METEOS・63

 ヒトガタはアンドロイドだけでなく、戦艦にも取りつくようになっていた。
 殴る、蹴る、もぐと攻撃方法こそ単純だが、威力が桁違いゆえにダメージは少なくない。既に半壊に近い艦もあるくらいだった。
 そんな中、GEL-GELたちが新兵装を用いて彼らを殲滅していく。
「頭はそれほどないって感じだな」
 超高出力の大型ビームブレード「ムラサメ」の一閃で、白のヒトガタを一刀両断するビュウブーム。あまりの高出力故、近づこうとした黄色のヒトガタも弾き飛ばされる。
 それでも背後を取ろうと青のヒトガタが動くが、その手がビュウブームを捉える事はなかった。
「個体と言うより、群体に近いと思われます」
 相変わらず機械的なしゃべり方のOREANAが、ロングランチャー「ヴァルキリーランス」で狙撃したからだ。
 複雑な構造をしているこの武器は、特殊入力をすることで狙撃型のライフル、連射型の二丁拳銃に切り替えられ、また弾も実弾やエネルギー弾を選択できる。
 OREANAの意見に、ビュウブームはなるほど、と頷く。その2人の上を、動く要塞と化したデストロイフレームのアナサジが飛んで行った。
 軽装のOREANAと違い、アナサジは携帯武器“倉庫”「ウェポンバッグ」と直接合体していた。それゆえ、見た目の変化は彼女が一番凄い。
 METEOSモードを持たない彼女は、様々な武器を全て積み込むと言う原始的なパワーアップを果たした。メテオ相手なら、彼女一人で撃破できるほどの装備だ。
 現にメテオ相手に立ち回りしている連合軍のGEOLYTEやリモチューブに、自らの武器を一時貸し与えており、そのおかげでいくらか戦線が立て直されている。
 メタモアークのGEOLYTEはと言うと、素っ頓狂な叫び声を上げつつもバックパックが変形したサポートギア「クルセイダー」に乗りつつ、敵を攻撃していた。
 小回りの利きやすさを重点に作られたそれは、GEOLYTEの足でもあり武器でもある。問題は、彼がまだ使いこなせていない点か。
 そんなGEOLYTEに、ヒトガタが群がろうとする。しかし。
『GEOLYTE、後ろから敵! 急いで機体反転して!』
 後ろからのラスタルの声で、何とかクルセイダーを操ってヒトガタを撃つ。奇襲攻撃が失敗したヒトガタは、後ろからのレーザーで焼き尽くされた。
 レーザーは、あらゆる方向へと飛んでいく。あるレーザーはイシュタルを狙っていた敵を、あるレーザーはアナサジを狙っていた敵を正確に貫いた。
 ラスタルの周りを囲む球型のフィールド、「スフィア」の成した技だ。戦艦張りのサーチ能力で敵を発見し、正確にレーザーを撃ったのである。
「スフィア」を形成するビットは、レーザーも撃つことができる。だからラスタルは、後ろにいながらも全員のサポートを的確にこなせるようになったのだ。
 無論、ソーテルから渡された無銘の刀も敵を斬る事に役立っている。例え敵がレーザーの網を潜り抜けられても、刀の一閃までは避けきることは出来ない。
 そんなラスタルはメテオスの動きを感知して、一番遠くへ行っているGEL-GELへ指示を送る。
「GEL-GELさん、ヒトガタがまた来ます! 相手を!」
「了解!」
 新たに装備された武器を手に、GEL-GELがメテオスからの敵と対峙した。
 GEL-GELのジェネシスフレームは、ヤルダバオトから提供されたジェネシスシリーズのテクノロジーがふんだんに使われている。ゆえに、武器も一風変わっていた。
 第五元素「エーテル」をそのまま利用した(理論上だが)「エーテル・ライフル」。特殊フィールドを発生して、敵を不利な状況に追い込ませる「グランドクロス」。
 愛用のスライドブレードも「オリハルコン」と名前を変え、さらに切れ味が増している。その他にも色々な武器が増えているが、GEL-GELは聞くだけに留めていた。
 強力な力は、それだけ強力な闇も引き寄せる。かつて暴走させられて、自分の「兄弟」を破壊してしまったGEL-GELだからこそ、その恐怖をよく知っていた。
 使わなければ御の字だし、もし使うとしても自分がその時を決める。幸い、今はまだ「その時」は来ていなかった。
「GEL-GEL。ヒトガタは、メテオスに直接接続しているタイプが司令塔のようですね」
 通信にヒュペリオンが割り込んできた。彼らもまた同じチーム故、通信機を渡されていた。
 七賢同士ならテレパシーを使えるのだが、GEL-GELたちはそんな能力を持っていない。受け取った時、不便ねとアリアンロッドがぼやいていた。
 それはさておき。
 ヒュペリオンの言葉に全員がメテオスの方に目を向けると、なるほど、それらしきヒトガタを確認することができた。左にピンク、右に緑、真ん中に灰色だ。

 あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 ピンクのヒトガタが吠える。……いや、鳴くと言った方がよいだろうか。
 ともかく。その声によってメテオが怪しく輝き、燃えカスがあっという間に還元していく。打ち上がっていたはずのメテオは、還元されたメテオの重みでゆっくりと落ち始めた。
 それを見たラスタルは、すぐにGEL-GELに指示を飛ばした。
「GEL-GELさん! 『イレイザーキャノン』の発射を!」
「……解りました!」
 さすがに事の重大さを悟り、GEL-GELは精神を集中させる。
 一度眼は閉じられ、また開かれた時、その色は桃色。METEOSモードが発動したのだ。
 腹に収められたレアメタルが輝きを増し、同時にセットされていた細いキャノン砲がそのエネルギーをチャージする。レアメタルのエネルギーを直接に、だ。
 本来ならイレイザー発動時のみに行われるチャージだが、バイパスを通すことで直接攻撃のエネルギーに切り替える。ヤルダバオトが提供したからできる技術だ。
 ただ、実際に発射したらどうなるかはまだ判明していないし、何より砲身が持つかも解らない。それゆえ、GEL-GELにとって使いたくない武器の一つであった。
 しかし、この状況で選り好みは出来ない。戻ってくるメテオは、メテオスに穴をあけるために打ち上げられたものだからだ。多少その数を減らしても、確実にメテオスに当てたい。
「チャージ完了、発射します!」
 照準があった瞬間に、すぐにキャノンを放つ。白い輝きを持つレーザービームが、メテオに直撃した。

 ぶぅん!

 直撃した瞬間、レーザービームの色と同じメテオ――空気メテオが一瞬で消え去る。同時に、直撃した部分のメテオが爆発して点火された。
 打ち上がり直すメテオに、皆がほっと息をつく。GEL-GELも例外ではなかった。
「砲身は……」
 思い出して慌てて見るが、放熱している程度でエネルギーに完全に耐えきったようだ。ラキたちの設計に、間違いはなかったらしい。
 改めて胸をなでおろすGEL-GELだが、敵は余裕を与えさせない。今度は緑のヒトガタが鳴き始めた。
 今度動くのは、ヒトガタ達。メテオスを守るように取り囲んでいたヒトガタが、揃ってこっちの方に向かってきた。
「ちっ! わらわらと!」
「かずおおいー」
 ヘルモーズとヨグ=ソトースが片っ端から撃破していくが、さすがの七賢も数の暴力にはいささか弱いらしい。アリアンロッドたちも協力するが、いくらか防衛線を突破された。
 そのうちの一つ……灰色のヒトガタが、メタモアークに取りついた。
「しまった!」

『ワーニング! 新型メテオがメタモアーク内に入り込みました!』
「行ってくるっス!」
 スターリアの警告に、弾かれたようにブビットがブリッジを飛び出す。メテオは有害成分を出すモノもいるので、ブビットが大気調節しないと大惨事になる可能性もあるのだ。
 グランネストは飛び出すブビットの背中を見送ってから、モニターの方に視線を戻す。
 先ほど大きな塊をぶつけたものの、まだ外壁に穴をあけるほどのダメージには至っていない。あともう一撃同じぐらいのを……否、倍以上の塊をぶつけなければならない。
 しかし、ヒトガタの数も多くなっている今、あれ以上の塊を作るだけでもかなりの時間がかかる。その間、艦を沈められれば……。
 悩むグランネストに、一つの緊急通信が入る。ロゥに頼んで開いてもらうと、出たのは連合軍の艦長らしいアロッド星人の女性だった。
『グランネスト君』
「は、はい!」
『上から指令が出たわよ。大型艦の一つ、『メタリカ』がスマート爆弾を発射するってね。だから貴方たちの所も上手く避難なさいな』
「! スマート爆弾ですか!」
 珍しい事に、アロッド星人の言葉に最初に反応したのはフォブだった。

「スマート爆弾だぁ!?」
 サーレイ経由で送られてきた指令に、ビュウブームが素っ頓狂な声を上げる。同じく慌てた顔になるのは七賢だけで、他のメンバーはきょとんとするだけだった。
「……何、それ?」
「超高威力の爆弾です。今は使用を控えられている、対メテオ用の兵器の一つです」
 アナサジの疑問にはOREANAが答えた。とは言っても、データベースにある内容をそのまま読み上げているだけだが。
 そんなOREANAの説明を、ヤルダバオトが補強した。
「過去に2回ほど使われている。一つは実験。もう一つは実践だ。二回目は、星の半分を吹き飛ばしている」
「ほ、星の半分!?」
 ヤルダバオトの補強にGEOLYTEの顔が真っ青になる。星の半分を消し飛ばした爆弾がここで爆発すれば、その末路は想像に難くない。
「ど、どうすればいいのだ!?」
『あ、えーと、今回使うのはその二回目の実践で使った奴の小型系らしいね。でも実践データもロクに取れてないので、全員艦に戻るようにだって』
 慌てるGEOLYTEを諭すように、ラスタルが指示する。……しかし、内容はどう考えても安心できる代物ではなかった。
 艦にこもれば、本当に大丈夫なのか。そもそも、それでメテオスを倒せるのか。
 しかし現状、その爆弾以外活路を開けそうなものはない。GEL-GELたちが全力を出し尽くせばヒトガタもメテオも駆逐できるかもしれないが、それでは駄目なのだ。
 不安なGEL-GELたちを他所に、「メタリカ」からのカウントダウンが始まる。その間に出来る限りのヒトガタとメテオを倒し、メタモアークに戻らねばならない。

『スマート爆弾発射まで、一分』

 一分。中々短い時間だ。
 しかもその間にも、ヒトガタやメテオはこっちめがけて飛び込んでくる。上手く先導できても、時間に間に合うか。
「撤退時を見誤れないね……」
 メタモアーク甲板で、ラスタルは全員の動きを改めて追い始めた。