ」
ゲームに目を付けたのに気づいたらしく、ミソラが訊ねてきた。
クリアした、と付け加えると、彼女の目が丸くなった。
「嘘! 私発売日に買ったけど難しくてまだクリアできてないよ!?」
「そうなのか?」
「仕事で時間がないのもあるけど、あそこのミニゲームが難しくて」
「……あそこか」
やり込んでいたので、どこで詰まっているのかがすぐに解った。彼女が詰まっている場所は謎解きミニゲームが組み込まれているので、詰まる人が続出していた。
ソロは時間と閃きもあってクリアできたが、ミソラは仕事の忙しさもあって進められなかったようだ。
自分がクリアできてないゲームをクリアした、と聞いたミソラ。ゲームパッケージを手に「ねえ、代わりにクリアしてよ」と頼み込んできた。
「自分でクリアしろ。人に頼るな」
「そうしたいけど、本当に時間がなかったんだってばぁ! せっかくだからやり方見せてよ~!」
ミソラはお願いと言いながらも、既にゲームを起動させている。教えてもらう気満々なのがよく解ってしまった。
セーブデータは問題のミニゲームの手前。プレイ時間を見る限り、仕事で時間がなかったというのは本当のようだ。
見せて見せてとせかされてしまったので、ソロはしぶしぶコントローラーを手に取った。
「あ~、そう動けば良かったんだぁ! 気づかなかった!」
「動かし方の説明がヒントにもなってるんだ。もう少しちゃんと読め」
「ここ、LV上げに向いてる場所ってホント?」
「ああ」
「じゃあここでLV上げする! メンバーは……」
「……装備整える方が先だろうが」
「そろそろ終盤かなあ」
「このイベントが終われば話が進む」
「……ぐすっ」
「……」
「さすがにもう…眠い……」
「そうだな……」
『あらまあ、すっかり寝入っちゃってるわね』
『ダ……』
朝。
一晩続いた雨はもう止み、窓から暖かい光が差し込んでいる。だが部屋の主と来客者は目を覚ますことなく、仲良く寝ていた。
あの後、2人はゲームに明け暮れて一夜を過ごした。
さすがにクリアまで行けなかったが、ラストダンジョンの手前までは行くことができた。そこでとうとう眠気に勝てず、2人揃って眠ってしまったのだ。
布団を持ち込むことはできたが、ベッドまで移動するのは無理だった。そして今の雑魚寝に至るわけである。
『……』
ラプラスが実体化してソロを揺さぶるが、彼は軽くうなるだけで起きる様子はない。朝からしっかりしているソロにしては珍しい事だった。
『これは……仕事に行けそうにないわね』
『……』
ハープの方もミソラを起こせなかったようで、眉根を寄せてしまう。そろそろ起きてもらわないと、朝食などを全部省略して家を出ないといけなくなる。
ミソラの仕事場である事務所やTV局はやや遠い。電波変換すれば相当な時間短縮になるが、もし疑問に思われたら大変だ。
何より。
満足そうに眠る2人を無理やり起こすのも気が引ける。これから仕事だと解っていても、だ。
ハープはため息を一つついて、事務所への言い訳を考えるのであった。