落とした初恋の行方を教えて

 飲み過ぎて吐いてしまったソロは、やはり足取りがおぼつかないままだった。
 さすがに放置もできず、ミソラは肩を貸して用意された部屋まで連れていくことにした。その手にある部屋のカギは、たった一つだけ。
 あのバーテンダーは友人も一緒にと言っていた。つまりシングルではなくツイン、またはダブルだ。
 独り身同士で同室に泊まる。しかも若い男女。……これがどういう事か解らないほど、ミソラも初心ではない。
 それでも、彼女は今日ここに泊まる事を決めた。ソロの性格上襲ってくることはないのはよく解っていたし、何より二人ともしっかり酔っぱらってる状態なのだ。

 さて、実際の部屋は予想通りのダブルだった。
 でーんと置かれたダブルベッドは、シーツも枕も丁寧に整えられている。
 まだ寄りかかっているソロを寝かせようとしたが、それより先に当人が動いた。
「……これ以上オレに構うな。貴様は勝手に寝ろ」
「どこで寝るの?」
「床で寝る。何もいらん」
「一緒に寝てもいいよ」

 ぴたり、とソロの動きが止まった。

「殺されたいようだな」
「冗談とかで言ってないよ。本気で誘ってる」
「くだらん当て擦りに巻き込むな」
「そういうのじゃない」
「……」
「スキャンダルとかは大丈夫。私も喋るつもりはないし、貴方も喋らないでしょ?」
「……」
「シャワー、浴びてくるね」

 程よく冷えたシャワーが、化粧を落とした顔にかかる。
 浴びれば浴びるほど自分の思考が冷静になってきている、とミソラは実感した。
 ハープには先ほど全部話した。
 彼女は呆れ顔だったが、彼女の覚悟を知ると「貴女の思うようになさい」と励ましてくれた。
 ……そう、これは覚悟だ。
 初セックスの相手はずっとスバルだと思っていたのに、実際の相手はソロ。自分で選んだとは言え、色々予想外なのだ。
 誘ったのは自分ではあるが、相手がどんなセックスを好むかを知らない。そもそも、自分に対する感情すら解らない。
 それでも。
 やっぱりやめた、は言うつもりはなかった。自分の気持ちを確かめるためにも。
「ふうっ……」
 賽は投げられた。
 ミソラは軽く頬を叩いてから、シャワーを切った。

「お待たせ」
 バスローブだけ羽織り、部屋に戻る。
 ソロの方も着替えていたらしく、同じようなバスローブ姿になっている。彼も彼で覚悟を決めたようだ。
「やめるなら今のうちだ」
「それはこっちのセリフ」
 挑発的な言葉に同じような言葉で返すと、力任せに引き寄せられて唇を奪われた。
 間髪入れずに舌を入れられ、初めての感覚に意識が一瞬飲まれかけた。ファーストキスは半ば無理やりスバルとしたのだが、大人のキスは初めてだ。
「ん、ふ……っ」
 負けじと少しずつ舌を動かしてみるものの、相手の方が一枚上手。気づけば力が抜けた状態でベッドに寝かされていた。
 無骨な手が自分の乳房を軽く揉みしだく。まだバスローブは脱がされていないが、申し訳程度に引っかかってる程度で、お互い素肌はほとんど丸見えだ。
 だからこそ、ソロの傷だらけの身体をまじまじと見てしまった。
 明らかに最近ついたものから、いつついたのか解らないくらいに古いもの。それは、彼の過酷な人生を切々と物語っていた。
「あっ、あぁん!」
 乳首をきゅっと掴まれた。
「余計なことは考えるな」
「え、あぁ……っ」
 じっと見てしまっていたのに気づいたらしく、乳房をいじる手に力が入られる。
 熱が入り始めた頭の中で、何で彼はここまで上手いんだと思う。
 当たり前だが自分は初めて。一応知識こそはあれど、実際にこうなってみるとただ気持ちよさに喘いでしまうだけだ。
 だがソロの動きはどうだ。大人のキスも、愛撫もよどみなく動いている(上手いかどうかはさすがに解らないが)。
 半脱ぎのバスローブもいつの間にかベッドの下に投げ捨てられており、生まれたままの姿を晒していた。改めて気づくと、体が火照ってくる。
「はっ、はぁっ、あぁぁッ」
 また余計なことを考えたのがバレたか、じゅるっと乳首を吸われた。くにくに、と舌でいじられて、更に甲高い声で鳴く。
「や、んっ、あっ、はぁんっ、あ、んっ! き、気持ち、いいぃっ、けどっ、そんな、しゃぶらないでぇえっ!」
「ふん、なら……」
 こっちがいいのか、とまだ吸われていなかった方の乳首を舐められた。ぴんと固くしこった乳首は、少しの刺激だけでも甘いしびれを齎してくる。
「ひぁぁぁぁっ!」
 油断していた分、体が大きくはねた。白い喉も吸われた時、さすがにミソラは焦ってしまう。
「だ、だめ、痕、つけな、い、でぇっ!」
 雨が多い6月とはいえ、気温も高くなっているためどんどん薄着になっている。肌を見せそうな場所に痕が付いていたら、変に勘繰る者も出てくるだろう。
 聡いソロはすぐにそれに気づいてくれたようだ。ただ代わりに耳を甘噛みされたので、また体をびくりとさせてしまう。
 熱い息がかかるたびに、体がびくびくと動くのを止められない。口から甘い吐息がこぼれるのも。
(これが……セックス……!)
 TLものの漫画を読んだり周りの話を聞いては夢想していたが、実際にこうして抱かれていると甘い空気は何もなかった。
 だが、辛さはない。自分から誘ったというのもあるが、凌辱されているとは全然思えない。ただ胸の奥が痛むだけ。
(嫌じゃない。抱かれるの、嫌じゃないんだ……)
 かつては病院送りにされるほど傷つけられたのに、ソロの事を憎めない。それどころか、彼の心に近づきたい、救いたいと思っていた。
「は、んっ! あんっ、あぁん……ふぁあああッ。な、なんかくる…ぅっ!」
 こんなことで救われるなんて思ってない。けれど、少しでもいいから何かをあげたかった。
 何も手に入らない、と吐露した彼に、せめて自分自身をあげたいと思ったのだ。
「やあああんっ!!」
 固くしこった乳首を軽く甘噛みされた瞬間、意識が一瞬白くなった。
「……イッたか。早いな」
「ご、ごめん……ぁああっ」
 荒い息を整えていると、いつの間にか濡れていた股間の秘部に触れられていた。くりくりと陰核をいじられ、また声を上げてしまう。
 乳首に負けず劣らず固く勃った核。自慰でいじる時よりもはるかに強い快感が、ミソラの体を駆け巡った。
「少し広げるぞ」
「え? んっ……! うあっ、な、何これぇ……」
 秘部に何かやや太い物が触れた、と思うと、ずぷずぷと入り込んできた。違和感はあるものの、痛みは全くない。
 指が入ったんだと思ったのもつかの間、みちっと音を立ててもう一本入り込む。無理やり押し広げられている感はあるが、まだ痛いほどではなかった。
 そのまま膣内でぐいぐいと動かされたり、軽く抜き差しされたり。その度にさっきよりも強烈な快感が襲ってきた。
「あっ、んんっ! はぁ…っ、あんッ! あぁぁっ!」
 ぐちゅ、じゅぷ、と卑猥な水音が股間から漏れるたび、中に入っている2本の指をきゅうきゅうと締め付ける。
「やらっ、やらっ! またっ、イッちゃ、あぁぁッ!」
 強烈な快感のせいで舌がもつれた。
 このまま変なことを口走るのでは……と熱に浮かされた頭で考えるが、膣内の指がそれ以上の思考を許さぬと動いていく。
 いつの間にか膣内をかき回す指は3本に増えていた。軽く動かされるだけでも体が大きく震え、自分から快楽を求めてしまう。
 水音がさらに激しくなり、視界が白一色に染め上げられた。
「ひぃぁああぁ――ッッ!」
 人生二度目の絶頂。同時にぷしゅっ、と股間からおしっことは違う液体が噴き出した。
 さっきよりも息が荒く力も入らない。それでも何とかソロの方に視線を向けると、彼はいつの間にかゴムを付けていた。
「そ、それ、いつの間に?」
「棚の中にあった」
「……」
 どうもこの宿泊施設、その手の宿泊客も満足させられるようにも作られているらしい。至れり尽くせりとはこのことだ。
 ともあれ、男性器にゴムを付けるという事は、とうとう自分のバージンが失われるという事でもある。
 物凄く痛い。避妊に失敗したら妊娠するかもしれない。……もう、後戻りはできない。
 ソロは無言だが、その視線でいいかどうか問いかけている。ミソラは一回だけ深呼吸して、口を開いた。

「来て」

 ずっ、と自分の膣内に大きい物が入り込んできた。さっきまでの指とは比べ物にならないほどの大きさで、ミソラの中をぐいぐい押し広げてくる。
「は、ぐ……ッ!」
「う……!」
 お互いの口から苦悶の声が漏れる。痛みときつさだ。
 濡れそぼった秘部は痛みを訴えているものの、予想したよりかは少しマシな感じがする。それよりも、じわじわと肉竿が膣壁をこする快感に震えそうだ。
 大丈夫、と笑顔を浮かべると、入ってくるスピードが少し早くなった。
「う、ひ……ぁああ」
 喘ぎ声がこぼれる。
 初めてなのに、痛みと同じぐらいに熱さと快感があった。自分の体の淫らさに呆れてしまうが、そんな呆れもみぢみぢというきつい音でかき消される。
 熱く滾った肉竿は、自分の中を大きく穿っていく。痛みもあるが、しびれるような快感も同じように駆け巡り始めた。
 そして、とうとう彼の全てがぴっちりと中に納まった。
「あ、あっ、あ……ッ」
 互いの熱い息と男の肉竿の淫らな感覚を受け、体が震える。足を踏ん張らせたいのに、上手くいかないのがもどかしかった。
「痛く……ないのか?」
「あんまり……、んっ、い、淫乱、なのかな、私……」
「知るか……動かすぞ」
 じゅぷぷっ、とねっとりとした水音が鳴った瞬間、痛みは完全に吹っ飛んだ。
 抜かれたと思った瞬間、再度滾ったモノが膣内へと押し込まれる。肉欲のピストン運動が、初めての体を大きく揺さぶった。
「はぁぁっ! あんッ! あぁ……っ!!」
 あまりの快感に、思わずソロに抱き着いてしまう。
 傷だらけの体を抱きしめると、相手の腰の動きがもっと激しくなる。蕩けるような快感と熱さにくらくらするが、膣内にある物だけははっきりと認識できていた。
 繋がっている。自分は今、メスとして目の前の男のモノを咥えている。
(流されちゃう……!)
 そんなことをぼんやりと思う。
 自分の体が自分の物ではなくなっていきそうな感覚。目の前にいるのがもう誰なのかも解らなくなりそうで、ミソラは涙をこぼした。
 熱い、熱い。欲しい、欲しい。気持ちよくなりたい、イキたい。
「らっ、め……! また、きちゃ、うっ! きもち、よしゅぎ、るゥゥッ!」
「そうか……! なら、イけ!」
「あぁぁんッッ! イくぅぅぅ!」
 自分と繋がっている相手を、再度確認する。
 そこにいるのは、かつて心惹かれた男ではない。赤い目をした、孤高の戦士。
 今、自分自身をあげたいと心から思った相手。

 ずんっ、と最大の勢いで最奥を突かれた。

「あぁあああ―――ッッ!!」
 今まで以上の快感を受け、三度目の絶頂を迎える。
 もはや絶叫に等しい嬌声を上げ、ミソラの意識は急速に遠のいていった。

 ……意識を失っていたのは、たった一瞬だったようだ。
 ソロが荒い息を整えながらゆっくりと肉竿を抜く。ミソラの蜜でぐちゃぐちゃになっているゴムは、ソロ自身の精液でたっぷり膨らんでいる。
 これで完全に終わったんだ、とミソラは大きく息をついた。
「満足か……?」
 さすがに疲れたらしく、気だるい雰囲気のまま彼が問うてきた。こちらも疲れているのだが、はっきりと「うん」と答える。
「ありがとうね」
「礼を言われるようなことはしていない」
「……どうだろう」
 本人は全く自覚はないようだが、初めてのセックスは間違いなくミソラに一つの答えをもたらした。
 苦しい気持ちは変わらない。だけど、それを抱えて生きていくつもりだ。

「ねえ、たまに会えないかな」

 ソロの視線がこっちを向いた。
 しかしその顔は今まで見たどれとも違い、驚きと疑問が入り混じった……いわゆる「鳩が豆鉄砲を食ったよう」な顔だった。
 そんな顔をかわいいなと思いつつ、ミソラはくすっと笑った。
「現役人気アイドルを抱けるなんて、そうそうないよ?」
「くだらん」
 一言で切り捨てられたが、その声色に怒りはない。さっきの表情と同じような、驚きと疑問を感じた。
 少なくとも、今回で終わりと言う関係にはならないようだ。
 今はそれだけで良かった。

 ――多分、私が落とした初恋は、貴方が拾っている。