メテオスは破壊されたが、その喜びだけで日常を潰すわけにはいかない。そういうわけで、翌日にはほとんどの部隊がそれぞれの任務についていった。
メタモアークもその一つ……と行きたいところだったが、艦長やクルーの治療に部隊解散の事もあり、今も連合軍本部に留まっている。
そんな中、グランネストは艦長帽を持って、クレスが治療を受けている医療エリアに赴いていた。
看護婦に教えてもらった部屋のドア前に立ち、軽くノックする。間を置かずに「入ってくれ」と返事がきた。
「来たか」
「お邪魔します」
中に入ってすぐに頭を下げる。頭を上げてからクレスの方を見て、グランネストはようやくもう一人――中年女性がいる事に気が付いた。
「あの……」
「あ、お邪魔してるよ」
気さくそうに手を上げて挨拶されるが、グランネストはどうしてもその女性が誰なのか解らない。ただ全くの初対面ではないような……。
女性はそんなグランネストにすぐ気づいたらしく、ぽんと手を打った。
「ああ、あまり覚えてないだろうね。昨日の戦いで、スマート爆弾の事を教えた艦長だよ」
「……あ!」
ようやく思い出した。忠告は一度だけだったし、その後も通信はなかったからすっかり忘れていた。
「あの時はどうもありがとうございました」
改めて頭を下げると、女艦長は「いいっていいって」と軽い態度で受け流す。どうしようか戸惑うグランネストだが、クレスの咳払いで本来の目的を思い出した。
艦長帽をクレスに差し出す。
「預かっていた艦長の座、お返しします」
「ああ」
受け取ったクレスはその帽子を被る。これで、艦長職はグランネストからクレスに戻った。
「重大な任務、ご苦労だったな。良く頑張っていたと思う」
「いえ、艦長たちのサポートがあったからですよ」
「謙遜しなくてもいいんだよ。上手くやれてたじゃないか」
グランネストの返事に反応したのは、女艦長の方だった。全くの他人から褒められ、グランネストは複雑な顔になってしまう。
だが、次の言葉でその表情は固まった。
「ま、そうでなきゃスカウトしようなんて考えないしね」
……耳を疑った。
「あ、あの、スカウトって……」
「そのままの意味だよ。グランネスト、あんたを艦長としてスカウトしたい」
その言葉で、頭の中が真っ白になる。
ぎこちない動きでクレスの方を見ると、彼は軽く肩をすくめる。その動作で、グランネストは彼女が本気で言っていることを悟ってしまった。
完全に石化してしまったグランネストに、クレスが落ち着いた声で説明し始めた。
「昨日聞いただろうが、メテオス破壊によりメタモアークの任務……メテオスの調査が完了した。そのため、部隊は解散となる。
メタモアーク自体は別の部隊に組み込まれるが、クルーは一般人もいる以上そうもいかないのでな」
彼らには後でどうするか聞くが、と付け加えてから、クレスは一息ついた。
その顔が少し渋いのは、傷口がまだ痛むからだろう。その銃創をそっと撫でたあと、話は再開された。
「クルーはいったん解散してからまた再編される事になるが、転属者もいるので全員メタモアークに乗せる事はほぼ不可能らしい。
そのあぶれたメンバーを、彼女がスカウトと言う名目で拾ってくれると言うのだ」
彼女、の部分で、クレスの視線は女艦長の方に移る。話を振られたので、女艦長が口を開いた。
「私たちの部隊も再編成対象になっちゃってね。内容に関しては艦長の私がある程度自由に出来るから、この際気に入ったのを選ぶつもりなんだよ」
その眼鏡にかなったのが、昨日の戦いでちゃんと指揮して見せたグランネストらしい。
「他にもスカウトしたい子はいるけど、まずはあんたからって思ってね。
……やってみる気はあるかい?」
沈黙。
クレスの方はグランネストを見るだけだ。判断は自分に任せるという事なのだろう。
そのグランネストの方はと言うと。
「……お引き受けします」
はっきりとした声で。
ちゃんと彼女の方を向いて。
そのスカウトを、受けた。
再編成やスカウトの話は、すぐにメタモアークのクルーに知らされた。
ラキたち開発チームはスカウトもないのでこのままメタモアークに残る事になるが、問題は戦闘チームの方だった。
「あっちの方から、何人か来てほしいって俺に直接言ってきた」
ラキの言葉に、ビュウブームたちが顔を見合わせる。
「戦艦は無事だったんだが、クルー……特に戦闘用アンドロイドの被害が大きかったらしいんだよ。
補充のGEOLYTEは頼んだらしいが、それで充分ってわけじゃない。経験のある奴がほしいんだそうだ」
メテオスがなくなった今、戦闘用アンドロイドが活躍する機会はそうそうない(と思いたい)が、それでも経験0の連中を集めただけでは万全とは言えない。
とは言え、ここで誰かが抜けるのを全員微妙に納得できないだろう。そしてその「微妙」が何なのか、全員は知っているはずだ。
ラキもそれは理解している。だが上から言われた以上、「出せません」と突っぱねるわけにはいかない。それが軍隊だからだ。
「勝手で悪いが、メンバーは俺が決めさせてもらったからな。
……GEOLYTE、OREANA。お前ら二人があっちに異動してくれ」
指名された二人の顔が、少し暗くなる。
「ビュウブームとアナサジ、ラスタルはこのまま残ってくれ。あっちから何名か来るから、そいつらをよろしくな」
「……解った」
こっちも同じく少し暗くなるが、ビュウブームが一番にふっきったように返事をした。それを皮切りに、皆が頷いたり返事をする。
これで、異動は決まった。
彼らを作ってから今まで、こうして離れ離れになる事はなかった。心のどこかでは、このチームは誰一人欠ける事はないとたかをくくっていたのだ。
しかし、現実と言うのはいつも厳しいもの。メテオスが破壊された以上、部隊は解散するし、皆が皆同じ道を歩くことはできない。
これは巣立ちだ。ラキはそう思う。
時期が来れば、皆は別れ、それぞれの道を歩くことになる。ここから巣立つのだ。
だがこの巣はまだ一人欠けている。どこかに飛んで行った、仲間が。
「あの」
ラスタルが、口を開いた。
「帰ってきたら、ちゃんと報告しましょう」
全員で、迎えられるように。
「おかえり」を、言えるように。
ラスタルの一言に、全員がうなずいた。
メタモアーク自体は残るので、ブリッジクルーも合わせて残る事になった。
ブリッジクルーが今すぐ必要な部隊もないらしく、こちらもこちらで変える必要もないからだ。
「そういうわけで、一応私たちは全員メタモアークに残るはずよ」
「ふーん」
「……」
サーレイの説明に、レイとロゥの二人は気の抜けたような相槌を返す。
話を聞いてなかったわけではなく、自分たちが置き去りになったという感じなのだろう。サーレイもそう思う。
出ていく者と残る者。動く者と動かぬ者。
自分たちは両方とも後者だ。常に誰かを出迎え、誰かを見送る。
……それがオペレーターの仕事なのだ。ここに留まり、ここで働くと言うことは、出て行く者や動く者を見守る事。
だが。
「ま、離れ離れになるって言っても、一生の別れってわけじゃないんだから」
出て行く者も動く者も、死に行くわけではない。帰ってくる者もいるし、連絡を取ることだってできる。
「話をすることくらい、いつでも出来るわよ」
……無論、仕事中は厳禁だが。