ロスト・パラダイス。
辺境のエリアである。
ヘブンズドア領域と同じく、この銀河ではかなりの辺境とも言える。
だが、ヘブンズドア領域と違うのは、このエリアを知る者は極小数だということだ。
何故か?
答えは簡単。
ここらの管轄である連合軍が、そのエリアを不可侵領域として認定しているからだ。
だが何故ここが「失われた楽園」の名を持つのか、それは不明のままである。
航海図を見ても、ここが正確に何処なのかまるでわからなかった。
ロスト・パラダイスのデータは極めて少なく、航海図も極端に簡略されただけの代物になっている。当然ステーションなどの便利なものはない。
ほとんど手探りで探し回るしかないのだ。
そういうわけで、普段は待機中のはずの戦闘チームが外に出て、様々な情報を手に入れようと四苦八苦している。
「……こちらラスタル、付近に惑星反応はなし。引き続き探索を続行します」
「こちらGEL-GEL、周囲にはチリとかも見当たりませんね」
「あたしの方もダメ……ってあれ?」
メタモアークの後方――つまり六時方向を探索していたアナサジが、何かを見つけたようだ。彼女をあらわす黄土色の点が、少しだけメタモアークから遠ざかる。
今すぐ急行と行きたい所だが、他のメンバーの報告を受けてからでないと動けない。クレスはあまり遠くに行くなとだけ行って、彼女を見送った。
やがて、その他のメンバーが帰ってきた。
アナサジ以外の全員が目立ったものを発見できなかったので、メタモアークも彼女の行った方向へと向かう事にした。とはいえ、艦体を回す程度だったが。
近くに目立ったものは何もない。惑星か何かがあるとしたら、アナサジが見つける前にこっちで見つけると思うのだが……。
……いや、あった。
「艦長。一時の方向、付近に隕石群があるようです」
サーレイの報告にクレスが目を凝らすと、確かに宇宙の黒に紛れてメテオではない普通の隕石群が見える。
メテオスの脅威が広がっている中、メテオではない隕石群の方が珍しい物になっていた。星の欠片であるそれは、何故か発見されなくなっているのだ。
星の欠片すらないほど圧殺されているのだ、という説が一般的だが、その欠片もメテオになったという説などもたくさん存在する。
希少価値こそあれど、普通の隕石はメテオほど物質を含んでいないので回収するほどではない。メテオと一緒に惑星に落ちそうなら問題だが、ここなら大丈夫そうだ。
だが。
「エネルギー反応が大きいですな。並みのメテオとは比べ物になりませんぞ」
そう。これらの隕石群は、全てエネルギーが高い代物だった。
オペレーターではなくフォブが断言出来るほどの高エネルギーの隕石は、そうそう見逃せるものではない。調査したほうがいいだろう。
クレスはヴォルドンを呼んだ。鉱石ではないが、彼なら何かわかるかもしれない。
ヴォルドンを連れた一行は、慎重に隕石群へと近づいていく。ヴォルドンが老人と言う事もあるが、高エネルギー物質に何かがあればとんでもない爆弾と化すからだ。
隕石群近くでは、既にアナサジが待機していた。こっちの視線に気づくと、にっこり笑って手を振ってくる。
「これだよ」
アナサジが指差す先には、例の隕石群が動かずに留まり続けていた。動いていないと言うだけでも驚きなのに、その隕石は常にエネルギーを発し続けている。
(間違いない……)
GEL-GELは瞬時に察した。
この隕石群の中には、レアメタルが入っている。
まず隕石に触れたのはGEOLYTEだ。合成人間や普通の人間では触れた瞬間に何が起きるか解らないが、アンドロイドならある程度は平気なのだ。
軽く叩いて、反応を調べる。
隕石からの反応はない。内部にレアメタルを持つGEL-GELたちにも探知が出来なかったので、とりあえず大丈夫なのだろう。
「ふむ……」
ヴォルドンは興味深げにそれに手を触れ、あちこちの側面から隕石を眺めた。手に持てないので、ラスタルに頼んで持ち上げてもらって裏からも見てみる。
調べる事一分ほど。ヴォルドンはすぐに顔を上げた。
「間違いない。レアメタルが中に入っとる。それもタイムとソウルじゃ」
アナサジたちは目を丸くしたが、GEL-GELとビュウブームは「ああ、やっぱりな」という顔になった。
自分の中にあるレアメタルが、同じレアメタルに反応していた。まるで同じ仲間に会えた喜びに震えるかのように。
(同じ仲間?)
GEL-GELは内心首をかしげる。
確かにこの中にあるレアメタルと、自分の中にあるレアメタルは反応した。だがそれは、ただの石と石の共鳴のようなものだと思っていた。
だが本当にそうなのだろうか? 石ではなく、意思が共鳴していたのではないのか?
石ではなく、意思が。
(その辺りは、ヴォルドンさんが何か突き止めてくれるといいけど……)
祈るような思いで、GEL-GELは運ばれていこうとしているレアメタルを見ていた。
回収されたレアメタルは七個。その内、タイムが三つにソウルが四つと判明した。
「大漁じゃねーか」
ついビュウブームの口から、そんな冗談がこぼれてしまうのも無理はないのかもしれない。極端に数が少ないと言われるレアメタルが、七つも見つかったのだ。
ただ、こんなに手に入れたということは、それだけ狙ってくる者も多くなると言う事だ。今の所は七賢だろうか。
それから、何故あんな所にレアメタルがたくさんあったのかも調査しないといけないかもしれない。このロスト・パラダイス内でだ。
このエリアはあくまで不可侵領域とされていて、入る事を許されていない。事故とはいえここに入り込んでしまったクレスたちは、おそらく重い処罰が下される。
また調査次第ではレアメタルがまだまだ発見されるかもしれないが、それ以上のとんでもない物を発見してしまう可能性もあるのだ。
だからレアメタルが大量に手に入っても、誰も手放しでは喜べない。疑問がまたついてきたので、正直うんざりしてしまうくらいだった。
その時、エデンはネスたちと仲良くおしゃべりをしていた。
「ふーん、そんな事があったんですか……」
「でも楽しかったッスよ」
「嘘つきー」
「泣いてたくせにー」
色々あるが、年齢が近い(おそらく)と言う事もあって、四人はすぐに仲良くなっていた。監視とかのことは、もう半分以上忘れていたりする。
ネスたちが今まであった事を面白おかしく喋り、エデンはそれを興味深そうに聞いている。たまに余計な茶々を入れる辺り、すっかり仲のいい友達同士だ。
そんな四人はいつも通り、ネスたちが話してエデンが聞いていた。と、話が区切られた時にブビットがふとこんな事を言い出した。
「そういえば、エデンさん何か面白い話って知らないッスか?」
「え?」
僕が?と自分で自分を指差すエデン。
「そういえば、ネスたちはエデン様の話を聞いた事ないです!」
「オイラも。エデンの話、興味ある!」
残りの二人もブビットに賛同したので、どうも何か一つ話しないといけないようだ。
話、と言われても困る。自分の出生はべらべら喋れないし、喋った所できっと信じてはくれない。かといって適当な話をでっち上げられるほど、頭はよい方ではない。
どうにかして話をするのから逃げたいのだが、摩り替えるための別の話題を、エデンは持ち合わせていなかった。
「そんなに面白い話なんて知らないですよ」
「それでもいいよー」
「早く、早く!」
「楽しみッス!」
せかす三人に、とうとうエデンも諦めがついた。ふぅ、と一つ息をついてから口を開いた。
「――地球って星、知ってます?」