OREANAの覚醒から四日。ロスト・パラダイスの探索も順調に進み、上手くいけばどこかのステーションに連絡がつきそうな見込みも立ってきた。
あれからメテオの襲撃もなく、レアメタルの発見もない、きわめて穏やかな日々が続いている。しばらくぶりの穏やかな日常を、クルーは満喫していた。
そんな中、ラキはサボンたちと共に、GEL-GELたちのフレーム開発に勤しんでいた。
ロスト・パラダイスを出れば、必ず七賢が襲撃を仕掛けてくる。もしかしたら、一度チームを敗退寸前まで追い詰めたあの存在も出るかもしれないのだ。
GEL-GELたち自身のパワーアップと共に、武器もより強くする必要がある。そう考えたラキたちは、日夜頭を絞って新武器を考えている。
「何というか、『これだ!』というアイディアが出ませんね~……」
遅めの朝食を取っていたサボンが、ため息と共につぶやく。
「攻撃力とキャパの釣り合いが取れねぇっつーのが一番の問題なんだよな。メタモアークの主砲レベルに強い武器、なんてラスタルのあれしか思い浮かばねぇや」
同じようにメックス丼をかき込んでいたラキが、ぼりぼりと頭をかいた。レグにも見てもらっているのだが、どうも今のフレームが限界ではないかと言われている。
まあ、今まで考えてきた案は全部知恵を絞って考えたものだ。並みの相手なら軽く蹴散らせるほどの戦力はあるのだろう。だが、それがこの先通用するのか。
宇宙最強ではないかと噂される七賢、あの超越者、そして災厄の星メテオス。どれも尋常ならざる相手だ。
METEOSモード――レアメタルのエネルギーを開放するのなら対応も取れるかもしれないが、全員がレアメタルを所持していない以上、頼ることはできない。
(一体どうすりゃ……)
ラキがまた新たな案を考えようとしたその瞬間。
――……………………い………………で………………………………
(え?)
顔を上げようと思ったが、それより先に視界が黒で埋め尽くされた。
「かかか艦長~!!」
ラキが倒れたのを見たサボンは、介抱をアネッセに任せて急ぎブリッジに飛び込む。
冷静に考えれば、今までの無茶がたたったとか色々原因は思いつくはずなのだが、ラキが倒れた事で混乱してしまったサボンがそれらの事を思いつけなかった。
クレスとフォブがこっちを向いたのを見て、サボンは口を開きかけるが。
「……言われなくても解っている」
クレスが渋面で、オペレーター席を指差す。その指し示す場所を見て……サボンは目を丸くした。
「どういうわけか、こっちもなの」
レイとロゥが倒れている中、サーレイが肩をすくめた。
「現在の所、原因不明の人事不省に陥っているのは15名。
フィア大尉、ラキ少尉、レイ伍長、ロゥ伍長、GEL-GEL、ビュウブーム、OREANA、ラスタル、GEOLYTE、アナサジ、フォルテ。
グランネストたち三人に……それからエデンですね」
「アンドロイドと合成人間は全員やられてますなぁ」
レザリーの報告を受けて、フォブが髭をなでながら言った。
「しかし、何があって、今こんなにたくさんの人間が倒れたのでしょうかね」
「……ある程度予想はつく」
姫と共に遅れてやってきたディアキグが、相変わらずの仏頂面で吐き捨てるように答えた。
ディアキグは何ともなさそうだが、姫は珍しく顔を青くして頭を抱えている。呆れとかではなく、どうやら頭痛をこらえているようだ。
許可なくコンソールを動かしたディアキグが何かを打ち込むと、今の状況の手がかりとなるところをはじき出した。
「電磁波か」
「正確には違うがな。電磁波に近い何かが脳に直接刺激を与えているから、アンドロイドや合成人間が揃って倒れたんだろう。姫の頭痛もそれが原因だ」
「フィア大尉やラキ少尉、エデンさんが倒れた理由は?」
「知らん」
そっけなく返された。
サボンは肩を落としそうになるが、すぐにしゃきっとして立ち直る。ここで落ち込んでいたら、ラキの代わりも何も出来ないのだ。
「回復させる手立ては?」
今度の質問はクレスだ。
艦長相手だからか、それとも考えるに値する問いだったからか、ディアキグは一旦考えてから答えを出した。
「……単純だが、電磁波を出しているのを叩けばいい。その電磁波がどこにあるかは解らんがな」
つまり発生源さえ突き止めれば、何とかなるということだ。とりあえずそれを探すのが先決となり、緊急会議は終わった。
倒れた全員は自室(GEL-GELたちはメンテルーム)に運ぶ事になり、ソーテルたちが一人ずつ運んでいった。後々目が覚めた時、少し混乱しそうだが。
聞こえたかい?
僕の声が聞こえたかい?
目を開くと、全く知らない場所だった。
緑あふれる廃墟で、野生の動物や昆虫がちらほらと見える。少なくともメックスでは見られない風景だ。
どうせ夢の中だろうと思って適当に身体を叩いてみると、叩いた場所はきっちりと痛みを発した。
「夢じゃ……ない?」
もう一度試しに頬をつねってみると、かなり痛い。と言う事は、夢ではなくどこかに飛ばされたということなのか。
色々気になることはあるが、とにかく動いてみないと始まらない。ラキは何となく近くに落ちていた木の枝を拾って、立てて倒れた方向へと歩き出した。
道なき道を適当に歩いていると、がさがさと茂みが鳴った。音の方向へ視線を向けると、おどおどしたグランネストたち三人とフォルテがいた。
「おーい!」
声をかけると、最初は敵か何かと思って逃げ出そうとしたが、また声をかけるとすぐにラキだと解ったらしく駆け寄ってきた。
「皆は?」
そう聞くと4人とも困った顔をする。どうやらこの様子だと、自分以外誰とも会っていないようだ。
それでも誰とも会わないよりかは希望が持てる、と、ラキたちは探索を再開した。また適当な方向を歩く程度だが、手がかりがない以上仕方がない。
無駄話も含めて色々話していると、だいぶ気が楽になってくる。とは言え、ここがどこだか解らないので油断はしないように心がけているつもりだが。
「……にしても、ここどこだ?」
ジャゴンボが話と足を止めて、辺りを見回す。結構歩いたつもりなのだが、この廃墟はまだまだ続いているようだ。
ブビットが一応確認した所、空気に害のある成分は含まれてはいないらしい。普通に呼吸が出来るし、汚れてもいないと言う。
元は機械都市だったのだが、崩壊してからこうして草木が芽吹いたのではないかと推論したのはグランネストだ。なるほど、確かにそう見えなくもない。
「でも、何だか懐かしいっていうか……凄く落ち着くんですよね。ここなら大丈夫だ、って感じで……」
そう付け加えたのはフォルテだ。臆病な彼がそんな事を言う辺り、精神的な安らぎを与える何かが確実にあるようだ。
と。
向こう側から何かがやってくる。最初ビュウブームたちかと思ったが、どうも影から推測するに別の人のようだ。
ラキは慌てて子供たちを物陰へと退避させると、自分はまた別の場所に身を潜めた。出来る限り人影がはっきりと見える場所へとだ。
待つことしばし。
――……そうですか。そういうことが……。
――ええ。私たちのような……は………でしょうけど。
こっちに向かって歩いてきた人間を見て、ラキは危うく物陰から飛び出しそうになってしまった。
一人は長い黒髪が印象的な美女。知的そうな顔立ちから、科学者のような職についてそうなのが想像できる。だがもう一人は。
ほっそりとはしているが、力がありそうな風貌。厳しい顔立ちに、オレンジ色の髪と黄金の目をしてはいるものの、その姿は。
「GEL-GEL……」
そう。間違いなくその青年はGEL-GELだった。
厳密に言えば、GEL-GELのモデルだと思われる青年である。どこか物憂げな視線を向ける仕草は、GEL-GELにそっくりだ。
その青年がどこかに視線を向けたので、ラキはグランネストたちが隠れてる場所を向いた。
おそらく彼らも、GEL-GEL似の青年を見ている。パニックになって飛び出されたら事だが、幸運にも誰も飛び出す気配はなかった。
――……の時は、私も?
――でしょうね……。その時は……。
――了解しました。
残念な事に、ここでは話の内容はよく聞き取れない。だが、断片から想像するに、女性は青年の上司に当たるようだ。
そしてこの二人に大きく関わる何かが、もうじき起きようとしている。女性はその時の事を考えて、青年に何か命令したようだ。
(まるで軍人みたいだな。……いや)
こういう喋り方をする存在を、軍人以外にも知っている。それも身近にいる。
もう少し聞き取りたかったが、迂闊に動くとばれそうなのでやめた。もしかしたら、グランネスト辺りが話を全て聞き取ってくれているかもしれない。