スマート爆弾とは、まだコメットの脅威が広がっていないころに開発された対メテオ用の兵器である。
メテオが物質である以上、原子レベルからの消滅には耐えられない。そこを極限まで突き詰めた結果、超高速で原子をばらばらにしてしまう爆弾が完成した。
テストは二回行われた。一回目はデータ通りの威力を発揮するか、二回目はどれだけのメテオに効くか。
結果、テストは二回とも成功した。……ただし、二回目は使用した惑星の半分を消し飛ばした。
幸い使用した惑星は無人惑星だったので、人的被害はなかった。しかし、このテストの結果を受けた連合軍は、この兵器の使用をほとんど禁止にした。
以降、スマート爆弾は数えるほどしか使われていない。メテオと同じぐらいの脅威であるコメットが大量発生し始めた時代でも、通常兵器での迎撃が主だった。
それもそのはず。上層部の半数以上の許可を受けて、なおかつメテオによる星の圧殺が免れないと判断した場合のみ使用可能となったのだから、仕方がない。
さて。
そのスマート爆弾は、現在連合軍の大型艦「メタリカ」が発射準備に入っていた。既にGEOLYTEやリモチューブ、ルミオスがメタリカの護衛に回っている。
GEL-GELたちもいったんメタモアークまで下がり、スマート爆弾に巻き込まれないようにしないといけない。ラスタルはそう判断し、メタモアークに問うた。
「ネス艦長代理、いったんGEL-GELたちを下がらせるけど、大丈夫だよね?」
『一分ぐらいなら持ちます。……持たせます』
ネスがそう断言するなら、こっちも必要以上に心配することはない。ラスタルはすぐに前を行くメンバーに声をかけた。
同時刻。
メタモアーク内に侵入したヒトガタは、カタパルトにてクルーたちと戦闘になっていた。とは言え、戦闘可能なメンバーはブビット、ジャゴンボ、姫ぐらいしかいなかったが。
ぴぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
機械音に似たその叫び声に、一瞬二人はたじろぐもののすぐに攻撃を再開する。ブビットは光メテオで作った拳銃、ジャゴンボは鋼鉄メテオで作った槍だ。
「このこのこのー!」
必死になって銃を撃つブビットだが、へっぴり腰のせいでどうもロクに攻撃が当たらない。サポートのアネッセやベルティヒが撃つ弾の方が、命中率が高いくらいだ。
それでもヒトガタにとってはいい足止めになっているらしく、ケンタウロスのような四本足をさまよわせていた。
「GEL-GELたちの邪魔はさせぬのだ!」
姫が生身で飛び込み、ヒトガタを大きく張り飛ばす。見た目こそ人間だが、やはり宇宙の獣人ギガントガッシュと言ったところか。
ともあれ、重い一撃をくらわせたことでヒトガタは大きく揺らいだ。ジャゴンボがその隙を突いて、その体に槍を深々と突き刺した。
ぴぃぃぃぃぃいぃぃいいいいいい!!
ヒトガタが鳴く。ややグランネストに似たその顔が大きくゆがみ、槍を引き抜こうとするが。
ぃぃぃいいいいいぁぁぁあああああ!!
引き抜こうとしたその手から、徐々に槍と融合していく。これにはジャゴンボも驚いて、思わず槍から手を放して離れてしまった。
「ど、どうなってるんだ!?」
「……こりゃ、メテオの連結とよく似とるのぅ」
非戦闘員ゆえ物陰でやり過ごしていたヴォルドンが、ヒトガタの変化ぶりに驚いて顔を出す。その一言で、他のメンバーも思わずヒトガタの周りに集まってしまった。
試しとロウシェンが鋼鉄メテオの核を近づけてみようとすると、ヒトガタ含めた鋼鉄メテオが連結しようと反応しだす。間違いなく、メテオと同じ反応だった。
「驚いたな。人間そっくりの見た目にしただけでなく、わずかながら知性を持たせたメテオを送り込んできたってのか」
「……と言うより、ヒトの形にしたメテオに地球星人の魂の残骸を憑かせたのが正しいと思うわ」
ソーテルの驚きをレザリーが修正する。カナからの話を組み合わせれば、ヒトガタの正体はメテオに憑いた地球星人の成れの果てという事か。
……一連の話を黙ってい聞いていたレグは、何か思いついた顔になった。
「おいフォルテ。お前、この艦にあるメテオの総数解るか?」
「へ? ま、まあ、おおよその数は把握してますけど」
突然話を振られたフォルテは、びくんとジャンプしてからレグの問いに答える。本来戦闘チームにとって保有メテオの数はそれほど重要ではないが、ついなんとなく記録していたのだ。
その『おおよその数』を聞いたレグは、にっと不敵な笑みを浮かべた。
「こりゃもしかして、いい物作れるかも知れねぇぜ?」
メタモアーク内部で一つの動きがあった頃、スマート爆弾発射のカウントが20を切った。
さすがに外での防衛が難しくなったため、連合軍はいったん全員を撤退させる。ラスタルたちも例外ではなかった。
一番の不安要素だったGEL-GELも、何とか帰艦できるぐらいの距離まで戻っていた。一時期ヒトガタに囲まれたものの、アナサジ達の援護で何とか突破できている。
……しかし。
「ごめん、ちょっと負傷した」
ウェポンバッグを引きずるアナサジが、痛そうにわき腹をさする。そこは先ほど、ラスタルに似た黄色のヒトガタのレーザーが焼いた場所だった。
負傷したアナサジに群がろうとしたヒトガタはストレートレーザーを食らって蒸発したものの、彼女のダメージは無視できないほどになっていた。
メテオス直接破壊班として、このダメージは痛い。普段ならラキが応急処置を施すが、彼は爆弾処理班として行動するため今小型の突撃艇にいるのだ。この状態で修理はできない。
「とりあえず、いったん戻るぜ。スマート爆弾の事もあるしな」
負傷した場所を見ていたビュウブームが、彼女の背中を叩く。その勢いを受け、全員がメタモアークへと帰艦した。
殿を務めていたヤルダバオトが艦内に入ってハッチが閉められた瞬間、スターリアのアナウンスが届いた。
『スマート爆弾が、今より発射されます』
「!」
この一言には、メタモアークだけでなく連合軍も大きく反応する。かつて星の半分を吹き飛ばした禁断の兵器は、メテオスを討つ鍵となるのか。
「スターリア、モニターに出せ!」
『了解』
ビュウブームの一言に、スターリアは即座に反応した。その場にいる者全員が見れるよう、大きなウィンドウが開かれる。
ちょうど「メタリカ」からスマート爆弾が発射されたらしく、映像はその瞬間から映し始めた。
大型戦艦から発射される、青い爆弾。サイズこそ普通のそれだが、今まで見たどのような爆弾にも似ていない、異質なものだった。
スマート爆弾はちょうどメテオやヒトガタが群がる場所に飛び込み……爆発する。
――音もなく、あたり一面は強烈な光で満たされた。
零距離でフラッシュグレネードを爆破されたようなまぶしさに、全員が目を固く閉じる。特にアンドロイドはメインカメラをやられないよう、速攻でオフにした。
光は目を閉じていてもまぶしいくらいだったが、徐々に収まっていく。こすったりしながら目を開けて……誰もが絶句した。
そこには、何もなかった。
あれだけたくさんあったはずのメテオやヒトガタが、カケラすら残さず消えていた。もっと言えば、戦いの間で飛び散った武具の破片すらない。
全てが原子分解され、無へと返ったのだ。そこに在る事が出来たのは、直前にシールドを張って耐え抜いた艦と……。
「メテオスが!」
自らを盾にした右のメテオスに守られた、左と真ん中のメテオスのみ。左のメテオスも3分の1以上えぐられながらも、まだ動きを止めていなかった。
最後の切り札とも言えるスマート爆弾は、メテオス1つを半壊させたのみだった。誰もが茫然のあまり声を失ってしまったが、その中で一人動いた者がいた。
「……ヘルモーズ!」
右のメテオス(ネス達は「黄色」と呼称していた)の動きが鈍い事に気付いたヘルモーズが、真っ先にハッチへと急ぐ。
「何やってんだよ! 穴が開いたんだ、今なら飛び込める!」
「……そうね、って貴方「赤」担当の1班じゃない!」
次に反応できたイシュタルが大きく突っ込むが、ヘルモーズは「そんなの関係ねぇ!」と即座に返した。
「よく解んねぇけど、あそこに行かなきゃなんねーんだ! そんな気がする!」
「ちっ、仕方ないな!」
ビュウブームがまだ驚いたままのヨグ=ソトースをひっつかんで、ヘルモーズの後を追う。
「お前らも急げ! あの穴がいつ閉じるか解らないんだ、早い者勝ちで行くぜ!」
「わ、解ったわ!」
同じ1班爆弾設置班のアリアンロッドも慌てて追いかけ始めた。GEOLYTEも後を追おうとするが、OREANAが「同班にも連絡を入れるべきです」と忠告し、慌てて連絡を取った。
GEOLYTEの連絡は、ブリッジにも通された。
「ビュウブーム様達の担当はあそこじゃないはずなのに……」
「おそらく……、内部の地球星人に何かあるんだろう」
グランネストの戸惑いに対し、クレスがぼそりと己の推論を話す。パンドラの件もある。内部の地球星人が、この世界に進出していてもおかしくはなかった。
頭を振り直すグランネスト。今は命令違反を追及するより、メテオスの破壊が先決だ。それに担当する班が変わっただけで、作戦内容にほとんど問題はない。
ならば自分たちは、本来の仕事をするまでだ。
「ジャミングスモーク展開! メテオス内部突入班の援護を始めます!」