METEOS・37

 なぜ、自分は発動しない。

「はっ!」

 なぜ、自分はMETEOSの力を使いこなせない。

「……っ!」

 なぜ、自分は強くなれない。

「くっ……!!」

 なぜ、自分は。

『……OREANA、シュミレーションは終了だ。戻ってきな』
 イヤホンから終了を告げるラキの声が聞こえてくるが、OREANAは首を横に振った。この程度で終わりだと言っていたら、パワーアップできない。
「いえ、まだやれます」
『終了は終了だ!』
 それなのに、ラキは強引にシュミレーターのスイッチを切り、OREANAの目の前の光景をメタモアークの一室へと戻してしまう。
 まただ。
 強くなりたいのに、必ず誰かが邪魔をする。
 自分はMETEOSモードを使いこなせないといけないのに、何故止められなければならないのだろう。使いこなせないままでいいと言うのか。
 レアメタルを持ちながら、いまだ50%も力を出し切れない自分。戦力的にはラスタル以上のはずなのに、ラスタルに負けている自分。
(強くならなければならない。この先の戦いに勝ち残るためにも)
 前回の戦闘で、OREANAはチームの力不足をデータとして感じた。METEOSモードを持つ者が4人もいたのに、結果は惨敗に近い勝利。
 これはどうみても、自分の力不足が原因としか考えられない。アナサジやGEOLYTEは、最初から戦力として考えにくかったからだ。
(それなのに、何故……!)
 OREANAは気づいていない。焦りから生まれたゆがみに。
 そしてそれこそがチームを崩している事にも、気づいていなかった。

「理論上では出せないわけじゃねぇはずなんだがな……」
 OREANAのシュミレーション後、ラキはまとめられたデータを照らし合わせながらため息をついた。
「結局、持ち主の精神状態――平たく言えば、激情がMETEOSモードを大きく動かすと思うんですけどね」
 同じようにデータを見ていたビュウブームが、ぼそりとそう言う。
「GEL-GELはトラウマ、俺はリーダーとしてのプライド、ラスタルは力への渇望。その流れが一定を超えると、それに対しての力を与える……。
 そんな感じじゃないすかね」
 なるほど。
 トラウマを持つ者にはそれを消し去る力を、仲間のために立ちたい者は仲間を引っ張る力を、力を望む者には純粋な力を。
 OREANAにはそれがない。彼女は心の揺らぎも、激情もない。だからMETEOSモードも全開とはならないのだ。
 それが悪い事なのかいいことなのかは、ラキにもよく解らなかったが。
「とりあえず、OREANAのことはしばらく保留か?」
「ですね。OREANAちゃんには悪いけど、今の彼女じゃ50%どころか30%も無理かも」
 二人はそれで話を終わらせた。
 だが、実際の話はそれで終わりではなかった。

 数時間後、近くの惑星にメテオが襲来した。
 全員が慌しく駆け回る中、一番早く出撃したのはOREANAだ。――まだ出撃命令すら出ていないのだが。
「一体何を考えているんだ!」
 誰かがそう怒鳴るのを尻目に、一番早く装備を整えたビュウブームが戦場へと飛び出した。
 シュミレーションの成果は凄まじく、OREANAの撃墜スコアは見る見るうちに伸びているようだ。命令無視している以上、褒められたものではないが。
 後からGEL-GELたちが出撃したのを確認すると、フォーメーションの段取りをラスタルに任せて彼女を追った。
「確かにレベルはいいけど……」
 だが不安は残る。彼女が強さを求めるのは、ラスタルのように純粋なものではない。データから基づくだけの、機械の祈り。
 機械が祈るというのは矛盾だが、今の彼女は正にそれが似合っている。渇望せず、狂気にも堕ちず、ただ力がほしいとだけ思っているのだ。
 それでは意味がない。激情とは狂気と紙一重であり、そこまで祈ってこそ初めてレアメタルは力を貸してくれる。
「OREANAちゃんがそれに気づいてくれれば、な」
 と。
 飛来していたメテオが方向を変え、OREANAの死角に入り込んだ。彼女は目の前の目標を破壊するので手一杯なのか、反応しない。
 自分が飛んでも、ぎりぎりのタイミングで方向をそらせるかと言った程度。それでもビュウブームはためらわずに飛んだ。
 OREANAがようやく攻撃に気づいた瞬間、ビュウブームが愛剣を振りかざしてメテオを弾く。メテオは別方向へとずれるが、衝撃は避けられなかった。
「がっ!!」
「ぐっ!」
 巻き込まれるように、二人まとめて大きく吹き飛ばされる。OREANAは何とか対ショック姿勢を取れたが、ビュウブームは……。
「……やべ、左腕がイカレたか……?」
「ビュウブーム!」
 ちょうどOREANAの盾になるような形で巻き込まれたため、ビュウブームのダメージは大きかった。危険とまではいかないが、前線ではもう戦えない。
 メテオの数は減っているが、前線で戦えるのが一人減るのはやはり大きい。OREANAが、冷静――傍からはそう見える――に対処しようとするが。
「OREANAちゃん」
 ビュウブームがうっすらと目を開けた。

「祈るんだよ。心の底から、思いっきり」

 祈る。
 求めるのではなく、ただ祈る。
 心の底から、力がほしいと。助けになりたいと。生きたいと。
 理論づいた行動の上からではなく、それらを越えた心の上から。

 たすけてください。たすけてください。
 どうかわたしをたすけてくれた、やさしいかれをたすけてください!
 どうかたすけられるほどのちからをください!

「うああああああああああああああああああああああああっっ!!!!」

 正直、録画メディアを早送りしているように思えた。
 だが実際はメテオの動きだけが急に早くなっただけで、今まで打ち上げてきた塊がどんどん大きなものへと変化しているだけだった。
 落下してきている数は限りがあるので、上手くまとまるのなら全部打ち上げるのも可能になってきている。
 メテオの動きに直接関与して、速度を速める技。
 OREANAの強い祈りによって呼び起こされた、時間を『超える』力。
「……タイムアクセル……」
 誰かがそうつぶやいた。
 その間にも、メテオの塊は巨大化していき、必勝パターンである全部まとめての打ち上げが可能になっていた。
 メタモアークはそのタイミングを見逃さない。即座に必要なメテオが用意され、クレスの一声で塊めがけて撃たれる。そして全てのメテオは宇宙へと消えた。
 沸きあがる歓声。色々とトラブルはあったが、今回も惑星防衛に成功したのだ。そのことは喜ばしい事だった。
 OREANAは撃ちあがっていくメテオを、ただぼんやりと見ていた。
 望みの力を手に入れたのに、その顔には喜びはなかった。喜べるわけがなかったのだ。