流星のロックマン・希釈「女王様のご命令・6」

 ミソラは少し機嫌が悪かった。
「何でこんなに仕事だらけなの!?」
 事務所から出されたスケジュールが仕事一色で、休みがあまりにも少ないのだ。新曲と宣伝だけにしては多すぎる。
「いやね、あの映画の宣伝もやって欲しいって監督さんから言われちゃったんだよ。俳優さんたちも積極的に出るらしいけど、ミソラちゃんにもやって欲しいんだって」
 スタッフが困り果てたように言う。その顔を見る限り、事務所の方も喜んで受けたようではなさそうだ。それは解るのだが。
「曲も作らないといけないし、これじゃ休めないよ……」
 これからのハードスケジュールを予想し、ミソラはがっくりと肩を落としてしまう。
 こちらは小学生なのだから、もう少し加減を考えてほしい。学校もだいぶサボっている状態なのだ。
(スバル君にも会えないし)
 さすがにこれは口に出さずにおいた。スバルとの関係はまだ芸能界では秘密なのだ。
 それにしても、どのくらいスバルに会っていないのだろう。
 メテオG事件が終わってすぐは何回か会えたのだが、気づけば会えない日がずっと続いている。ハープに聞けばすぐに答えてくれるのだろうが、今彼女はハンターVGにはいない。
 電話やメールもちょくちょくしているが、声だけでは物足りない。それにここ数日はメールの返事も遅くなっていた。
 何かあったのだろうと考える余裕も、最近はなくなっている気がする。
(こないだの騒ぎで来たのも暁さんだし)
 あの時はシドウのせいではないと言ったものの、それでもスバルではなかった時の落胆は半端なかった。
 もし来たのがスバルだったら、会えなかった分思いっきり甘えられたのに。そのまま適当に理由を付けて、デートに行くことだって出来たはずなのに。
 会えない分だけ想いは募るとはよく言ったもの。今ミソラはとにかくスバルに会いたいという気持ちでいっぱいだった。
「とにかく、もう少し頑張ってくれる? こっちもミソラちゃんを酷使しないでってきつく言っとくから」
 慰めにもならない言葉をスタッフが言うが、彼女の耳には届いていない。今彼女の耳に届くのは、スバルの言葉だけだろう。
「会いたいな」
 思わず口に出てしまったが、誰もその呟きを拾う事はなかった。

『ミソラ、遅くなってごめんなさい』
 外に出ていたハープが戻ってきた。
 どこに行っていたのか少しだけ気になったが、彼女は彼女でやる事があるんだろうと思い直す。優秀な秘書である彼女が、自分に酷い事をするはずがないのだ。
 それよりも聞いてほしい愚痴の方が山ほどあった。仕事の量もさることながら、その影響でスバルに会えない事、その他諸々。
「ハープ聞いてよ! 今日はさぁ……」
『仕事の量が多くて休めないんでしょ?』
「え?」
 愚痴る前にハープがその内容を言い当ててきた。
 目を丸くしていると、ハープがくすくすと笑って「私を誰だと思ってるの?」と得意げに言う。自分の所に戻ってくる前に、事務所から情報を手に入れて来たらしい。
『休めないと言っても、半月ぐらいよ。そもそも映画自体、相当先の話なんだから』
「そうだけどさぁ~」
『ぼやかないの。休みが取れたら、スバル君に会いに行けばいいでしょう?』
「う~」
 ハープの至極尤もな慰めに、ミソラは少し不服そうにうなる。至極尤もだからこそ、文句の一つや二つは言いたくなるのだ。
「せめて休みがいつか解ればいいんだけどなぁ」
 何月の何日に休みが取れると解れば、その日にスバルとデートを入れられる。そうすれば大量の仕事もやる気になれると言うのに。
 ミソラのボヤキに対し、ハープも「そうねぇ」と深々と溜息をついた。この様子だと聞いてみたけど、はぐらかされたようだ。
『宣伝が終わっても次のイベントがあるだろうし、ちょっと読めないわね』
「そんなぁ……」
 希望の欠片もない言葉に対し、ミソラはがっくりと肩を落とした。
 悲しきかな。国民的アイドルとまで言われてしまってる以上、あちこちから声がかかってしまう。このままだと、次スバルに会えるのは半年後になりかねない。
 そんなのは嫌だ。24時間365日ずっと一緒とは言わなくても、月に1回はスバルに会いたい。

(……いっそ事件が起きてしまえば)

 ミソラの心の中に浮かんだ、あまりにも突拍子もない考え。
 普段なら考えてもすぐに否定するのだが、その考えが実は正しいのではないか、とも思えてしまう。
 事件が起きれば、ロックマンの出番になる。ロックマンが来れば、自分はスバルと会える……。
(そうか、そうすれば……!)

 

 スタジオの倉庫。
 ソロは栄養バーをかじりつつ、アイスからもらった映画のあらすじを見直していた。
 ロックマンをモデルにしたこの作品は、とある青年がとある実験をきっかけにヒーローの力を手に入れてしまった事で、様々な事件に巻き込まれて成長していくというものだった。
 ヒロインは主人公に助けられたことで彼に想いを寄せるようになり、彼を支えるためにヒロインもまた力を手に入れる。そうして仲間を得て、主人公は強くなっていくのだ。
 最終的には封印されていた古代の悪魔を倒し、主人公とヒロインは結ばれるらしい。なるほど、ロックマンの戦いとよく似ている。
 しかし、この映画はまだ製作中で、実際に上映されるのは相当先の話だ。キャストも揃っている状態で、ミソラが割り込む余地はないように見えた。
 ふと、主人公の設定に目が行った。
 ヒーローの力を手に入れた主人公。その見た目は特撮ヒーローさながらのそれだ。
 恐らくミソラはロックマンをモデルにしたという一文と主人公の設定から、自分とスバルの関係と重ねてしまったのだろう。自分もいつか……と渇望し、ケテルが反応してしまった。
 連想、そして渇望。それらが混ざった状態の中、人々は女王の願いを叶えるために歪めてしまっている。
 このままケテルの支配が続いてしまったら、芸能界どころかニホンそのものが女王のための王国と化すだろう。そして女王になった少女は自らの欲望に溺れ、堕ちるのだ。
 それはさておき。やはり主人公の見た目が気になる。再度じっくり見直した時、とある可能性が頭に浮かんだ。
「……まさか」
 慌ててあらすじを見直すが、力を手に入れたヒロインの絵はない。どういう物かは知らないが、主人公がヒーローに変身するのだから、ヒロインが変身する可能性は高いだろう。

 ならば、ヒーローかヒロインのスーツの中に、ケテルを仕込まれているのではないだろうか。

 ただ、これは映画の撮影がここでやっているという前提だ。撮影がないなら、わざわざスーツなどを持ち込む必要はないだろう。しかし……。
『何か解った?』
 考えがまとまりそうなタイミングで、アイスとスズカが顔を出した。なおスズカの手にはおにぎりがある。恐らく自分への差し入れのつもりだろう。
 差し出されたおにぎりを断り、ソロは単刀直入に2人に尋ねた。
「ここで映画の撮影はあるのか?」
 スズカとアイスは一旦顔を見合わせるが、すぐに「あるよ」と答える。
「本当か!?」
「う、うん。CG合成を使った撮影は、ここでやる事になってるの。空中戦とかもあるし」
 ……繋がってしまった。
 急ぎ回収しようと外に飛び出そうとするが、それをスズカとアイスが必死になって止めて来た。
「離せ」
「だだだ駄目だよ! いくらミソラやハープの関係者だとしても、勝手にあちこち歩きまわれたら騒ぎになっちゃうよ!」
「それでも構わない」
『私たちやミソラに迷惑がかかるでしょうが!』
 必死な2人を引きはがそうと暴れていると、足元にあった工具を派手に蹴り飛ばしてしまった。
 思わず3人で顔を見合わせて黙り込んでしまう。幸い倉庫にいるのは3人だけなので、知らない誰かに聞かれることはなかった。
 一息ついてから改めて倉庫を出ようとすると、またスズカが止めて来た。
「お願いだから、変な事しないで」
「知らん」

「じゃあそのケテルってやつ、私たちが見つけてくるよ」

「何?」
 スズカの言葉に改めて彼女の方を向く。こうして見ると、彼女の目はスバルたちのそれと同じぐらいの意志の強さがあった。
「それのせいでミソラが大変なんでしょ? だったら私、友達として何とかしたいの」
「洗脳される可能性があってもか」
「危険だからやらないなんて、言い訳だよ」

 だから出来る事はしたいんだ。

 ためらうことなく、真っ直ぐに言うスズカ。
 友を思い、その窮地に対して出来る事を探し、全力で努力する。その姿は、かつてのルナを思い出させた。
 彼女もまた、キズナではなく絆があるのだろう。例え今のミソラがスズカの事など眼中になくとも、スズカはミソラのピンチに対して全力を尽くすのだ。
 託してみるのも悪くないかも知れない。ソロは何となくそう思った。
「……勝手にしろ」

 

 君は僕らの女王様。
 女王様の為なら何でもやる。

 だから君は常に笑顔でいて。
 僕らのために笑っていて。

 そんな貴方たちに、女王様からのご命令。

 ――星河スバルを私の元に連れてきて!