METEOS・74

 灼熱の惑星内は、防護服ごしでもめまいがしそうなくらいの熱さだった。
 もしここがこのまま残ったとしても、一般人は入れないような危険惑星にするだろうなと思っていたラキは、ふと同じような惑星を思い出した。
 その惑星はそれなりに資源があったものの、メテオの襲来によってマグマが隆起し続ける危険な惑星になってしまい、廃棄惑星となってしまった。
 住人はばらばらになってしまった。似てる特性を持つ惑星に移った者が大半だが、中にはあえて近くの惑星を選んでそこを見守る者もいた。
(名前は確か……)
 惑星の名前を思い出すと同時に、もう一つ大事な事を思い出した。

 ぴしっ

 黒い十字架に、細かなヒビが入る。レーザーブレードと違って物質な以上、やはり限界はある。
 TELOSがすぐに気づいて黒い十字架を浅く引っ込めた。追い打ちをかけたいところだが、ワイヤードフィストもあるので自重する。
 その代り、GEL-GELがエクリクスバスターを連射した。
「……!」
 TELOSの表情が一瞬躊躇で歪むのを、ヤルダバオトは見た。
 何発か食らうのを見て、GEL-GELは大きく飛ぶ。踏んだ地面が砕けるくらい、強く、大きく。
「フレームパージ……!」
 もったいない、と思ったのはほんの一瞬。
 半壊したジェネシスフレームが、爆発するほどの勢いで外された。その勢いで、GEL-GELが飛ぶ勢いはさらに増す。
 驚くTELOSの顔がはっきりと見える、そんな距離。飛び出してくるであろう攻撃を全て耐える覚悟で、GEL-GELはもう一歩踏み込んだ。
 その距離、ほぼ零距離。
「なっ……!」
「はぁぁぁっ!!」
 気合一閃。GEL-GELが突き出した右腕は、意外にもやすやすとTELOSの体に潜り込んでいった。
 入り込んだ腕は、TELOSのコアらしきものを掴む。想像していたよりも大きいのは、彼が遥か昔の機体だからか。
 TELOSが動く前に、GEL-GELの方が動いた。
「イレイザー、発動!」
「何だと!?」
 GEL-GELの叫びに合わせ、体内に搭載された二つのレアメタルが最大出力になる。
 イレイザーは選択したメテオを消滅させる技で、それ以外の物がどうなるかはGEL-GEL本人も知らない。ただ、ここから飛ばすことはできると予想していた。
 確証はない。ただの勘だ。しかし、今この状態では何故かその勘は信じられた。
 TELOSが倒せないのなら、彼がこの場からいなくなればいい。それがGEL-GELの考えた方法だった。
 そのTELOSがGEL-GELの額に拳を向けようとするが、それをヤルダバオトのライフルが止める。GEL-GELの方もオリハルコンを振りかぶって抑えた。
「GEL-GEL、少し堪えろ」
 METEOSモードから、自分の能力であるヘビーウェイトを発動させるヤルダバオト。普通なら辺り一帯に重圧を与える技だが、今はアレンジしている。
 一瞬、GEL-GELの周りがプレスをかけたように重くなった。当然、TELOSも巻き込まれ、大きくバランスを崩す。
 苦し紛れか、TELOSがGEL-GELの顔を鷲掴みにしてきた。
「ジェネシス32……ッ!!」
 TELOSが名前を呼ぶ。
 過去の名前。かつての自分の名前。TELOSの後継者になるためだけに生まれた、自分の名前。
 ――だけど、今は。

「僕はGEL-GELだ!」

 今の名前。メタモアークに拾われてからの自分の名前。メテオを相手取り、やがてはメテオスを破壊するために戦う、自分の名前。
 仲間が付けてくれた、自分の名前。
 この名前のおかげで、戦えた。ナンバーではなくれっきとした名前があったからこそ、自分は仲間になれたのだ。
 自分を拾い、名前を付けてくれた仲間達に出来る事。それを考えた時、GEL-GELはようやく自分の本当の望みを見出した。

 ――僕を拾ってくれた仲間に、全ての人の子に、未来を!

「貴様ァァァァァァァァ!!」
 激高したTELOSの声を聞きながら、GEL-GELは転移エネルギーをチャージしていく。ボディのダメージは酷いが、それでもチャージは止めなかった。
 ヤルダバオトの援護もあるし、おそらくばらばらになる前に転移はできるだろう。……転移後はどうなのか、予想がつかないが。
 そして。
「……!」
 体がふわりと浮くような感覚。次いで歪みそうな感覚が、GEL-GELを襲う。
(飛ぶんだ……!)
 TELOSの足掻きは続くが、それが結果を生む前に転移できそうだ。ひびの入ったヘッドギアを投げ捨て、片手でオリハルコンを振りかざす。
 飛ぶ直前、GEL-GELはヤルダバオトの方を向いた。
「後、お願いします」
 ヤルダバオトは無言でうなずく。フルフェイスメットで表情は見えないはずなのに、今彼がどんな顔をしているか何故か解った気がした。
「飛びます!」
 その言葉を最後に、GEL-GELとTELOSは飛んだ。

 

 自分の体が、意識が、どこかへと飛んでいく。
 全てが、これで終わる。
 飛ぶ瞬間、GEL-GELはTELOSのコアを砕いたのを感じた。

 

 後に残ったのは、自分とメテオスのコアだけだった。
 再生能力でもあるのか、あれだけ激戦を繰り広げたのに、その跡はほとんど見当たらない。
 あまりにも空しい光景。
「……」
 ヤルダバオトは無言で、コアを撃った。

 ばぁん、ごしゃっ

 銃声一つで、コアは砕ける。
 これで、このメテオスは完全に機能停止した。つまり、全てのメテオスを止めた事になる。
 災厄は終わったのだ。
「……」
 全てが終わったことに対して、何の感慨も湧かない。ただ、終わりに対する空しさを感じるだけだ。
 振り返れば、メテオスは災厄だが自分たちの親とも言えた。メテオスが誕生しなければ、自分はこの世に生まれなかっただろう。
 それは自分たちだけではない。メテオスによって運命を狂わされた者もいれば、メテオスによって何かを得られた者もいる。
 だが、それももう終わりだ。脅威は去り、時が積もればいつかは過去の……歴史上の出来事となる。自分たちが生きていたことも、その中に沈んでいく。
 今あるのはメテオスがないと言う未来への道だ。
 ヤルダバオトは砕けたコアに背を向け、その未来への道への一歩を踏み出した。

 

 メテオスの異変は、ラキたちもすぐに気づいた。
「これは……!」
「もしかして!」
 爆弾を全て設置し終えた班が、互いに顔を見合わせてその「予想」を語り合う。
「ラキさん!」
「ああ」
 エデンも心なしか嬉しそうな顔で、こっちを見上げてきた。その顔を見て、ラキは一つうなずく。
 メテオスは、もう終わりだ。
 止めとばかりに爆弾を爆発させてもらってから、ラキたちも帰路に着く。その表情は皆明るく、軽い冗談を言い合えるほどになっていた。
 帰る途中、ラキは振り向こうとして……やめた。
 ここにあるのは過去の怨念ぐらいだ。もう過去を振り向く必要はないのだから、ここに拘る必要もない。
 自分の歩いている道をまっすぐ歩けばいいのだ。