ぴーっ! ぴーっ!
ハンターVGからの聞き慣れない音に、ソロは足を止めた。
ディスプレイを見ると、「外線受信・受け取りますか?」のポップアップ。当然だが、初めて見るポップアップだ。
「……?」
取るか、無視するか。
少し悩んでから、ポップアップをタップする。誰からの電話なのかつい気になってしまったのだ。
「誰だ?」
『ソロ! 無事に繋がったか!』
「……暁シドウか?」
『ああ』
電話をしてきたのはシドウだった。ハンターVGやトランスコードから電話番号を探り、直接電話をかけてきたのだろう。
「何の用だ」
『今すぐサテラポリスに来い。話がしたい』
唐突の呼び出しにソロは面食らいそうになったが、すぐに事情を察した。ロックマンが出れない以上、自分に助けを求めたのだろう。
しかし、こっちはやらなければならない事がある。サテラポリスに構っている余裕は全くなかった。
だが。
『こっちはお前が知らない情報を把握している。それを提供したい』
「……!」
自分の眉がぴくりと反応するのが解った。
飛び出したのは良いが、盗掘者が何者かは全く知らない。狙いも解らないので、これから調べるつもりだったのだ。
サテラポリスが何か知っているのなら、一旦そっちに立ち寄るのも悪くないかも知れない。あっちが悪だくみをするのなら、敵として斬り捨てればいいだけだ。
『どうする?』
こっちの思考を読んだように、シドウが意地悪そうな声で聞いてくる。心の中で一発殴る事を決めてから、ソロは「いいだろう」と応じた。
サテラポリスの建物に入るのはこれが初めてだ。しつこいスカウトに釘をさすために来たことはあるが、その問題は入り口で片付いた。
話がついているのか、警備員は何も言わずにドアを開ける。
「ソロ、よく来たな!」
待っていたらしく、中に入るとすぐにシドウが近寄ってきた。
「相談したい事もあるから、ついて来てくれ」
「貴様らと手を組むつもりはない」
「それは知ってる」
シドウの態度はいつもの余裕ぶったものではなく、やや切羽詰まったそれ。事の重要さは既に気づいているらしい。
とりあえず悪だくみはないだろうと判断し、黙ってついて行った。
「神具が再度盗まれたことは知っているのか」
ソロが問うと、シドウはこちらを向くことなく「知らない」とだけ答えた。
「ただ、先ほどケテルが奪われたと連絡が来たから、シェヴェトもそうなるだろうなとは思っていた」
ケテルはサテラポリスが回収していたらしい。再度盗まれたのだから意味のない情報だが。
恐らく2つの神具は同じ者の手にあるだろう。となると、最後の1つ――ヘレヴの行方が気になる。あれだけは、未だに行方が解らないままだ。
「ヘレヴの方は?」
ダメ元で聞いてみると、これまたシドウはこっちを見ないまま「問題ない」と答える。
「あれは絶対に手に入らないからな」
妙に自信たっぷりに答えるので、はてと内心首を傾げた。
ヘレヴ――剣の神具は「剣の形をしており、王に偉大なる力と栄光をもたらす」ぐらいしか情報がない。自分ですらそうなのだから、サテラポリスも同じぐらいの情報しかないはずだ。
いったい何故……と考えるうちに、1人の人物を思い出した。
「貴様らの情報源は、オリヒメか」
「ああ」
事件後は捕まったと聞いたが、こういう時は協力しているらしい。ならば、彼らが自分よりも情報を持っているのも納得できる。
そう結論付けていると、前を歩くシドウの足が止まった。どうやらこの部屋が目的地のようだ。
「よく来たわね、ソロちゃん」
「……」
よりにもよってちゃん付け。それだけで踵を返したくなるが、情報を聞き出すまではと踏ん張って耐えた。
自分が連れてこられたのは会議室の一つで、そこにいたのはウィザード(確かアシッドと言ったはず)と老婆が一人。先ほど自分をちゃん付けで呼んだのがその老婆だ。
ソロの厳しい目に対しても老婆はのほほんとした態度を崩さない。年の功か。
「自己紹介が遅れたわね。私はヨイリー。ここで博士として働かせてもらってるわ」
『……』
アシッドが何か言いたげな視線を老婆……ヨイリーに向けるが、彼女は意にも介さない態度のままだ。
「さてソロちゃん。早速本題で悪いけど、今回の事件の首謀者は知ってるかしら?」
無言で首を横に振る。言い訳する事も出来るが、それをしたところで無意味だ。
ヨイリーも解っているようで、カップの紅茶を一口飲んでから話を続ける。
「事件の首謀者の名前は、フォルゲン・グリムテルム。
かつてドクター・オリヒメと同じようにムーの遺跡を研究していたけど、仲違いをして彼女の元を去った男よ」
すーっと一枚の写真がソロの前に流れてきたので、拾って見てみた。
写っているのは、中肉中背で特徴のない男。当然だが、ソロには見覚えのない男だった。
「彼はオリヒメの元を去る時、彼女の研究レポートの一部を盗んでいったらしいの。その盗まれたレポートの中に、シェヴェトなどの情報があったようね」
偶然ではなく、恐らくそれを狙って盗んだのだろう。となると、彼の野望はだいぶ前からのようだ。
「フォルゲンの行方はある程度把握済み。恐らくスバルちゃんとミソラちゃんは、そこに連れていかれたわ」
「……連れていかれたのか?」
「ええ」
ソロが知らないうちに、事情はかなり拙い事になっているようだ。
3つの神具は王と女王がいて効果を発揮する。フォルゲンが用意したのか、それとも神具が選んだのかは解らないが、王と女王にスバルとミソラが選ばれたようだ。
とにかく。再盗掘されたシェヴェトの行方が解ったので、後は取り返すだけだ。
もはや用はないとドアに向かおうとすると、ヨイリーが声をかける。
「ヘレヴの行方は聞かないの?」
「シェヴェトとケテルを取り戻せれば必要ない」
「それでも、行方を聞くだけ聞いてもいいじゃない?」
「……」
気にならないと言えば嘘になる。
しかしここに来る前のシドウとの会話で、「絶対に手に入らない」と自信たっぷりに答えていたので、後回しにしてもいいと思ったのだ。
聞かずに出ていくこともできるが、ヨイリーの方が話したい雰囲気を出していたので、続きを促した。
「……ヘレヴは今、どこにある?」
これに対するヨイリーの答えは、きわめて単純だった。
「海の中よ」
話を聞き終わったソロは、会議室を出た。
(奴がヘレヴの真実に気づいていないのなら、まだ余裕はあるが……)
のんびりしている暇はない。
ソロはラプラスに命じてフォルゲンの研究所を登録させる。電波変換して最短ルートを通るとしても、1日で行ける距離ではないようだ。
コンビニかどこかで飯を買おうと考えていると、不安そうな顔の男女二人が前から歩いてくるのが見える。
普通の男女なら個々の職員だと思って無視するが、彼らの気配が誰かに似ているのが引っかかった。
「……ん?」
すれ違う直前、男の視線がソロの顔で止まった。
「君は、ソロか?」
名前を呼ばれ、思わず身構える。ラプラスも後ろに回り、いつでも剣に変換できるように間合いを取った。
男の方はそんなソロの態度を見て、「ああ、そうか」と苦笑いを浮かべた。
「俺は星河大吾。スバルの父親だ」
「……ああ」
どうやらこの男女はスバルの両親のようだ。似た気配なのも納得できる。
「息子……スバルが世話になってるな」
「世話した覚えはない」
むしろ邪魔している、と言いたくなったが、恐らくそんな嫌味は通じないだろう。
ソロはそのまますれ違おうとしたが、後ろにいた女性――恐らくスバルの母親だろう――がソロの手を握った。
「! な、何をする」
力づくで振りほどこうとしたが、次の言葉で固まってしまった。
「無理しちゃだめよ。まだ小さいんだから」
今まで誰にも言われなかった言葉。
慈愛に満ちたその言葉は、普通の親なら毎日のようにかけてもらえる言葉なのだろう。
だがソロの周りに、そのような言葉を投げかけるような存在はいなかった。
そして
「息子を頼む」
こうして子供にも頭を下げる大人も、ソロの周りにいなかった。
(オレの親だったら……)
ふと、そんな事を考えるが、すぐに打ち消した。どうせ冷たい言葉と共に見捨てるのだろう。