翌日。
ミソラが待ち望んでいた「ブライの部屋を調べるタイミング」が来た。
仕事でミスしたのか、ブライが怪我して帰ってきたのだ。
『ミソラさま、治療を手伝ってくれませんか!?』
いつも通り廊下の掃除をしていると、珍しく慌てたラプラスがやって来た。
ミソラの本職は魔力のこもった歌を歌う歌姫だが、一応回復魔法は習得している。ただ本職である僧侶と比べればその効果は微々たるもの。手伝えることはないとは思うのだが。
しかし呼ばれた以上は行かないといけない。それに怪我人が出たのなら治してやりたいと思ってしまうのが人のサガと言うものだ。それが毎晩自分を犯す男であっても。
ミソラはいったん倉庫に行って救急キットを持ち出すと、ラプラスに連れられてブライの部屋に行った。
『ソロさま、入ります。ミソラさまも一緒です』
ラプラスがノックすると、しばしの沈黙の後「入れ」と入室を許可する声が返ってくる。二人が入ると、鎧を脱いでベッドのふちに座っていたブライが顔を上げた。
(うわ……)
こめかみ辺り、右上腕、そしていつかの脇腹。そこから血が流れており、少し顔色が悪い。
傷の深さはそれほどではないのが幸いだ。これならミソラの回復魔法で対処可能だろう。
「傷跡、見せて」
やや強めに言うと、ブライは渋々こめかみの辺りを見せた。まだ血が固まっていない処から回復魔法の光を当てる。柔らかな光は、当てた処から徐々に怪我が塞がっていく。
塞がったところは、念のためにとラプラスが丁寧に救急キットから出した包帯を巻いていく。
こめかみの傷は塞がったが、問題は右上腕と脇腹だ。両方とも詳しく見るには服を脱いでもらう必要がある。
どうするか悩んでいると、隣のラプラスが『ソロさま、服を』と脱がしていた。ブライもラプラスの言うことなら普通に聞くらしく、素直に服を脱いでいた。
露になるブライの肌。セックスの時しか見れないブライの裸を見て、ミソラの胸がどきんと高鳴った。
(ま、毎晩見てるじゃない。何で今更どきどきするのよ)
きっと昼間から見たのは初めてだからだ、と言い訳して、改めて怪我の様子を見る。
右上腕の傷は袈裟懸けにされたらしいもので、見た目こそ派手だが傷は深くはない。現に血が固まり始めている。
この前触れた脇腹の傷も、再度傷口が開いたといった感じ。こっちもミソラの回復魔法で十分何とかなりそうだ。ほっと胸をなでおろす。
先ほどと同じ柔らかな光を当てると、同じように傷が徐々に塞がっていく。塞がった傷跡に手を当ててみるが、特に気になるところはないし、ブライの反応もなかった。
ラプラスが包帯を巻いたのを確認してから、投げ出されていたシャツを着せた。
「傷口が開くかもしれないから、しばらくは安静だね」
「相手次第だな」
「そんな適当なこと言って……。もう戦争は終わったんでしょ?」
「どうだかな」
どういう意味だろう。ミソラは内心首をかしげる。
屋敷に閉じ込められている身ではあるが、毎朝届く新聞のおかげで世論に疎いというほどではない。今、国はどこも攻めていないし攻められていない小康状態のはずだ。
(……もしかしたら)
ミーティア国で何か動きがあったのだろうか。連れていかれた国民……仲間たちを助けるため、スバルたちが動いているのかもしれない。もしそうだとしたら、ブライが怪我して帰ってきたのも解る気がする。
(……あれ?)
何故か胸がちくりと痛んだ。
ブライが怪我をした理由がスバルたちと戦ったからだとしたら、いつかは自分が助かるということだ。ミソラにとって、それは喜ばしいことのはず。
なのに、今ミソラの胸は確かにちくりと痛んだ。まるでブライとスバルたちが戦ったことを悲しむように。
(何でだろう……)
抱かれすぎて感覚がおかしくなったのだろうか。
怪我が治って安堵したのか、ブライは「少し寝る」とベッドに横になった。
ラプラスも『承知しました』とミソラを連れて出ようとしたが、ミソラは「忘れ物がある」と部屋に残った。
何とかブライの部屋にとどまることが出来た。ここで長い間ばたばたとしていればラプラスが不審に思って戻ってくるだろうし、何より寝ているブライが目を覚ましてしまう。
ここは一か所に絞って調べた方がいいだろう。机は鍵がかかってそうなので、本棚をざっと見て回ることにした。
知らないタイトルの本やタイトルがない本を大雑把に調べていく。大半はミソラが知らない小説や難しい本だったが、一冊気になったものがあった。
『失われた民族たち』
シンプルなタイトルなそれは、そのタイトル通り滅びた民族についていろいろ研究・解説している本だった。滅びた民族故、それらの名前はミソラが知らないものばかりだ。
ミソラが気になった理由。それはその本だけ付箋が貼られていたからだ。
付箋が貼られてあるページを開いて読もうとして……ぴたりと止まる。
「何をしている」
いつの間にか起きていたブライが後ろに立っていた。
「え、あ、あの……」
「掃除は命じてないはずだ」
「そ、そうなんだけど……」
まずい、まずい。何とかしてごまかしたいが、何も思いつかない。冷徹な目で見られると、それだけで身体がすくんでしまうのだ。
ブライはその冷徹な目のまま、とんでもないことを言う。
「服を脱いで裸になれ」
「え」
「やれ。命令だ」
血も涙もない言葉に、ミソラは背筋が凍りつく。嫌だと反発したかったが、命令と言い切られてしまった以上、逆らうことは許されない。
ミソラは歯を食いしばりながらヘッドドレスを外す。当然これだけで終わりではないのを知っているので、エプロンも外した。
靴と靴下を脱げば、あとはブラウスとスカート、そして下着だけ。ここからはブライの目の前でストリップショーだ。
恥ずかしい気持ちはあるが、どうせこれからセックス漬けだ。裸になるのも脱がされるか、自分で脱ぐかの違いに過ぎない。ミソラはそう開き直ることにした。
ささやかな反抗としてブライを睨んでから、ブラウスのボタンに手をかける。上から順に外していき、全部外したら勢いよく脱ぎ捨てた。
「……ふん」
ミソラの気迫に一瞬気圧されたか、ブライが軽く息を吐く。負かした気がして、内心ミソラはふふんと笑って見せた。
次はスカート。これもさっさと下ろしてぽいっと放り捨てる。これで残るはブラジャーとショーツのみになった。
これを外せば完全に裸。覚悟は決めたつもりだが、それでも気おくれしてしまう。
「どうした、脱がないのか」
尻込みしているのを読んだか、ブライがいつもと変わらない声――だがどこか笑うような声で言う。
負けてたまるか、と意気込むものの、それでも一歩が踏み出せない。何かきっかけがあれば、とミソラは思ってしまう。
と。
「ああ、そうか。褒美が欲しいか」
ブライは思いついたように机に行き、引き出しからごそごそと何かを取り出した。掌に収まるほど小さく、きらきらと輝くそれは。
「……鍵?」
「そうだ。オレの部屋の鍵だ」
欲しいんだろう、と言われて、ミソラは背筋が凍りつきそうになった。
何故それをと言いたくなるのをぐっとこらえ、ブライの顔とその手にある鍵を交互に見る。その反応で満足したらしく、ブライはにやりと笑った。
「全部脱いで、今夜一晩耐え抜けば褒美としてやる。だが脱がなかったり耐えきれなければこれはやらん。どうだ、乗るか?」
「も、もちろん!」
ちゃんと全部脱いで、今夜一晩のセックス漬けに耐えて起きていられれば鍵がもらえるのだ。今のミソラにとって、喉から手が出るほど欲しいブライの部屋への第一歩。
そうと決まれば、まずは残りの下着を脱ぐ。ブラジャーに手をかけて外し、胸をさらけ出す。最近大きくなった気がする胸が、軽く揺れた。
最後はショーツ。これは手をかけてから一気にずり下ろした。これで全部脱いだことになる。
仁王立ちになれば、ブライがまた軽く息を吐いた。
「ほ、ほら、全部脱いだから!」
「そうだな。大したものだ」
「え」
ブライの自然な誉め言葉に、ミソラは一瞬固まった。
よく見れば、口元が少し柔らかに緩んでいる気がする。皮肉でもなく、本当の誉め言葉なのだろうか。
裸なのも忘れてぽかんと立っていると、ぐいっと腰を引き寄せられた。
「きゃっ!」
「ここからが本番だ。一晩中耐えてもらうぞ」
ストレートにこれからずっとセックス漬けだと言われて、ミソラは身体を固くしてしまう。窓の外を見ると、まだ日が傾いてきたぐらい。食事時間は取るとしても、相当長い時間するつもりらしい。
ミソラは何度目か解らない覚悟を決め、唇を重ねた。
それから、長い夜が始まった。
「あ、ん……っ♡ い、イキそ……う!」
「中で出すぞ……!」
「ふぁあ゛あ゛あああッ!♡♡」
何度も何度も中で出され、その度に意識を失わないように耐える。一度耐えても中に入れたまま再度動かされるので、ミソラは休む間もなかった。
それでも鍵が手に入るかもしれないという希望を胸に、ただただ耐え続けた。しかし……。
「い、イッちゃう゛ぅ゛ぅぅーーーーーッッ!!♡♡」
夜明け前の最後の一発に耐えきれず、とうとうミソラは意識を手放してしまった。
「……ん?」
朝。
自分のベッドで目を覚ましたミソラは、手にひんやりとした感覚を覚えて目を開いた。
そこには、ブライの部屋の鍵があった。