上層部から正式にメテオス破壊の命令を受け取った後、フィアたちはGEL-GELたちの反応があった中枢部へと向かった。
中枢は特別な人間でない限り中に入れないのだが、この状況で許可も何もない。そもそも、ドアは最初から切れていた。
GEL-GELの仕業にしては変だな、とフィアは思った。温和な彼が、考えなしにこのような強攻策に出るとはとても思えない。何の理由があるのだろうか。
残骸と化したドアを乗り越えた時、フィアは何となく答えを理解した。
「で、そのパンドラがメテオスを呼んだって事?」
「はい。彼自身がそう言いましたから」
フィアの問いに、グランネストから応急処置を受けるエデンがうなずく。
「おそらく彼の死が、合図であり、現出のきっかけになったと思うんです。今まで発見できなかったのに、彼が死んですぐ見つかったらしいですから」
GEL-GELがエデンの答えを補強する。こっちはラキが来るまで修理はお預けだ。
フィアは見えない空を仰いだ。
計算によると、メテオスがジオライト星に到着するのはおおよそ2週間後。今は付近の惑星をメテオで潰しつつ、前進しているとの事だ。
(時は満ちた、って事かしら)
苦い過去を思い出し、嘆息する。
あれによりファイアム星人ではなく地球人となった自分。メテオスともう一度出会うことで、どんな事が起こるのか。その時、自分は自分でいられるのか。
メテオスが、怖い。
「……フィアさん?」
よほど酷い顔をしていたのか、GEL-GELがおっかなびっくりな感じで声をかけてきた。その声に、フィアは気を取り直す。
「とりあえず、メタモアークに戻りましょ。やる事はたくさんあるわ」
「そうですな」
フィアの言葉に賛同したのは、いつしか後ろに立っていたフォブだった。そのフォブはこれまたいつしか手に入れたのか、メタモライトを持っていた。
「カナ少年も無事保護しました。いつまでもここにいるのは危険です」
――ここでフォブはくすりと笑った。
「皆さんに言わねばならない事も、ありますからね」
そしてメタモアーク。
GEL-GELは修復の為にすぐさまビュウブームたちがいるメンテ室送りとなり、検査の結果もそこそこにクレスとディアキグが戻ってきた。
全員が戻ってきた事を確認してから、またクレスがクルー全員を集めた。今度はブリッジである。
「皆、揃ったな」
怪我であまり動けないディアキグや、まだ修復中のGEL-GEL、カナの魂が宿っているメタモライト。それらも確認してから、クレスが口を開いた。
ちなみに今のクレス、艦長席に手を着いて何とか立っているものの、その顔色は良くない。また帽子を外していて、少しやつれているのがはっきり解る。
「事情はフォブから聞いてると思うが、我々は最高司令から直々に『メテオス破壊』の命令を受けた。無論、これを拒否する理由はない。
これから我々はメテオス破壊に向け、行動を開始する」
どよめきが起こる。今までの流れで予想はついていたものの、こうはっきりと宣言されるのはまた別なのだろう。
周りが一旦落ち着いてから、クレスは言葉を続けた。
「それに基づき、しばらくの間、艦長の座を譲りたいと思う。本来ならば私が指揮を執るべきなのだが、このザマではな」
クレスはそう言いつつ、撃たれた場所をそっと撫でた。重傷と言うわけではないが、ハードな仕事が出来る状態ではないのだ。
ごそごそと後ろから艦長帽子を出すクレス。被っていないのは、これを艦長の座と見立てているからだろう。
「既に艦長代理を頼む相手は決めてある。ほぼ独断ではあるが許して欲しい」
クレスの視線が、とある少年で止まった。
「……グランネスト。君が艦長代理を務めて欲しい」
「え、ええっ!?」
指名されたグランネストが漫画のようにぴょんと飛んで驚く。グランネストだけでない、フォブとディアキグ、カナ以外全員がどよめいた。
「ディアキグ博士により、君の能力……高速演算や戦略構築を初めとした指揮能力は知っている。
それと、GEL-GEL達と同じくMETEOSモードを起動できたという事も聞いた。これからの激戦を考えると、君が適任だと私は思う」
「で、でも」
「経験のなさは、我々で出来る限りカバーする。今必要なのは、激戦を潜り抜けられるほどの指揮能力と奴らに対応できる『能力』だ。
頼む」
まさか頭を下げられるとは思っていなかったようで、グランネストのパニックは頂点に達したらしい。見てて可哀想になるくらいに動揺していた。
しかし、クレスはこの決定を変えるつもりはなかった。もし自分に何かがあった場合、自分の代わりを頼めるのは彼ぐらいだと思っていた。
副長のフォブは最初からやる気はないと言っていたし、フィアは艦長というポジションは望まないだろう。他のクルーは言うまでもない。
しばしの沈黙。全員の視線がクレスとグランネストに集中した時、今まで無口だったディアキグがぼそりと言った。
「……ネス、やってみろ」
「父様」
「お前には、才能がある」
「……」
父親の言葉は効いたようだ。グランネストはおずおずと前に出て、クレスから艦長帽子を受け取った。
艦長代理も無事に決まり、話の流れは今後の予定になった。
「ラキ・リフォバー少尉、サボン・リリーアン伍長、レグ・ガナッシュ伍長」
クレスが名前を呼ぶと、代表してラキが一歩前に出た。
「武器の具合はどうだ? どこまで行ってる?」
「案は決まりました。これからフレーム作成です」
少し遅いかもしれない。そう思った時、スターリアがいきなりウィンドウを開いてきた。
「? スターリア?」
『こちらとの対話を希望する通信を拾いました。応じますか?』
「……相手は?」
『七賢です』
スターリアの淡々とした返答に、全員が――今度は本当に全員である――が驚きの声を上げた。
「久しぶりですね、エデン」
「……ま、まあね」
ブリッジで再会したヒュペリオンに、エデンはぎこちない笑みを浮かべた。その笑みに、クレスはふと弟の面影を見てしまう。
首を振ってそれを振り払うと、クレスはヒュペリオンに顔を向けた。
「今回は、どのような用件で来たのでしょうか?」
なるべく平静に努めたため、ヒュペリオンは眉一つ動かさない。お互い、過去の事はひとまず置いておく。そんな暗黙の了解が立った瞬間だった。
ヒュペリオンは眼鏡をついっと上げて、言った。
「メテオス破壊のお手伝いに、ですよ」
「あんたのデータ、受け取ったぜ。これならGEL-GELとあんたにあわせた武器が出来るだろ」
「そうか。だが私に武器は不要だ」
ヤルダバオトがつっけんどんに言うので、ラキもそれ以上言うのはやめた。
七賢の一人であり、GEL-GELと同じジェネシスナンバーであるヤルダバオトは、自らのデータをラキに提出した。これでGEL-GEL達を再強化しろ、という意味だ。
ラキはすぐさまその意を受け取り、ヤルダバオトのデータから参考になりそうな物をいくつかピックアップした。その結果が先ほどの言葉だ。
それにしても、とラキは思う。
GEL-GELと言いヤルダバオトと言い、このシリーズを作ったリリスという科学者はとんでもない。ここまで戦闘能力が高く、人間に近しいものを作り上げたのだから。
二人の説明によれば、ジェネシスナンバーは「TELOS」と呼ばれる最強兵器の後継者となるために生まれたらしい。と言うことは、TELOSはそれ以上の存在だろう。
メテオスと戦う事になれば、そのTELOSと戦う事になるかも知れない。そうなったとしたら、二人は勝てるのか。
自分は、そいつに勝てる力を与える事ができるのか。
「……作らなきゃならねーんだ」
自分の頭に装備されたメックスゴーグルを、強く握り締める。両親が買ってくれた、両親の残したたった一つの遺品。
このゴーグルは、自分が何なのかをはっきりと教えてくれる。メックスで生まれ、メックスで生きた両親が与えてくれた、メックス星人の証。
自分は地球人ではない。メックス星人なのだ。
あの時に刻まれてしまった古の遺物は、自らの手で消し去らなければならない。それが過去と完全に決別するたった一つの方法だ。
ラキは改めてメックスゴーグルを装備しなおし、モニターに向き合う。
そのモニターには、既にいくつものフレーム案が並んでいた。
『ビュウブーム:サムライフレーム OREANA:ヴァルキリー・ランスフレーム アナサジ:デストロイフレーム
GEOLYTE:クルセイダーフレーム ラスタル:スフィア・セントラルフレーム GEL-GEL:ジェネシスフレーム』