All in One・14

 

                                               ……ぶつん!!

 

 何かが切断されたような音が、聞こえた気がする。
 それと同時に、スバルの意識が覚醒した。
「……はっ!?」
 改めて辺りを見回せば、自分は下からでも見える場所に立っていて、今でも電波変換しそうなポーズを取っていた。
「え、え、え!?」
「ス、スバル君、落ち着いて!」
 パニックになりそうなスバルを、同じくパニックになりそうなルナが抑える。何故か落ち着いてるウォーロックたちウィザードが、スバルを後ろに下げた。
 下の方も、なにやら戸惑ってるようなどよめきが広がっている。よく聞き取れないが、どうも自分が何をやっていたのか解らないといった感じだ。
「ど、どうしよう。これ」
「どうしようも何も……やっぱりロックマンになるしかないんじゃないですか?」
 下の様子を見ながら、キザマロが答える。正直、何がどうなってるのかさっぱりな以上、やはりそれが一番穏便な方法なのかもしれない。
 あまり目立ちたくないんだけどな、とぼやきつつも、スバルは物陰に隠れて電波変換した。

 

「あーあ、終わっちゃった。結局決着つかずかー。
 ……それにしても、これで全部取られちゃったわけね。ま、データは揃ったんだからもう用無しだけどさ」

 

 ロックマンが出たことで、コダマ小学校に集まっていた人々は満足して帰っていった。
「あーあ、発表会は結局お流れね」
 帰る人々を上から見ながら、ルナが大きなため息をつく。そんなルナを発表会のボードを片付けながら、モードが慰めた。
『いいじゃないですか。皆さん喜んでくれましたし』
「まあね……」
 経緯は何であれ、開催式典に合わせたイベントはある意味成功したと言える。ただ皆ロックマン目当てだった、というのがかなり悔しいのだが。
 そのロックマン――スバルはと言うと、レポートをまとめながらぼんやりと考え事をしていた。
 考え事をしすぎて手先が止まっているスバルを、ウォーロックが指摘する。
『おいスバル、手が止まってるぜ。どうした?』
「え? ……ああ、ちょっとね。ブライ……ソロの事で」
『ソロの?』
「うん」
 スバルが一番気になっていたのは、ソロの狙いだった。
 彼はムー関連でなければまず動かないし、本人も遺産を取り戻すためだと言っていた。では、それは何なのだろう。
 KNステーションは、グリューテルム博士の提案した「キズナ・ネットワーク」計画のために建築されたもの。その計画のどこで悪用されたと言うのか。
(そう言えば……)
 KNステーションを見ているうちに、スバルはある事に気づく。
 どうも、身体や頭が軽い。ブライと戦い始めてからずっと頭に違和感を覚えていたのだが、今はそれがない。
(一体どうしたのかな……?)
 首をかしげていると、エスカレーターの扉が急に開いた。

「スバルく~ん!」

 扉が開いたと同時に飛び出してきたのは、何と響ミソラ。久しぶりに会った彼女は、何一つ変わらずにスバルたちの元へと駆けてきた。
「ミソラちゃん!? どうしてここに?」
 全員を代表してスバルが問う。するとミソラはにっこりと笑って、不思議な事を言った。
「どうしてって、今日は休みだし、どうしても直接お礼を言いたくって!」
「「お礼?」」
 顔を見合わせるスバルたち。お礼と言われても、何かやっただろうか。全然記憶にない。
 しかしミソラの方はわざとやっていると解釈したらしく、ぽんぽんとスバルの肩を叩いて笑う。
「やだ、とぼけないでよ~。こないだの完成式典の時、ブライをやっつけて私を助けてくれたでしょ?」
「……え?」
 記憶にない。
 それどころか、この間の完成式典には一度も顔を出していない。ミソラがゲストだと知った時はもうチケットは手に入らなかったし、平日だから行けるわけがない。
 それに、ブライがそっちの式典でも顔を出していたなんて初めて知った事だ。やっつける以前の問題ではないか。
「な、なあ、ミソラちゃん。それどういう事だ?」
「ブライが出たって本当なの?」
「スバル君に助けられたって本当ですか?」
 ゴン太やルナ、キザマロも次々に質問する。その様子で、ようやくミソラもどこかおかしい事に気がついたようだ。
「ね、ねえ……、こないだの完成式典の時、皆学校にいた?」
 うなずくスバルたちに、ミソラの顔が青ざめていく。
「ど、どうなってるの!? だってハープがスバル君が助けに来てくれたって……」
「え!? 僕、ミソラちゃんがピンチだったって事自体知らなかったよ!?」
 話がかみ合わない。ミソラはスバルが助けに来たと信じているが、スバルはその事を全く知らなかった。
 考えられる可能性は一つ。それに行き着いた全員の視線が、ミソラのハンターVG――ハープに集中した。
 全員の視線を浴び、とうとうハープが根を上げた。
『あーもう! やっぱり無理だったのよ! それをあの子ったら……』
「「あの子?」」
 オウム返しに問われ、ハープは深々とため息をついてから真剣な顔で答えた。

『ミソラ、貴女を助けたのは、私に嘘を言えと言った人物……ソロよ』

「「ええーっ!!?」」
 ハープの告白に全員が思いっきり吹っ飛ぶ。
 真実があまりにも予想外すぎて、頭がついていかない。全員が想像しているソロ像とは、結構かけ離れている気がするのだ。
 でも、とスバルはそこで考えを改めなおす。冷徹で厳しい性格故誤解されやすいが、別に人を見捨てるような子ではない。
 しかし、何があってソロはミソラを助けたのだろう。しかもハープに固く口止めさせるとは、一体何を考えているのか。
 そうこう考えている隣で、ミソラがハープに詰め寄っていた。
「ブライは……ソロはKNステーションを破壊しに来たんじゃないの!?」
『そんな事、彼は一言も言ってないわ』
「あ……」
 ハープの返しに、スバルは内心そうだろうなぁとうなずく。自分はソロに直接聞いたのだから、KNステーション破壊は大きな勘違いだ。
『ま、今までの奴の行動を考えれば、そう考えるのも仕方ねーわな』
 ウォーロックの言葉に、ルナたちが確かに、と賛同した。あれほど大っぴらにキズナ嫌いと言っているのだ。疑われるのも仕方がない。
 しかしミソラとしては大きなショックだったらしく、そのまま地面にへたり込んでしまう。ルナが慌てて支えるが、立ち上がれそうにないようだ。
 そんな二人を横目で見ていたウォーロックが、こっちを向いた。
『で、どうするよ。スバル』
「どうするって……」
 正直、謎だけしかないこの状態ではどうしようもない。手がかりらしいのが何一つもないのでは、調べようにもないのだ。
 ……と、そこまで考えて、ふと「彼」の顔が浮かんだ。
「暁さんに相談しよう」
 ようやく思いついた案に、全員がおおっとうなった。
 シドウなら、ソロの行動や今起きていることについて何か知っているかもしれない。知っていなくても、ソロを追う手ぐらいは考えてくれるだろう。
 スバルはハンターVGを取り出して、シドウのアドレスを引っ張り出した。

『……そろそろ呼び出してくると思ってたよ』
 スバルからの呼び出しに応じてくれたシドウは、開口一番そう言った。
 まるで待っていたかのような一言にスバルたちは顔を見合わせてると、シドウはまた口を開いた。

『とりあえず、WAXA日本支部まで来てくれ。ああ、迎えはこっちが出すから、君達はここで待ってろよ』