その時、ミソラがばったりと倒れた。
「何だ?」
グリムテルムが眉をひそめる。ついさっきまで何の問題もなくロックマンに力を与えていたのだが、何故かいきなり歌を止めて倒れたのだ。
「数値が急速に下がっている、だと?」
ミソラとケテルとのリンクが急速に下がっている。意識を失った事もあるが、彼女自身が洗脳を破ろうとしていたのだ。
しかし一番の問題はそこではない。生配信中にアイドルが急に倒れたのだ。視聴者が騒ぎ出して、ロックマンへの影響も出かねない。
既に配信のチャット欄はミソラを心配する視聴者のコメントで溢れ、SNSのトレンドも「ミソラ」「倒れた」というワードが急上昇している。
「薬を打ち込んで起こすしかないか」
コンソールを叩いて、配信を一時停止させる。倒れたのは連日の仕事の疲れという事にしておけば、それほど疑問に持たれないだろう。
一方、ロックマンとブライの戦いは拮抗していた。
ロックマンは圧倒的な攻撃力でブライを押そうとしているのだが、ロックマン自身が本来の戦闘センスを発揮できていない状態。
一方のブライは元々の実力と豊富な戦闘経験で、ロックマンの攻撃を耐えたり受け流しては細かく攻撃を当てている。
観客も固唾をのんで見守る者もいれば
『ロックマン、がんばれ!』
『そこだ!』
純粋にロックマンを応援する者もおり
『さっさとくたばっちまえよ!』
『マジクソダサ~。中二病みたいな格好しても今時ウケないっての!』
ブライに野次を投げる者もいた。
お互い騒がしい観客を無視して戦い続けているが、多少なりとも影響を与えているのもまた事実だった。
応援を受けるたびにロックマンのスペックは上がって行くし、ブライは鉄の意思で観客からの声をシャットアウトしているが、どうしても余計なノイズとして飛び込んできてしまう。
「ぐっ!」
何回目か解らないエクスカリバー・バーストを避けたつもりが、余波を食らってしまった。しかも、負傷している場所に。
大きくよろめいてしまうブライ。ギリギリのところで踏ん張って耐えるが、当然それは隙として取られてしまった。
ロックマンが大きく剣を振りかぶる。それを合図に、幻影のロックマンが複数表れて同じポーズを決めた。
「……!」
間違いなく大技が来る。瞬時にそれを察したブライは回避を試みるが、幻影のロックマンが周りを取り囲んでいるのでそれもできない。
大ダメージを覚悟して防御態勢を取った瞬間、ロックマンが叫んだ。
「ラストリゾート!!」
剣が、振り下ろされた。
放出された凄まじいエネルギー波が荒れ狂う。焼け付く痛みが体全体を襲い、口の中で悲鳴がはじけた。
そして、限界が来た。
「うああああああっ!!」
耐えきれずに、大きく弾き飛ばされる。反動でスターキャリアーも弾き飛ばされ、電波変換が解除されてしまった。
幸い、スターキャリアーは倒れたソロの近くに落ちたので、すぐに拾う。再度電波変換したいところだが、それよりも先にロックマンの方が飛び込んできた。
「何!?」
普段なら電波変換を解いた相手に、ロックマンが攻撃するという事は有り得ない。電波人間ではない人間に戦闘能力がないのもあるが、何より相手を殺しかねないからだ。
相手が悪人なら殺す事も止む無しと考えているのか、今のロックマンの攻撃には迷いがない。それだけグリムテルムの洗脳が強いのかもしれない。
かわすのと同時に、再度電波変換。相手がまだやる気なら、こちらもやるまでだ。
ボムをいくつも投げて相手の足を押さえ、ギザホイールで足を狙う。ブライバーストとは違う動きなので、ロックマンの反応が一瞬遅れた。
当然その隙は逃さない。この間と同じように一気に飛び込むが、今回の攻撃方法は修理したブライソードだ。
「はぁぁっ!」
目にもとまらぬ3連撃で、今度はロックマンが大きく吹っ飛んだ。
追うか、止めるか。判断は一瞬。選んだのは後者だ。
今のロックマンはまだ全ての手の内を見せていない。焦って痛い反撃を食らうより、慎重に相手の動きを見るべきだ。
『おいてめぇ、何余裕ぶっこいてんだ!』
『ロックマン、立ってぇ!!』
応援や野次がヒートアップして、流石にうるさく感じる。薙ぎ払ってやろうかと思った瞬間、ロックマンに異変が起きた。
『ロックマン、がんばれ!』
『ロックマン、負けるな!』
応援が聞こえる。
そうだ、僕はヒーローなんだ。
悪人に負けちゃいけないんだ。
……悪人って誰?
『キズナの力を見せてやれ!』
ああ、そうだ。僕の正義はキズナだ。
だから今まで勝てて来れたんだ。
強くて一緒に戦っている仲間達とのキズナで、色んな敵に勝って来たんだ。
キズナの力は凄いんだ。
引き籠っていた弱い僕が、今こうしてみんなの応援で、最強無敵の力を手に入れている。
この力で、キズナを理解しない悪い奴らを、みんな倒してやるんだ。
それがヒーローの……僕の使命なんだ。