All in One・4

 ステルスボディの限界、それはサテラポリスにブライ襲来を知らせる時でもあった。
 どこに潜んでいたのかわらわらと湧いて出るバトルウィザードを一蹴しながら、ブライはまだ建設中のKNステーションへ急ぐ。
「目標を肉眼で確認!」
「遅い」
 バトルウィザードがブライを確認したのと、ブライがその哀れな犠牲者を一太刀で切り捨てる時間は、ほぼ同一。
 あまりの速さにうろたえるバトルウィザード部隊。それがブライにとっては、新しい隙に映った。
「ラプラス……!」
「……!」
 オペレーターの意思を汲み、ラプラスは棒立ちとなった部隊の中に飛び込んだ。援護として、ブライもブライバーストを撃つ。
 縦横無尽に暴れまわる巨大剣と、地表を走る衝撃波。逃げ場のない刃が荒れ狂い、あっという間にバトルウィザード部隊を吹き散らした。
 上に上がれば上がるほど、バトルウィザード部隊の数は多くなるものの、いずれもそう時間をかけずにブライに叩き伏せられる。
(これくらいなら、すぐに片付く……)
 バトルウィザード程度なら、何体出てこようとも蹴散らすのにそう手間はかからない。
 基本、電波人間を相手に出来るのは電波人間のみ。しかもソロの場合、電波変換せずともバトルウィザードの部隊とやりあって勝った実績があった。
 だが油断は出来ない。WAXAには、電波人間が最低二人は存在する。一人は科学者ゆえにこういう戦場には出ないだろうが、もう一人は……。
「……っ!」
 視界の端に白の閃光を見た気がして、ブライはその場を大きく離れる。
 同時に過ぎ去っていく、強烈なソニックブーム。あれだけ強烈なのに、仲間のバトルウィザードには全然当てていない辺り、さすがプロだ。
「よう、昨日ぶり」
 軽く手を上げて挨拶するアシッド・エース。その態度は、昨日と全然変わらない。そう、見た目は。
「昨日のことは、覚えているようだな……」
「ん?」
「……何でもない」
 カマをかけるように問いかけ、すぐに馬鹿なことをしたと反省した。狂気の人間に「正気か?」と問うたところで、まともな答えが来るわけがない。
 今は、「KNステーションを襲撃してきた敵」だと思わせたほうがいいだろう。今の状態で何かを話しても、きっと無駄だ。
 それに、迂闊な話は余計な混乱を招く。自分の推論もまだ推論の域を出ていない以上、変なことを話すのは逆にダメだとブライは判断した。
 無言でラプラスを剣にして構えるブライに、アシッド・エースは銃を構えた。
「KNステーションは、破壊させない。あれは世界の希望なんでね」
「世界の希望、か……。随分と大きく出たな」
「これでも過小評価してるつもりだぜ?」
 過大評価したらどうなるんだと何となく思ったが、それは言わないでおく。
 昨日の続きの始まりは、ブライから動いた。ウェーブライド・ブーストシステムという強力なブーストを受けての一歩、そして大振りな横薙ぎ。
 当然、アシッド・エースにはあっさりとかわされる。無論ブライもその動きは先刻承知。もう一歩踏み込んで、今度は下から上への斬りへと変えた。
 今度は少しかする事に成功した。薄皮一枚だが、ヒットしたのは大きなアドバンテージになるはずだ。
「ちっ!」
 かすった場所を一瞬なで、アシッド・エースが反撃してくる。正確無比なその一撃を避けるため、ブライはあえてラプラスを手放した。
 ラプラスが戻るのを確認することなく、後ろに飛んで避ける。ムーの障壁は一回だけブライを守り、その役目を終えた。
 鋭く口笛を鳴らして、ラプラスに合図。意図を汲んだラプラスが剣へと変化しながら、アシッド・エースを狙うクロスロードを刻む。
 その軌跡を目で追いつつ、ブライは大きく飛んだ。
「させるか!」
 アシッド・エースが銃を構えなおすが、時既に遅し。空中でラプラスブレードを受け取ったブライは、そのままアシッド・エース目掛けて飛び込む。

 そして、剣は振り下ろさなかった。

「え?」
「……通らせてもらう」
 柄で大きく腹を突くと、その勢いでアシッド・エースを押しのけて先に続く道へ。今日も同じだ。別に倒さなくてもいい。
 こう倒さないで行くというのはストレスがたまるが、今回ばかりは仕方がない。盗掘したのはサテラポリスではないのだ、と言い聞かせ、先へ進む。

 

「逃げられたか」
 鋭く突かれた腹を何度も撫でながら、アシッド・エースはゆっくりと起き上がる。
『大丈夫ですか?』
「ん、吐くまでは行かない。ただしばらくはメシが食えないかな」
 心配して駆け寄る隊員たちに大丈夫と手を振ると、隊員たちは次々に心配の言葉をかけつつブライの後を追っていった。
 後に残るのはアシッド・エースのみ。
「はぁ~……。ま、無理はしないでくれよ」
『無理だとは思います』
 もう見えなくなった隊員たちに声をかけるアシッド・エース。自分も後を追いかけるべきだろうが、いかんせん体の調子が悪い。
 メテオG事件ほどではないが、まだ電波返還には負担がかかる。昨日今日と戦り合ったので、もう無理はできないのだ。
(しかも相手があのブライじゃあな)
 ロックマンよりも遥かに強いとされる男。実際に戦ったのは昨日が始めてだが、確かにその評価は当たっているかもしれないと思った。
 しかし、その力は己のアイデンティティであるムーのためにしか使われないと言う。もったいない、とつくづく思う。
(世界のために、とか思わないのかね)
 複雑な過去を背負っている自分でも、世界の危機はどうにかすべきだと焦ったものだ。それなのに彼は、「関係ない」の一言で無視したと言う。

 もったいない。つくづくもったいない。

 強いくせして仲間にならないなんてもったいない。
 一人で生きてるなんてもったいない。
 サテラポリスの誘いを断るなんてもったいない。
 世界のために戦わないなんてもったいない。
 平和を守ろうとしないなんてもったいない。
 KNステーションを壊そうとするなんてもったいない。
 キズナを信じないなんてもったいない。
 もったいない。つくづくもったいない。

 もったいないもったいないもったいないもったいないもったいないもったいないもったいないもったいないもったいないもったいないもったいないもったいな

 

 

                                               ……ぶつん!!

 

 

 何かが、切れる音が聞こえた気がした。
 何だろう、と思って体を起こし……違和感を覚える。
「……あれ?」
 頭が何故か軽い。重くてもやもやしていた何かが、一気に取り払われた気がする。
 不思議に思って頭をこんこんと叩いてみるが、何の手がかりもない。ついでだから電波変換も解除してみる。
「何か……軽いな。頭も身体も」
 さっきまで何かに押しつぶされていたような気がするが、今はそんな感じが全くない。頭のてっぺんからつま先まで、自分そのものだ。
 ……そう、自分そのものだ。心の中も、ちゃんと自分自身だ。
(だったら、さっきまでは?)
 眉間にしわを寄せていると、いきなりハンターVGがポップアップを出した。内容は……ブライを逃がしてしまったと言う報告だった。

 

 WAXAを遠くに見渡せる場所に、ソロは立っていた。
「何とかスピリトゥスは取り戻すことが出来たか……」
「ダ……」
 手にあるのは、WAXAで建設予定だったKNステーションから発見された、赤のスピリトゥス。アシッド・エースをかわした後、すぐに見つけられた物だ。
 残るは二つ。手がかりは少ないが、急ぎ回収しなくてはならない。
(オレの予想が当たってしまったからな……)
 WAXA……サテラポリスの方に視線を向ける。スピリトゥスが奪われた騒ぎは直に収まるだろうが、それ以外の騒ぎはしばらく収まらないだろう。
 それも仕方がないとは思う。あのKNステーション自体が、世界を狂わせる鍵となろう物なのだから。