遠縁の親戚・7「ミソラの主張」

 朝食を取っている時、昨日と同じ場所に目を向けると、これまた昨日と同じようなウィザードがこっちを見ていた。
 流石に気になって来たので、ミソラが出かける準備をしている間、ソロは電波変換して怪しいウィザードが監視していた付近まで飛んでいった。

 当然ながらウィザードはもういない。その代わり、周りでデンパくんはわいわいと仕事をしていた。
「おい」
 そのうちの一人を捕まえ、「聞きたい事がある」と聞き込みを始める。
『は、はい、ぼぼぼボクでお答えできるなら!』
 ブライの見た目と視線に怯えるデンパくんだが、こっちの質問はちゃんと答えてくれるようだ。
「さっきまでここにウィザードがいただろう。何をしていたか解るか?」
『えええ、えーと、たた確かにいましたけど、別に何もしてなかったデス! 強いて言えば、同じところを見てて何かぶつぶつ言ってたくらいで!』
「同じところ? あそこか?」
 ブライが自分たちのホテルの方向を指すと、デンパくんは『そこデス!』と何度も頷いた。
「何を言っていたかは?」
『そそ、そこまでは解らないデス。盗み聞きなんてお行儀悪いですよぅ』
 周りのデンパくんもうんうんと頷いている。基本、デンパくんは与えられた仕事しかできない……行儀がいい。そんな彼らに聞き耳を立てろと言うのは酷だろう。
 とは言え、怪しいウィザードが自分たちを監視しているのが解っただけでも収穫だ。
 ブライは今だ怯えるデンパくんたちをそのままにして、ホテルに戻った。

 

 今日の予定は挨拶回りだった。
 一昨日と同じ予定ではあるが、挨拶する相手はマリアの所属する事務所の方がメインらしい。面倒だが、それだけ大規模なイベントだという事だ。
「挨拶はさっさと済ませて歌の練習したいんだけどな~」
 そうぼやくミソラの声は朗らかなまま。ソロの隣のマネージャーははははと笑うが、明らかに愛想笑いだ。
 今回は事務所の人やスタッフたちへの挨拶回りという事で、マネージャーを始めとしたミソラの事務所のスタッフもついてきていた。
 当たり前だが、全員ソロをやや警戒している。無理もない。ミソラと知り合いで、生身でも強いというだけのプロフィールしか知らないのだ。
「それはそうだけど、ミソラちゃんは狙われてるのもあるから慎重にするんだよ」
 暗に自分も疑っていると言われた気がして、ソロは内心ため息をついた。

(だからあいつにやらせたかったんだ)

 星河スバルなら、たとえ護衛という立場がなくてもあっさり信じてもらえただろう。と言うか、積極的に二人きりにさせたに違いない。
 ミソラの唯一のブラザーという点を差し引いても、星河スバルと言う男にはそれだけ人を信じさせる魅力があるのだ。
 そんなソロの嘆きを知ってか知らずか、ミソラは少しむっとした顔になった。
「だーかーらー、そこはちゃーんと考えてます! 実際ソロはちゃーんと頼りになってるんですから!」
 ミソラに強く出られてしまい、戸惑うスタッフたち。これ以上余計な揉め事を起こしたくないようで、一瞬顔を見合わせてから「ごめんなさいね」と頭を下げた。
「でも、私たちは本当に心配してるって事、忘れないでね」
「うん、そこは十分解ってます。だから、私の判断もちゃんと信じてほしい」
 ミソラはそう笑いながら言い、一歩前に出たので、ソロやスタッフもその後に続く。
 それが午前中の事だった。

 挨拶回りが終わった後のミソラは、終始不機嫌だった。付き合いの短いソロですら彼女がイライラしているのが手に取るように解るぐらいに。
 活発な彼女が何一つ言わずに黙々と歩き、スタッフやハープも無言だ。
 さすがに何かあったのだろうと察することは出来たが、あえて聞かずについて行く。今突っつくのは得策ではない。
 そんな状態のまま言葉少なに解散し、これまた言葉少ないままホテルまで戻る。やはりお互い無言のままだ。
 部屋に戻るとミソラは真っ先にベッドルームに飛び込み、ポーチを叩き付けた。
「荒れているな」
「当たり前でしょ!」
 一発だけでは不満だったか、叩き付けたポーチを拾い直してまた叩き付ける。背負っているギターだけは絶対に手を触れない辺り、まだ完全にキレてないようだが。
「あいつら、よりにもよって『貴女が来たならロックマンも来てくれると思ったんですがね』なんて言ったのよ!? まるで私がおまけみたいじゃない!」
「来れませんって言ってやればいいだろうが」
「言った! そしたら何て言ったと思う!?」
「知らん」
「『これは意外だ。ロックマンのために歌ってるような貴女が、ロックマンを呼べないなんて』よ!」
 ふざけんなー!と更にベッドに蹴りまで入れるミソラの姿を、ソロはただ見ているだけしかできなかった。

 ソロも、同じような事を考えていたからだ。

 自分が知る限り、ミソラはいつもスバルと一緒だった。
 バミューダラビリンスでは単独行動だったが、それは暗にスバルを人質に取られたからであって、結局のところ本当の意味で一人でいたことはない。
 スバルたちはキズナの力と言うだろうが、ソロから見れば強い誰かに縋りついてその恩恵を受けているにおまけたちに過ぎない。
 特にミソラは代表曲の一つ「シューティング・スター」からして、スバルへの重く強い想い……依存があからさまに出ていた。

 ロックマン、星河スバルがいてこその響ミソラ。それがソロの、一部の人間の評価だった。
 そしてその評価を、ミソラは受け入れている。そう思っていた。

 だが今こうしてヒステリーを起こすミソラの後ろ姿は、スバルとセットの評価を許していなかった。
 ロックマン(星河スバル)の女としてではなく、響ミソラとして評価してほしい。そう背中は語っている。
「……なら、有象無象共に見せつければいい」
 ソロが声をかけると、ミソラの動きがピタリと止まった。
「あの男を呼ぶつもりがないなら、最後まで自分一人でやりきれ。でなければ、貴様は一生おまけの女だ」
 そこまで言い切った後、「それとも」と付け加える。
「このままでいるなら、ある意味貴様と星河スバルの仲を認められたようなものだぞ?」
「それ、嫌味で言ってるでしょ……」
 呆れてため息をつくミソラ。
 拒否する辺り、彼女は本当にスバルのおまけで有る事を嫌がっているようだ。もし冗談でも「それはそれで」と返してきたら、ソロはその時点で護衛を辞めるつもりだったが。
 ともかく、ミソラの本気は解った。なら、自分も最後まで付き合ってやるべきだろう。
 覚悟を決めてふっと一息つく。そんなソロの姿を見て、ミソラはくすっと笑った。
「何だ?」
「いや、ソロの励まし方って独特だなって。『有象無象』なんて難しい言葉、あんまり聞かないよ」
「……」
 そんなものだろうか。
 自分はただ思った事をそのまま口にしたに過ぎない。スバルのような「優しい」言葉はキャラじゃないし、べたべたと甘やかすなど言語道断だ。
 励ますつもりはなかったが、それでも今のミソラには充分だったようだ。ならば余計な事は言わなくていいだろう。だが。

「……すまなかったな」

 ソロの唐突な謝罪に、ミソラが完全に固まった。
 今までならそのまま放置していただろうが、今回は謝るべきだと心の底から思った。自分も、ミソラを馬鹿にした奴らの一人だったから。
 自身が心の底から認めた相手なら、頭を下げる事だってやぶさかではない。それが先ほどまで侮っていた女だとしてもだ。
 一方思いがけない言葉をもらったミソラは、かなり長い間固まっていたが、やがて首をぶんぶんと大きく振った。
「へへっ、何かいつも以上にやれる気がしてきた! ソロ、ありがとう!」
「オレは何もしていない」
「まったまた~♪」
 調子に乗ったか、ミソラはソロの頬をぐいぐいといじり回してきた。さすがにそこまでべたべたされると鬱陶しいので、大きく手を振って振り払う。
「うー、ソロって結構ほっぺとか柔らかいから堪能したかったのにぃ」
「変な事を言うな」
 また漫才のようなやり取りの流れになってしまったので、ソロは彼女から大きく離れた。
『ほらほら、いい加減仲良しいちゃいちゃはおやめなさいって』
 ハープの助け舟で、ようやくじゃれ合いが終わった。ソロも安心して、またミソラに一歩近づいた。
 そんなミソラはとびっきりの笑顔をソロに向ける。
「謝られた時はびっくりしたけど、何かようやくソロと少しだけ仲良くなれた気がするよ。やっぱり、ついてきてもらって良かった」
 仲良くなってもらっても困るが、本人が満足ならそれでいいのだろう。ソロはまたふっと一息ついた。

「私はやるよ。いつまでもおまけ扱いされたくない。ニホンにはロックマンだけじゃなく、響ミソラもいるんだぞってちゃんと宣伝しないとね!」