METEOS・62

 宇宙基準時間午前4時11分。この時、三つに分かれた惑星メテオスが、ジオライト星エリアまで到達すると予想される。
 連合軍はここに最終防衛ラインを敷き、水際防衛と同時にメテオス破壊作戦を行う事になる。

「悲願の時は来た」
 真ん中……後ろにあるメテオスから、TELOSの声が。
「私たちの思いを」
 左……太陽のごとく輝くメテオスから、リリスの声が。
「我らの憎しみを」
 右……今もなおメテオを生むメテオスから、アベルの声が。
 そして。

 きしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
 うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!

 ジオライト星の祖となった愚かな者たちによって、命を奪われた地球星人の声が木霊する。

 最終防衛ラインよりやや後ろにいたメタモアークも、メテオスを確認した。
「メテオス、最終防衛ラインに到来! 数は三つ!」
「メテオスから多数のメテオを確認!」
「連合軍、1番から4番までの部隊展開しました!」
 サーレイ、ロゥ、レイの3人が次々に現在の状況を知らせる。スターリアも『連合軍は戦闘を開始した模様です』と、自身が手に入れた情報を提供する。
「始まりましたな」
 フォブがいつもと全く変わらぬ顔で、最終決戦を見やる。連合軍の主戦力である戦闘アンドロイドたちは、既に戦場に飛び込んだようだ。
 ただ、お馴染みとなっているGEOLYTEの水色以外に、別の色も交じっている。灰色と、ピンク。
「あれ、何だろ?」
 ついレイがその色を追いかけて、ピックアップする。
 色の発生源は、二体の女型戦闘アンドロイドだった。灰色のは、ぴんと伸びた触覚が目立つ近距離型。ピンクのは頭にふわりとかかるリングが特徴的な遠距離型だ。
「新型だ。ラキが提供したデータを基に、ジオライトが新たに開発したらしい」
 特設された椅子に座ったまま、クレスが二体のアンドロイドについてざっと説明する。まだ本調子ではないので、ニコが隣で彼を支えていた。
「ラキ少尉が?」
『はい。ラキ=リフォバー少尉が提出した、フレーム換装とMETEOSモードによる一種のオーバーブーストを採用したのが、あの二機です』
 レイがモニターから目を離さないままクレスに問うが、それに答えたのはスターリアだった。
 さらに詳しく説明すると、フレーム換装論を採用したのが「リモチューブ」、オーバーブースト論を採用したのが「ルミオス」である。そろって女型なのは……説明がなかった。
 二体ともまだ量産を前提にしていないので、数は少ない。それでも前線に投入したのは、このメテオス戦に全てがかかっているという事だろう。
 スターリアのそんな説明が終わると、今までずっと沈黙し続けていたグランネストが艦内放送付きで叫んだ。
「メタモアーク、突撃します!」

「ついに来たな!」
 最終決戦用に調整された新フレーム「サムライフレーム」の様子を見ていたビュウブームが、グランネストの放送で立ち上がった。
 それに合わせて、新フレームを装備したOREANA、ラスタル、GEL-GEL、アナサジ、GEOLYTEも立ち上がる。
「じゅんびおーけー」
 七賢の方も、全員準備万端という状態だった。ちなみに、彼らはいつもと全く変わらない。
「ラキさんたちも、大丈夫ですか?」
 エデンが声をかけると、超高温処理済みの装甲服に身を包んだラキとフィアがぐっとサムズアップした。地球星人となった二人は、内部突入班に志願していたのた。
 自分の大きな傷であるメテオスやフォールダウンを乗り越えるには、自らの手でメテオスを破壊しなければならない。それが二人の総意だった。
 ネスやクレスもそれが解っていたから、二人の志願に対して反対しなかった。むしろ、志願してくるのを待っていたようだった。
 この中で直接破壊班はビュウブーム・ヘルモーズ・ヨグ=ソトースが1班、OREANA・アナサジ・イシュタルが2班、GEL-GEL・ヤルダバオトが3班である。
 爆弾設置班はGEOLYTEとアリアンロッドが1班、ヒュペリオン・フィアが2班、エデン・ラキが3班だ。子の班は、その他にもリモチューブやルミオスなどが同行する。
 ラスタルのみ外部からの支援班で、彼はメタモアークと同伴することで内部情報を内部突入班に随時送ったり、支援班に指示を送る事になっている。
「そろそろ戦場に着くから、みんなスタンバイして」
 ついいつもの癖で、ラスタルがこの場にいる全員に指示する。全員それが解っているので、誰も突っ込むことはなかったが。
 全員がうなずいた時、タイミングよくスターリアが『ワープ完了』と告げた。

 最終防衛ライン。
 すでに戦いは激戦となっていて、メテオや武器などの残骸があちこちに散らばり始めていた。今の所、戦線にそれほどの問題はなさそうだ。
 いかにメテオスと言えど、メテオを直接ぶつけられればそれなりのダメージにはなるらしい。メタモアークが戦場に着いた頃は、細かい亀裂は肉眼でも確認できた。
 ただ、まだ内部に突入できるほどの大きな穴はまだできていないらしい。大きな塊はいくつかぶつけているようだが、いまいちなようである。
 何か大きな一撃が必要か。誰もがそう思った時、メテオスに変化が起きた。

 きしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

「!?」
 怪物のような叫び声が聞こえたかと思うと、オレンジ色の何かがメテオを打ち上げていたGEOLYTEに取りついた。
 そのままMMマシンガンを持つ右腕を鷲掴みにしたと思うと、

 べき

「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!!」
 強引にもぎ取る。むき出しになった関節の部分から、電流を流しこんでGEOLYTEを機能停止にした。
 その電流の凄まじさは……まるでメテオ。
「しゅる……」
 GEOLYTEを機能停止にさせたヒトガタは、たじろぐ連合軍を一睨みして、そっちめがけて飛びこんだ。その後を、様々な色のヒトガタが追う。
 新たに現れたヒトガタによって、連合軍が大きく崩れ始めていく。メテオよりもはるかに小さいサイズなので、攻撃を当てるのにも一苦労なのだ。
 すぐに戦艦によるサーチが始まるが、有効な手段をはじき出すには時間がかかるだろう。その間、部隊が持つかどうかは賭けだ。
「あれは!?」
 連合軍のGEOLYTEを機能停止にしたヒトガタは、メタモアークでも確認できた。3人が慌ててサーチを施し、彼らの情報を引き出す。
「メテオスからオレンジ色と同じ生命体を多数確認! 色は……赤、水色、茶色、緑、オレンジ、白、灰色、ピンク、青、黄色の10色!」
「……メテオの色と同じだな」
 ロゥが挙げた色に、クレスがうなる。メテオスは今まで何回か確認されたメテオを撃ち続けていたが、ここにきて新型を出したという事だろうか。
 しかし……。
「映像、出します」
 サーレイが出した映像にあるヒトガタは、何かに似ているような気がする。水色のボディに特徴のある角、全体的に刺々しいデザインになっているが、その姿は。
「……GEOLYTE!?」

 おおおおおおおおおおおおおおおおん!!

 GEOLYTEによく似たヒトガタは、メタモアークに向かって吠えた。
 まるで宣戦布告のような声に反応するかのように、ハッチが開かれる。グランネストやクレスの許可もなしにだ。
「ビュウブームさん!?」
『奴らの数を減らしてくる!』
 リーダーの一言に合わせ、飛び出す戦闘チームと七賢達。メテオス突入まで待機のはずだったが、いきなり現れたヒトガタを放っておくわけにはいかなかったのだろう。
 ……半ば、予想していた事ではあるのだが。
「主砲はいつでも撃てるようにしてください! それから、ロゥ様とレイ様はメテオスのスキャンを開始! ブビットはサーレイ様を手伝って!」
 グランネストが指示を飛ばす。
 その眼は、既にMETEOSモードの証である紅色だった。

 メテオスが鳴き、またメテオを放出する。
 吐き出されるメテオは、ヒトガタも含めて無数。それらを連合軍やメタモアークは撃ち返し、または撃破していく。
 メテオス破壊作戦は、始まったばかりだ。