その部屋はサテラポリスの地下深くにあり、まず使われることはない。
厳重な警備が敷かれ、電波も遮断されるので、脱出は不可能。トイレや風呂などの最低限の生活家具はあれど、部屋は狭く生活するには苦しい。
曰く、世界的な凶悪犯を収容する時のみ使われる部屋だが、1年に1日だけとある理由である1組の男女のために使われている。
それを知るのはごく少数である。
部屋のベッドに腰掛ける男、ソロにとってここは隠れ家とも言えた。
ソロは今、テロリストと深い繋がりがあるとされて世界中から要注意人物とされている。
当然そんな気は全然ないのだが、ムーとの関係や彼が孤高を掲げていることから、一部の半グレが彼を勝手に崇拝しているのだ。
事情を知っている人間はソロがその手の輩と手を組むとは思っていないが、世間はそう思わない。故に、要注意人物扱いというわけだ。
そんな中、ソロはヨイリーから直接「ここを隠れ家の一つにしなさい」と言われた。
「安心して寝れる場所があると気が楽でしょう?」
と言われて勧められたのが、この『特別収容チャンバー』だった。
この申し出を撥ね退けても良かったのだが、世界中から警戒される身としては、外界から隔離されたここは恰好の寝床だった。
そして何より。
無意識のうちに求めていた「彼女」に会える、唯一の場所だった。
某月某日。
チャンバー内で待っていたソロの目の前で、扉が開いた。
知られざる部屋を知るのは、ごくわずかな人間のみ。そしてここに来るのは片手で数えられるぐらい。
「……久しぶりだね」
その人間の一人である女性……響ミソラがほほ笑んだ。
彼女は今、世界的人気を誇るシンガーソングライターになっていた。
美しさと歌声に磨きがかかり、福祉活動にも精を出している事もあって、その人気はとどまる事を知らない。いわゆる要注目人物となっていた。
そんな彼女は常にスケジュールに振り回されている状態なのだが、それでも何とか休みを作っているらしい。
「いてくれて本当に良かった」
「ご丁寧に教えてくれたからだろうが」
「ふふっ、年に1度しか会えないもんね」
大げさのように聞こえるが事実である。
ミソラが休みを取れるのは月に1~2日。その休みも色んな友人と遊びに行っているらしく、自分と構っている暇はない状態だ。
それでも彼女は自分に会いたいと願い、手紙やらメールを送ってくる。それらを返さずに無視するには、その量は多すぎた。
世界から愛される女と、世界から嫌われる男。
そんな自分たちの繋がりはない。誰もがそう思うだろう。だが。
「ミソラ」
ソロがミソラの名前を呼ぶと、彼女の体がびくりと震えた。
それこそが合図だ。
狭いが二人乗ってもきしむことのないベッドに、ミソラを押し倒す。
相手の服を(こうなる事を予想して脱がしやすいブラウスにしていたようだ)剥ぎ取る勢いで脱がし、自分もさっさと服を脱いだ。
「……また、傷が増えたね」
最近できた脇腹の傷を目ざとく見つけたらしい。ミソラがそこを愛おしそうに撫でた。
そんなミソラの体は傷一つない。白い肌に柔らかな曲線を保った体、吸い付くような滑らかさ。何もかも違う。
「あ、あんまり見ないで……」
恥じらう彼女を見ているとこっちも恥ずかしくなりそうなので、早速キスで唇を塞いだ。
「んふ……っ」
ぢゅる、くちゅ、と音を立てて、舌でいじり回す。1年ぶりのキスでも、体の方はきっちりと動きを覚えていたようだ。
つつき合うだけでも既に体は火照り、むくむくと欲が沸き上がる。1年ぶり。1年に1日だけ。お預けされた分、満足するまでしたくなる。
「は……ぁっ」
熱い息が吐き出されて、くらくらした。男というよりオスとしての本能も、もくむくと沸き上がっている。
ミソラの方は顔を赤らめ、目が潤んでいる。これも昔から変わっていない、自分を誘うメスの顔だ。
乳房に軽く口づけてから、はむっと乳首を口に咥えた。
「あんっ!」
舌でねっとりと舐めてから、くにくにといじり回す。
ぷるぷると震える体にはぁはぁと甘い喘ぎ声。その声がもっと聞きたくて、その顔がもっと見たくて、手でもじっくりと乳房を揉んだ。
「ひゃぁ……んっ」
前々から乳房や乳首が弱かったが、今日は特に感じている。これはもしかして。
「……もしかして、オレ以外の誰かとヤッたか?」
「ち、違うから!」
真っ赤になってミソラが反論した。しかしそれ以上何も言わない辺り、どうやら自分で性欲処理していた名残のようだ。
「そうか……悪かった」
素直に謝ると、ミソラはわざとふくれっ面になって「罰としてちゃんと避妊してよね」とそれほど罰にもならない罰を与える。
仕切り直しとして、既に淫蜜があふれ始めている秘部に指を挿れた。
「あァァっ!」
ぐちゃ、ぐちゃと前よりも大きな音が鳴り、きゅうきゅうと指を締め付けてくる。挿れた指をくいっと動かすと、ミソラの体が大きく跳ねた。
「あっ、あぁっ、あん、んんっ、ぁあん!」
嬌声はどんどん高くなり、ソロの肉竿も完全にいきり勃つ。
もう少し粘るか、それとももう挿れてしまうか。前者を選びたかったが、嬌声とミソラの蕩けた顔は後者を選ばせた。
手早くゴムを付けてから視線で彼女に問うと、「ちょうだい」とねだられた。
「行くぞ……」
ぐいっと一気に押し込めば、強烈な快感が体を駆け巡った。思わず歯を食いしばってしまう。
ミソラの方はもっと強烈らしく涙を流しつつ甲高い声で鳴いていた。
「ひぁぁああっっ!! あっ、あ、んっ! う、あっ、はぁ、ん、はぁぁんっっ!」
何度も抱いたので、弱い部分はもう既に解っている。
そこを激しく刺激するように動けば、彼女の方も強く締め付けてきた。
ぱん、ぱんとぶつかり合う音と、ずちゅ、ぐちゅと淫蜜が絡む音。ミソラの喘ぎ声。お互いの匂いも重なって、腰を動かすスピードが速くなった。
「んぁっ、あはぁっ! そ、ソロ、ちょっと、あ、んっ、激しく、しないでぇっ! やぁぁん!」
「ふん、そっちがぐいぐい動いてるんだろうが……!」
「ちが……あぁぁぁぁっ!」
実は彼女の方も腰を動かしていて、さらに互いの快感が跳ねあがっていた。
「あっ! あんっ、もう、イッちゃ、あぁんっ、イッちゃうよぉぉっ!」
――こうしてセックスをしている間、いつも思うことがある。
(このまま、朽ち果ててしまいたい)
何度抱いても、本音を聞いても、彼女の心全てを信じきれない。
いつか彼女の口から、星河スバルの名前が出る事を恐れている。
彼女をこのまま閉じ込めて、自分だけの物にしたいと望んでしまう。
いつもこんな風に考え、そして彼女に惹かれてしまった自分に嘆くのだ。
響ミソラはこんな所で自分に抱かれるような女ではない。
彼女は光り輝くステージで、皆に愛されながら幸せになるのが相応しいはずだ。
それなのに、ミソラはここに来ては自分を想い、自分に抱かれる。そして自分も、そんな彼女に強く惹かれ、彼女を抱いてしまう。
いずれは別れか破滅が来るのが解っていても、ずるずると関係を続けてしまうのだ。
「ミソラ……ッ!!」
重い心を抱えたまま、絞り出せる言葉は彼女の名前のみ。
それでも、彼女は嬉しそうに笑顔を見せた。
その笑顔に、ソロは一筋だけ涙をこぼした。
子宮まで届かんばかりの深い一発に、ソロはとうとう限界に達する。
相手は一瞬先にイッたらしく、強烈な締め付けに思わず歯を食いしばった。精液が予想以上に出てきたが、ぎりぎりゴム内に収まる。
ずるりと肉竿を引っこ抜き、一息つく。ミソラの方もぐったりしているが、意識はあるようだ。
視線が絡み合った。
「……もう終わるか?」
「そうだと言ったら、一緒に外に出てくれるの?」
「馬鹿な」
一言で切り捨てる。もう何度もこのやり取りはやったが、答えを変えるつもりはなかった。
彼女が生半可な覚悟と優しさで手を差し伸べているとは思っていない。それでも、自分は彼女の隣に立つべきではないとソロは思っていた。
「貴様が居るあの光の世界は、オレには眩しすぎる」
むくりと起き上がるミソラの頭を、そっと撫でる。やや不服そうな顔をされるが、自分の気持ちを鑑みてそれ以上言うことはなかった。
彼女の優しさが嬉しい分、心の中に抱える闇を吐き出しそうになるので辛くなる。
自分の抱える闇に彼女が飲み込まれるのは見たくなかった。
そんな思いは隠し、なるべく穏やかな声で、自分のわずかな光を告げる。
「1年に1日で十分だ」
ミソラがそっと寄り添ってきたので、静かに抱きしめた。
今だけは許される。許してほしい。
1日だけの鳥かご内の逢瀬なのだから。
「……続き、する?」
「明日立てなくなっても知らんぞ」
「そこまでしてくれるなら、それはそれで嬉しいかも」
「……ふん」