METEOS・75

 何もない空間に、自分はいた。
 辺りをスキャンしても、何も解らない。ここがどれくらい広いかも。

 ――ああ、これが「無」と言うものか。

 ぼんやりと、そう思う。
 何故か思い出せないが、自分はここに放り出されたようだ。もう、ここから出る事は出来ない。
 そもそも、出ようとしても力が出ない。意志すら徐々に薄れているのだ。
 自分は、いったい、どうすれば、いい?

 ――もう頑張らなくていいのよ?

 誰かの声が聞こえる。

 ――ずっとずっと頑張ってきたんだもの。もう休みましょう?

 ……嗚呼。
 嗚呼、心が満たされていく。
 きっと、自分が言ってほしかった言葉はこれだったのだ。褒める言葉でも次の指令でもなく、休息を勧める言葉。
 自分が今まで頑張ってきた事を認めてくれる言葉。

 ――頑張ったね。

 そうだ。自分は今までずっと頑張ってきた。生まれてからずっと結果を出すために……誰かに認めてもらうために。
 でも、もうそれは必要ない。ゆっくりと休んでもいいのだ。
 頑張りを認められたのだから。

 ――おやすみなさい。

 遠くで、穏やかな歌声が聞こえる気がする。
 この歌は何だろう。検索してみるが、目的の言葉にたどり着くよりも先に眠りにつきそうな気がする。
 ……それもいいだろう。

 歌声が聞こえる。
 その歌が「子守唄」だと知る前に、TELOSの意識は永遠に停止した。

 

 ヤルダバオトが作戦成功を報告したのとほぼ同じタイミングで、メテオスが崩れ始めた。
 先の二つとは違い、最後のメテオスはぼろぼろと崩れていく。よく確認すると、構成している物質がばらばらと分解されているのだ。
 ばらばらになった物質はその場にとどまり続けている。分析してみると、それはメテオと同質だと判明した。
 メテオスがメテオへと分解されていく中、ちらちらと小さな光が飛び回り始めた。

「行かなきゃ」

 カナがそう呟いて、ふっと姿を消した。
 周りに自分以外の人がいないのが幸いだった。フィアは軽い驚きをねじ伏せて、外の画像を出す。
 メテオス付近に、赤い影が見える。事情を知っているメタモアークに驚きはないが、周りの艦隊が少しどよめいていた。

 しゃりん

 涼しげな音を、確かに聞いた。
 その音に反応したか、メテオスを取り巻く小さな光がどこかへと飛んでいく。一つは遠くの星へ、一つは暗い闇の中へ。
 赤い影――カナが動くと、メテオからも小さい光が零れて、同じように飛んでいった。それらがあちこちで起きているので、辺りが明るくなる。
 最後のメテオス――本物の地球にこびりついていた、地球星人の魂が飛んでいく。永き苦しみから、解放されたのだ。
 地球が、消滅していく。
 巨大隕石の衝突により死に、災厄の星へと生まれ変わってしまった惑星が。
 今の人間たちにより失われた楽園の扱いをされた、そんな惑星が。
 消えていく。
「……」
 いつしかフィアの隣にラキが立っていた。ラキもずっと地球の消滅を見続けている。
「……終わったな」
「……そうね」
 自然と、言葉が零れた。

 

 メテオスの消滅は、メタモアークブリッジでも確認された。
 全ての魂がどこかへと消えてからしばらく、レイが大声で叫ぶ。
「終わったぁぁぁーーーー!!」
 その一言を皮切りに、メタモアークだけでなく連合軍全体が歓喜の声に包まれた。
 大げさに飛び回る者、隣にいる戦友と笑いあう者、死んだ友に終わりを報告する者……それぞれが、全ての終わりを喜び合っていた。
 グランネストは深々とため息をついて、ぐったりと艦長席に座り直す。大きすぎるその席は、最後まで自分に合わなかった。
 ふと、隣にいるクレスと視線があった。
「ようやく艦長の席を返せますね」
「まあ、な。……しばらくは空いたままだろうが」
 クレスの微笑みは弱弱しい。傷口が開いていなければいいのだが。
 降りて支えようかと思った時、メタリカから通信が来た。あわてて全員が元の位置に戻る。
『グランネスト艦長代理。まずはメテオスの破壊おめでとう』
「ありがとうございます」
 最高司令のジオライト星人の言葉に、グランネストたちは深々と頭を下げた。さっきまで騒いでいたレイも、今は大人しく頭を下げている。
 グランネストたちが頭を上げた頃を見計らって、最高司令は話を続ける。
『先の約束通り、逮捕状等については処置なしとしよう。ただ、メテオスがなくなった以上、部隊は解散となるがな』
 さすがにこれは少しだけどよめきが起きた。とは言え、目的がなくなったのだから仕方がないのだが。
『……で、だ』
 ここで最高司令の顔が、少し困ったようなものへと変わった。
『もう既に連絡が入っているとは思うが……』

「そうか、GEL-GELはどこかに……」
 帰還したヤルダバオトからGEL-GELの行方不明を聞いたラキは、どこか納得したような顔になった。
 ……いや、納得してしまった。あいつは、そういう奴だった。それに。
「でも、死んだわけではないのだな?」
 姫がヤルダバオトに問うと、彼はこくりと頷いた。そして、「あくまでTELOSと共にどこかに飛んだだけで、死んではいない」と付け加えた。
「なら、探しに行けばよい」
 姫がはっきりと断言する。
「GEL-GELは、戻ってこれなかったら探しに来いと言った。我はそれをするだけだ」

 

 メテオス破壊作戦終了。
 94艦隊が半壊。全壊12艦隊。
 死傷者731名(うち戦闘用アンドロイド583名)。
 行方不明者1名(戦闘用アンドロイド1名)。

 後始末が、始まる。