METEOS・73

 コアのある部屋。
 そこに、黒い十字架と人影があった。
「来たか」
 人影……TELOSが口を開く。そして構えられる黒い十字架。どうやら語る言葉はないらしく、GEL-GELとヤルダバオトも武器を構えた。
 張りつめた空気が一秒、二秒と流れ……

 ばぁん!

 ヤルダバオトの撃ったライフルが、戦いの始まりだった。
 弾はまっすぐTELOSの足元へと飛び、そのまま着弾する。牽制と気づいているのか、TELOSは動かなかった。
 続いてGEL-GELもエーテル・ライフルを放つ。今度はTELOSを直接狙ったので、黒い十字架で弾かれた。TELOSが動いたことになる。
「行きます!」
 そのわずかな動きも見逃さない。GEL-GELはオリハルコンを手に、一気にTELOSの懐まで飛び込んだ。
 下から掬い上げる勢いで、コアがあるであろう胸に一撃当てようとする。無論、相手もそれを読んで黒い十字架の柄の部分で抑えた。
 武器の硬さならオリハルコンの方が上のはずだが、黒い十字架はヒビ一つ入らない。相手の技量によるものか。
(このままつばぜり合いへ!)
 GEL-GELは諦めない。力と力でのぶつかり合いなら多少行けるとみて、オリハルコンを下げずに押していった。
 ヤルダバオトも援護として、後ろからマシンガンを乱射する。ばら撒かれた銃弾は確実にTELOSに当たるが、勢いまでは殺せなかった。
 拮抗状態のまま我慢比べかと思ったその時、空いているTELOSの左の拳がGEL-GELの前に突き出された。
「!?」
 次の瞬間、発射されるワイヤード・フィスト。あまりにも予想外だったそれは、見事なカウンターとしてGEL-GELにヒットする。
「がぁっ!」
 ガードすることもできず、弾き飛ばされるGEL-GEL。TELOSの方もノックバックを受けて、やや後ろへと下がる。
 詰めた間合いがまた離された。もう一度飛び込む事は出来るだろうが、今度も同じカウンターを受ける可能性がある。
 ならば、次の手は。
「GEL-GEL、援護しろ」
「はい!」
 ヤルダバオトの一言を受け、GEL-GELはイレイザーキャノンのチャージを開始する。
 無論、棒立ちではない。ジェネシスフレームに装備されているジェットで、大きく飛ぶ。ビュウブームのように自由自在とはいかないが、小回りは効く装備だ。
 TELOSの上を取り、装備されているミサイルを撃つ。狙いは彼の近くにあるコアだ。
「ちっ!」
 さすがにコアへの攻撃は予想外だったか、TELOSが舌打ちをする。……しかし、彼は動かない。
 ヤルダバオトがマシンガン二丁の狙いを定めていると言うのに、それでもTELOSは立ったまま。このまま立ち尽くしたままなら、コアもTELOSもぼろぼろだ。
 全ての弾がヒットする。そう思えた瞬間。

「マスクドアーマー・パージ」

 声が聞こえた。
 同時に、TELOSを中心に何かが弾けたらしく、大きな爆発音が響く。その爆破による破片で、弾が全て防がれてしまった。
 そして飛び出すTELOS。先ほどまでとは違い、大きな目の仮面がなくGEL-GELたちによく似た顔を晒している。
(早)
 い、という思考が完成する前に、ヤルダバオトは詰められ、黒い十字架の餌食になる。その速度は、見ていたGEL-GELも把握できないほどだった。
 TELOSの視線が、GEL-GELの方を向いた。
「うっ……!」
 イレイザーキャノンはまだチャージしきれていない。だが、こっちをとらえたと言う事は攻撃されることは間違いない。
 撃つか。避けるか。その二択が頭に浮かんだが、それこそがTELOSにとって待ち望んでいたチャンスだったようだ。
「プラズマ・ランサー」
 鋭い声と共に、放たれるエネルギー弾。GEL-GELはあわてて回避するが、フレームにいくつか着弾してしまった。
 ――その着弾した場所には、あのチャージ中だったイレイザーキャノンの砲身も含まれていた。
「!? しまった!」
「GEL-GEL!」
 幸い、エネルギーの暴発はなかったが、もうイレイザーキャノンを撃つことはできない。切り札の一つを奪われたGEL-GELの顔が、見る見るうちに青ざめる。
 隙を作らないよう、エーテル・ライフルで狙撃するが、それらは全てかわされた。逆にワイヤード・フィストを飛ばされ、あわてて避ける。
 体勢を立て直したヤルダバオトが改めて突っ込もうとするが、その足が一歩目で止まった。首をかしげるGEL-GELだが、降り立った瞬間その理由を悟った。

 ……ばちっ……ばち……!

 足元からも感じる、震える音とスパーク音。
 TELOSの方を見れば、ヘッドギアと胸元に張り付いた「目」がらんらんと輝いている。しかも簡易スキャンをしなくても、そこからエネルギーが漏れているのが見て取れた。
 何とかチャージを止めようと狙撃するが、それらは全てTELOSから洩れているエネルギーによって全て相殺される。あらかじめ張ったフィールドではなく、ただのエネルギーによって、だ。
 そして。

「アセンション」

 TELOSの一言と共に、彼を中心として光がこぼれた。
 放たれた光は凶暴なエネルギーとしてGEL-GELたちを襲う。防御姿勢を取ったGEL-GELだが、たった数秒でフレームのあちこちが壊れるのを感じた。
 ……攻撃が終わった時、フレームは半壊していた。
「嘘……!」
 フレームはかなりの硬度を誇っているはずだった。理論上、メタモアークの弾を喰らっても破壊されないと言われていたが、TELOSの全力の一撃で破壊されてしまった。
 超スピードに高火力。そしてTELOS自身の戦闘センス。
 最初にして最強の戦闘機人。
 改めて、勝てるのだろうかと言う不安がGEL-GELの湧き上がる。彼を倒さねばメテオスは止まらないと言うのに、その彼を倒す術が思いつかない。
 自分たちは、TELOSの後継者となるべく作り出されたはずだった。それなのに、その彼を超えられないのではどうしようもないのではないか。

 ……「彼を超える」?

 GEL-GELの思考が、そこでいったん止まる。
 何故、彼を超えなければならないのだろう。自分たちを作ったリリスの狙いがそれだとしても、従う理由は何だろうか?
 今更TELOSの後継者となったところで、何になる? こんな変わり果てた地球の守護者にでもなれと言うのか?
 自分が望む姿は、本当にそのようなものなのか?
(僕が望むのは……)
 答えが見つかった瞬間、TELOSを「どうにかする」方法が頭に浮かんだ。
「ヤルダバオトさん」
 呼びかける。
 ヤルダバオトがこっちの方を向く。フルフェイスメットのせいで表情は見えないが、彼も打開策を考えている途中だったのだろう。
「すいませんが、時間を稼いでくれませんか?」
「……何?」
 眉根を寄せられたが、長々と説明している余裕はない。GEL-GELは、「奴をどうにかします」とだけ答えた。
「要は、奴が『ここからいなくなれば』いいんでしょう?」
「それはそうだが……!」
 ここまで言って、ようやくヤルダバオトもGEL-GELの狙いを理解したらしい。怪訝そうな顔をしつつも、ライフルを構え直した。
 放たれる銃弾。こちらの会話を知らないTELOSは、少々いぶかしげな顔をするもののあっさり回避する。無論、それは狙い通りだ。
 ライフルを撃った後、ヤルダバオトが特攻した。左腕に装備されていたミニミサイルをばら撒き、弾幕とする。それを見てから、GEL-GELはエクリクスバスターを撃った。
 ダメージを受けていたので威力は落ちていたが、けん制には充分。おかげで、ヤルダバオトはさほど苦労せずにTELOSの元に飛び込めた。
「ふん!」
 振りかぶられるレーザーブレード。速攻で黒い十字架に阻まれ、そのままつばぜり合いとなった。
 オリハルコンとは違い実体モノではないため、折れる事はまずない。ただ、出力が安定しすぎるため、やや押され気味だ。無論、ヤルダバオトもそれを理解している。
 一瞬でレーザーブレードを引き、一歩下がる。距離を詰めようとTELOSも一歩前に出るが、その一歩を足で掬った。
「!?」
 引っかけられたことで体勢を崩すTELOS。わずかに生まれた隙を狙い、GEL-GELがエクリクスバスターで狙い撃つ。
「ぐっ!」
 クリーンヒット。TELOSの視線がGEL-GELに移るが、それはヤルダバオトにも隙を見せたことになった。
 ヤルダバオトは即座にリミッターを解除し、壊れる勢いでレーザーブレードを振りかぶる。その狙いはTELOS本人ではなく、彼がいまだに離さない黒い十字架だった。