音もなく携帯端末のカメラ機能が、自分を捉える。
解っているけれど、背後からの攻めに対して耐え抜けるほど、ミソラは辛抱強くなかった。
「……は……!」
喘ぐ。
雌として雄のモノを咥えこんで震える腰。それに合わせて乳房も震え、後ろから突いてくる男を誘うように動いた。
「すっかり溺れたな」
男……ソロの言葉に何か返したいものの、何も返せない。腰を動かされて喘ぎ声になってしまうのだ。
ずちゅぅっ!
「ひぁああっ!」
的確に最奥を貫かれ、ミソラは大きく喘ぎ、震えた。
限界は近いが、相手もそれを理解しているのかあえてずらして突いている。なので、ミソラはイキたくてもイケない状態だ。
(つらい……)
心の中を占めるのは、その三文字だけ。
相手に自分の思いが伝わっていないのが、つらい。
ただただ性欲処理のために使われているのが、つらい。
ぐっと腰をつかんでいた手に力が入られた。
「うっ、あ、ぁあっ! や、やだぁぁっ! もうイくぅぅっ!」
「そうか」
「ああぁぁぁああっ!!」
ずぼずぼと何度も抜き差しされた結果、完全に達する。
背中を大きくそらして快感に耐えていると、視界の端でソロがにやりと笑った気がした。
ソロがいるチャンバーに足を踏み入れたミソラを待っていたのは、そのソロからの冷たい視線だった。
そこまでは想像できていたので普通の顔で受け流したが、押し倒されて服をはぎ取られた時はさすがにひやりとした。
そして始まったレイプに近いセックス。あっという間に濡れた股間に熱い肉竿を挿れられ、ミソラは大きく喘いだ。
激しい律動に酔いしれていると、ふと目の前で何か翳されているのに気付く。いつの間にかいたラプラスが持つ黒いそれは……携帯端末。
ちかちかと細かく光が明滅しているのを見て、瞬時に自分は撮られているのを察した。察してしまった。
「な、何を……!?」
怯えた目で携帯端末を見つめるミソラ。その様子を見て、ソロがくつくつと低く笑った。
「性懲りもなく人にすり寄ろうとした罰だ。この動画を、星河スバルに見せる」
「え!?」
ソロの言葉にミソラの身体は完全に固まってしまう。
スバルに見せる。それはつまり、この動画を表に出してしまう可能性が出てしまうと言うことだ。スバルにこの痴態が知られるのも恐怖だったが、動画が表に出ることも恐怖だった。
そうやって動画が表に流れた瞬間、何が起きるか。ミソラは重々承知だった。
――ファンの暴走。
正義と義憤にかられたファンと言う名の暴徒たちが何をするか。ミソラは過去の事件で嫌と言うほど思い知らされていた。
そんな暴徒たちが自分の敵討ちという名目の元、ソロに何をするか……想像に難くない。
もちろんただの想像だ。スバルがこの動画を受け取らずに速攻削除すれば何の問題もないだろうし、そもそもソロがこれをスバルに送りつけなければいい。
だがソロがこの動画を送り付けて、スバルが開いてしまったら。
何らかの手違いで、この動画がSNSに流れてしまったら。
ソロは強い。だがそれは一人だからこその強さだ。かつて彼は複数の人間からいわれなきリンチを受けている。
もし彼がまた同じような目にあったとしたら。それが理由で命を落としたら。
耐えられるわけがなかった。
「やめ……ぁうぅぅっ!」
止めようと携帯端末を取り上げようとするが、その動きは予測済みだったらしく肉竿で貫かれた。
それ以降、ソロはもう何も言わずにミソラを蹂躙し続けた。真正面から、後ろから、横から。とにかくどこからでも。
「だ、だめぇ! おかしくなるぅ……!」
「いいぞ、なっても」
「あひぃっ!」
唯一の救いは常にゴムを付け続けていた事。おかげで妊娠することはないだろうが、それが逆にミソラの心を重くさせていた。
(いっそのこと孕ませる勢いでレイプしてくれれば)
思いっきり嫌うことが出来れば、こんなに苦しむことはないのに。
わずかな優しさと律義さが、ミソラの心から憎しみを奪い去っていってしまう。代わりに植えつけられるのは――愛おしさ。
せつなさと苦しみと快感が入り混じり、ミソラの嬌声は一段と大きくなった。
ミソラに向けられていた携帯端末が下ろされた。
(終わった……?)
体力はほとんどないものの、何とか身体を起こす。目の前にいたはずのラプラスは姿を消しており、完全に終わったのだと解った。
ソロの方はさっきまで膣内にあった肉竿を抜き、後処理をしている。
「それ……どうするの……?」
ミソラが指したのは精液たっぷりのゴムではなく、ベッドの上に無造作に置かれている携帯端末――動画だった。
ソロは呆れたようにこっちを見ると、「星河スバルに送る」と答える。
「あいつに見せれば、自分が何をすべきか解るだろう」
「だから!」
「そういう関係じゃない、か? 本当に愚かな女だな、貴様は」
ミソラの主張はまだ信じられていなかった。悲しいことだが、それよりも。
「動画を表に出すつもりなの?」
「星河スバル次第だな」
「……!」
熱が一気に引いていったのが解る。
星河スバルの動き次第。つまり、ソロは表に出すことも考えているということだ。そうなると当然、何も知らないファンがそれを見つけてしまう可能性がある。
「それだけはだめ!」
慌てて携帯端末を取ろうとするが、ソロが先にそれを取り上げる。諦めきれずに端末を持ってる手にしがみつくが、彼は微動だにしなかった。
「そんなに自分の痴態を見られたくないか」
「違う!」
鼻で笑うソロに対し、ミソラは大きく首を横に振った。
「見られたくないのはそうだけど、何よりも、それを他の人の手に渡って欲しくない。
この動画が原因で、貴方が襲われるとか、あって欲しくないの!」
……ソロの動きが止まった。
顔の笑みも消え、ただただ疑問と戸惑いが浮かんでいる。聡い彼だが、まだこっちの真意に気づいていないようだ。
ミソラはしがみついたままぽつぽつと続ける。
「この動画が表に出たら、間違いなく貴方は特定される。そうなったら、間違いなく貴方は襲われる。
貴方は雑魚ごときって思うだろうけど、万が一ってこともあるの。そうなったら、私……」
ぽたり。自分の腕に水滴が一つ落ちる。
気づけばミソラは泣いていた。
「お願い。動画を表に出そうとしないで。私の事は信じなくてもいいから、その動画だけはそっとしてほしいの」
「……」
ソロは動かない。だが。
ぐいっ
「きゃ……」
再び抱き寄せられ、唇を奪われる。当然、舌を差し込まれて深いそれへと変わっていった。
そのまま押し倒されて、乳房への攻めを許してしまう。……否、受け入れた。
そう。受け入れた。これからのセックスは今までのようなレイプに近いものではないと、本能で察したのだ。
「そ、ソロぉ……」
せつない声で鳴くと、ソロが耳元でささやいた。
「耐えられたら、考えてやる」
「……! あ、はぁぁっ!」
ソロのそのささやきに、ミソラは目を見開く。
そんな彼女の動揺に気づいたかどうか、ソロの手の動きは激しくなるのだった。