All in One・12

 開催式典当日。
「な、何がどうなってるのよ!?」
 予想外の展開に、屋上で準備していたルナが悲鳴を上げた。
「ミソラちゃんのライブと同じくらい、人が来てるんじゃねーか!?」
 隣で下を見ていたゴン太が、同じく青ざめた顔で驚いている。スバルにいたっては言葉も出ない状態だ。

 コダマ小学校前庭には、かなりの人が集まっていた。

 イベントとは言え、発表会と言うささやかなものなので、それほど人は来ないと全員予想していた。
 が、現実は前庭どころか校門前まで人が群がるほどの大盛況。ここまで来ると、感動や嬉しさよりも恐怖が先に出る。
 種類も老若男女様々で、余所の町から来た者もたくさんいるようだ。どういうわけか、明らかに外国人も混じっている。
「い、委員長! スバル君!」
 原因を突き止めるためにウェーブステーションのニュースを調べていたキザマロが、甲高い声を上げた。
「どうしたの?」
「こここ、これ見てください!」
 震える指で示す先に、ウェーブステーションのニュースが映っていた。その内容は。

『サプライズ! コダマタウンの開催式典に、あのロックマンがスペシャルゲストとして来るとの情報が!?』

「「ええっ!!?」」
 とんでもないニュースに、全員が驚愕する。
『お、おいおい、誰だよこんなの流した奴!?』
 さすがのウォーロックも驚きを隠せないらしい。キザマロを押しのけてウェーブステーションにかじりついた。
 確かに発表会の宣伝はしたが、案内所に頼んでやってもらった程度。それにロックマンが出るなんて一言も言った覚えはない。
「貴方達じゃないわよね?」
 ルナの問いに、全員が首を横に振る。
「じゃあ、一体誰がこんな酷いいたずらを……」
「さあ……」
 スバルたちは顔を見合わせるが、下からの声で現実に戻る。まずこの問題を解決するのが先だ。
 手っ取り早い解決方法は、スバルがロックマンになって出ること。だが本当に出るだけで客が満足するか、それが問題だ。
 ミソラのライブなら、スタッフが一丸となって暴動などを抑えているのだろうが、今回はそれも出来ない。
「やっぱり、スバル君がロックマンになるしかないんじゃ……」
「それで何をやらせるのよ」
「そりゃやっぱ、ミソラちゃんみたいに……」
「僕は目立つの嫌だよ。それに歌えないし……」
 スバルたちが輪になって、今後の事を相談し始める。そんなオペレーターたちを見て、ウィザードたちもハンターVGの中から顔を見合わせた。
 ハンターVGの中に戻ったウォーロックが、「どうするよ」と話を切り出す。
『ロックマンが見たいんだろう? なら出ればいいだけのはずだ』
『ダメですよ、スバル君が嫌がってるじゃないですか』
 オックスが単純な解決方法を出すが、それをモードが制止した。実はウォーロックも同じ事を考えていたのだが、先に言われたので黙っておく。
『どうにかしてあのニュースがデマだって教えるのが、一番穏便な解決方法だね』
『どうやって?』
『……どうやってだろう』
 ペディアが案を出すが、ウォーロックに突っ込まれて押し黙ってしまう。
 拙いな、とウォーロックが思い始めた時。

 ―――――――――♪

 音を、聞いた気がした。
『ん?』
 ウォーロックが、オックスが、ペディアが、モードが全員顔を上げる。
『何だ今の?』
『スピーカーか?』
『式典開催の合図とかかもよ?』
『歌……じゃないですよね』
 一体なんだと思って勝手に外に出たウォーロックは、何気なく見たウェーブロードに見覚えのある影を見つけてしまう。
『スバル!』
「……ん? 何?」
『何じゃねえ!』
 何故かぼんやりとした顔のスバルを引きずり、自分が見たものを指差すウォーロック。かなり真剣な顔なので、スバルはビジライザーをかけて見てみた。
 KNステーションに通じるウェーブロード、その上に立つ見覚えのある黒いシルエットは。
「……ブライ!?」
「「え!?」」
 スバルの言葉に、相談していたルナたちがスバルの方を向いた。
「ぶ、ブライって、本当にあのブライですか!?」
「遠くにいるから確かじゃないけど……多分」
 キザマロの問いに目を凝らすスバルだが、はっきりとは確認できない。ただ背丈は自分と同じぐらいなので、多分ブライだろう。
「何しに来たんだ!?」
「さぁ……」
 ゴン太の問いに関しては、そう答えるしかない。しかし、予想はつく。おそらく、KNステーションを破壊しに来たのだろう。
 キズナを徹底的に憎む彼の事。ブラザーバンドやレゾンの強化系であるキズナ・ネットワークを認める気はないはずだ。
(でも……)
 そこでスバルは思考を一旦止める。確かにソロはキズナや人との繋がりを憎んでいるが、このような暴挙に出る性格だろうか?
 ムー事件から何度も戦ってきているが、彼の信念はもっと深く、そして強かった。掲げているのは孤高だが、間違っても悪ではなかった。
 そんな彼が、「キズナ嫌いだから」という理由だけでKNステーションを破壊するだろうか?
 だがブライは、KNステーションに続くウェーブロードに立っている。これは紛れもない事実だ。
 やはり行くしかないのか、とスバルがハンターVGを取り出すと。
「スバル君……いえ、ロックマン様! 早く行きなさい!」
 ルナが勢いよくスバルに命じてきた。言われなくても行くつもりだが、今回はやけに勢いが強い。
「あの、委員長? 何か今日……」
「つべこべ言わない! 皆がロックマン様を待っているのよ! 行かないでどうするの!?」
 こうなったらもう何を言っても聞かないだろう。スバルは大人しくウェーブステーションから電波変換した。

 

 ブライほどの戦士になれば、遠くとも人の気配を感じることが出来る。それが強い戦士の気配なら、なおさらだ。
「……来るか」
 ロックマンが来るのを察したブライは、ラプラスを剣に変える。
 ……さて、どうするか。
 普通なら決着がつくまで戦うのだが、今の自分はスピリトゥス奪還と言う使命がある。ここで無理をして奪還失敗、では目も当てられない。
 しかし手を抜いて戦う、頃合を見て逃げ出すなど、自分のプライドに大きく反する。過去に何回もやっているので、もうストレスがたまりっぱなしだ。
 相手がロックマンでなければ、と思う。
 最近は少しはマシになってきたが、いまだにキズナや綺麗事を馬鹿正直に信じる馬鹿な男。自分にとって一番嫌いなタイプの男。
 これを殴らずに誰を殴れと言うのか。思いっきり殴りたい。
 無論、返り討ちの可能性もある。その場合は仕方がないが、何らかの方法でこの場から逃げ出して、別ルートから潜入するしかない。
(今回に限り、それはないか……)
 先ほど、あの「音」を聞いたのを思い出すブライ。
 音が鳴った瞬間、シドウたちの思考は強制的にジャックされた。おそらく、スバルたちも思考を洗脳されているだろう。
 あの音が何なのかは、いまだに解らない。自分の推理では、何らかのウィルスだと思う。
 前聞いてみたところ、あの音を聞いたのは自分だけでなく、アシッドもそうだったと言う。電波体である彼が聞いた以上、電波と思っていいだろう。
 色々考えていると、耳が自分のものではない足音を拾った。

「……来たか」

 自分を「止め」に来たであろうロックマンに対し、ブライはラプラスブレードを構えた。