七賢の、二度目の襲撃。
今度は外からの攻撃で、しかもはぐれメテオ襲撃に合わせてのものだった。
こっちとしてはメテオもほしいし、七賢も追い払いたい。だが二兎追う者は一兎得ずの原理を考えると、どちらかに絞るしかない。
と言うわけで、メタモアークは完全に防衛に回ってしまった。
「ファイアタイプを発射しろ! ほぼラグなしでアクアも発射を!」
「ビュウブーム、先にこっちに攻撃してくる相手をかく乱しなさい! メテオはその後でいいわ!」
クレスとフィアが各自指示を出して周り、オペレーターはめまぐるしく変わる戦況を逐一報告する。フォブは相変わらず髭を撫でては微笑んでいるが、その眼は真剣だ。
そんなメタモアーク勢は善戦しているものの、やはりメテオのことを考えるとどこかで穴ができてしまう。
またGEL-GELはヤルダバオトが、ビュウブームはヘルモーズが常にマークしているので大きい動きが全然出来なくなっているのだ。
METEOSモードを持つ主力が封じ込められいている事で、決定打となる一撃が出せない。かく乱しようにも、人手が足りなくてどうすることも出来ないのだ。
「ジャゴンボ君も出しましょう。絶対にメテオに近づかずに、けん制を主軸にと言い聞かせておいて」
フォブのアドバイスにクレスがうなずいた。
すぐにハッチが開かれて特殊宇宙服(装甲が普通のよりも分厚くなっている)を着込み、メテオから作られた槍を携えたジャゴンボが飛び出す。
『あくまでサポートだからな。無茶はしないように』
「おう!」
クレスの言葉に一つうなずいて、ジャゴンボがイシュタルを抑えているアナサジの間に入り込んだ。そのまま槍をぶん回してけん制するが、イシュタルは涼しい顔だ。
これだけでは、まだ戦線をひっくり返すには至らない。
ちなみにメテオを回収しているのはアリアンロッドとヨグ=ソトース、それからヒュペリオンだ。攻撃はそれに向いている他のメンバーが相手になってる。
メテオは七賢に譲るとしても、攻撃を仕掛けてくるヤルダバオト、ヘルモーズ、イシュタルを追い払わないと撃沈される可能性もある。それだけの実力があるのだ。
少数精鋭同士がぶつかり合えば、結局は個々人の能力が物を言う。そしてこちらの能力は七賢よりも遥かに弱い。
(逃げ出すチャンスがあれば……!)
戦って勝てないのなら、逃げ出すしかない。転移先を読まれて追いかけてくるかもしれないが、それでもやらないよりはマシだ。
「サーレイ、今ワープしてどの辺りまで飛び出せる?」
「え? あ、今はエネルギーも充分ですから、それなりに遠い所まで行けますが」
サーレイは突然の質問に泡を食いながらも、律儀に答えてくれた。
それなりに遠い所。
それは、七賢でもそう簡単に位置を特定できない場所だろうか。それとも……。
考えていると、モニターと格闘していたレイが悲鳴を上げた。味方がやられかけているのか、それともメタモアークがダメージを負ったのか。
どちらにしても、悩んでいる時間はないかもしれない。決断するのなら、今のうちだ。
「ロゥ、主砲は撃ち止めだ。運航用のエネルギーを全開にして、ワープ準備に取り掛かれ!」
「了解しました」
ロゥは何の疑問も持たずにすぐにワープ準備に取り掛かったが、フォブが「よろしいのですかな?」とこっちを向いて聞いてきた。
ワープで逃げるのは、今までに何回もあった事だ。敗戦も、何度も経験している。メテオスの座標も、飛んだ先で探すしかないし、本部への帰還の道も同じだ。
今の問題なのは、七賢が追いかけてくるのではないか、という事だ。
「しかし、時間稼ぎなどを受け持ってくれる人材がいませんね」
フィアが厳しいまなざしで戦場を見ながら言った。
GEL-GELとビュウブームは七賢にマークされ、アナサジとジャゴンボはイシュタルの攻撃を流すので精一杯。ラスタルはそんな彼らを追うので忙しい。
ラスタルに時間稼ぎをさせるのもいいが、それでもまだ足りないだろう。彼は攻撃向けではないからだ。
残りもう一つの押しの手を考えていると、唐突にウィンドウが開いてサボンが顔を出した。背景を見るからして、ラキのラボではなさそうだが。
「どうした!?」
『艦長! GEOLYTEの整備が終わりました! 彼を戦場に出しましょう!』
最初誰のことだか解らなかったが、すぐにサボンが出した企画書の事を思い出した。ラキが新機体にかかりきりになるので、回された機体は彼女らが整備するはずだった。
まだ未熟なので、最後はラキかレグ辺りに了承を取れという条件で判子を押したのだが、何ともいいタイミングで来てくれたものだ。
ともあれ、これを逃す手はない。GEOLYTEがどれだけのものになったかは解らないが、基本能力だけでも少しは時間を稼いでくれるだろう。
「許可する。GEOLYTE、聞こえるか!?」
メタモアークがピンチなのは知っていた。自分は、その防衛を優先しろと言われていた。
しかし因縁もあってか、ヤルダバオトが自分を行かせてくれない。きっちりとついて回っては攻撃してくるので、どうしても彼の相手をせざるを得ないのだ。
動きについてこれないのと、弾を全て撃ち尽くしたのもあって、装備していたガンナーフレームはパージしてしまった。残っているのは携帯武器のみだ。
「Bリボルヴァーとスライドブレード。それからMMマシンガン……」
その内、Bリボルヴァーの弾数は6発。マシンガンはほとんど空だ。スライドブレードで何とか押すしかない。
「隙あり!」
間髪いれずにヤルダバオトが動いて、GEL-GELの足を押さえてくる。正直ここまで来ると、足止め以外の理由でもあるのではないかと疑ってしまう。
イヤホンから、ロゥがワープ準備を開始した声が聞こえてきた。タイムリミットが出来たので、GEL-GELはほぼ強引に振り払おうとスライドブレードを振り回した。
ヤルダバオトが当然ついてこようとするが、ラスタルが撃ったロングバレルマグナムが上手く足止めしてくれた。
「くっ、小僧が!」
邪魔が入ったことに怒ったヤルダバオトの攻撃が、ラスタルのわき腹をえぐる。ダメージこそ少ないが、司令塔がぐらついたので七賢の動きが活発になった。
遠くから見るメテオの数は、かなり減っていた。それは足止めしている七賢がほとんどを回収したことに他ならない。
後手後手に回らざるを得ない自分たちは、負け戦というのが多い。GEL-GELは最近それがわかってきたのだが、やりきれない気持ちは変わらなかった。
だが、それを言っても意味がない。今はメタモアークが何とか無事に飛ぶように守るしかない。守りきれば、負けと言うわけではないのだ。勝ちでもないかもしれないが。
考え事をしていたからか、GEL-GELの動きが少し遅くなってしまった。当然、それに食いつくようにヤルダバオトが追い詰めてくる。
銃口がこっちを向くかと思われた時。
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
間の抜けた悲鳴と共に、水色の何かがヤルダバオトにぶち当たった。
本人たちも予想外だったらしく、ヤルダバオトは面食らってふらふらしてるし、ぶつかった本人はくらくらする頭を抑えていた。
先に思考を正常に戻したのはヤルダバオトだった。飛び込んできた水色のアンドロイドに向かって銃口を向けるが、引き金を引く前でアンドロイドも動いた。
一気に飛び込んだかと思うと、背中に背負っていたバックパックから小型のバズーカを出して腹に一発撃ち込む。威力はそれほどではないが、反動で二人とも吹っ飛んだ。
吹っ飛ばされながらももう一発。これでヤルダバオトとGEL-GELたちの距離は大きくなった。
「つ、次はこっち!」
「させるか!」
次の行動に移ろうとした水色のアンドロイドだが、それより先にヤルダバオトが動こうとした。再び銃口が向けられるが、今度はGEL-GELがそれを抑える。
Bリボルヴァーを撃つ。とにかく攻撃を抑えればよかったので、狙いはほとんど定めていなかった。
――だから、本当に偶然だった。
その弾がヤルダバオトのヘルメットの右半分を砕いたのは。
弾は貫通したのか解らないが、砕けた欠片が散り、中の顔がほんの少し露出していた。
なびく髪の色は――自分によく似た薄い赤。
「「!?」」
GEL-GELが息を飲み、ヤルダバオトがはっとなって露出した部分を隠す。
また攻撃が再開されたが、片目を隠さざるを得ないのでその攻撃は大抵が的外れだった。お陰でGEL-GELたちは何とか逃げ出すことに成功する。
水色のアンドロイドの後を追いながら、GEL-GELはさっきのヤルダバオトの顔を思い出す。
たかが髪の色だ。自分と同じ色など、宇宙を探せばたくさんいるのだろう。
だが、どうしても気になる。
あの色。あの眼。自分によく似たあの顔。
思い出したくない記憶の中にある、あの顔は。
(ジェネシスナンバー……?)
自分で思い立ち、そして首を横に振る。そんな事はない。そんな事はありえない。
だってあれは。
(あれは全部僕が破壊してしまったのだから)
『……ウント、開始します。30……』
イヤホンから聞こえてくるカウントダウンで、ようやく思考が現実に帰る。急いでメタモアークに戻らないと、ここに置いてけぼりとなってしまう。
周りを見てみると、ラスタルとジャゴンボは帰還したらしい。アナサジがビュウブームを援護しているので、彼も何とか帰還できるはずだ。
ワープする事を察したのか、イシュタルは既に姿を消し、ヘルモーズも攻撃回数を減らしている。自分たちを足止めするつもりはないのだろうか。
ヘルモーズに向かってマシンガンを全弾撃ち込むと、水色のアンドロイドは持っていた手榴弾の安全装置を外してそっちに放り投げていた。
直後に爆発音と共に、辺り一面が光で埋め尽くされる。どうやら投げたのは目くらまし用のフラッシュグレネードらしい。
「視界カメラ壊す気かっ!」
ツッコミと共に、ビュウブームが光の中から飛び出してきた。どうやら直前に中身を察して、目を閉じていたようだ。無事を確認してから、GEL-GELは艦に戻る。
カウントは9秒。かなりぎりぎりのラインだ。先に戻っていたメンバーが、GEL-GELたちを見てほっと息をつく。
三人が帰ってきてすぐにカタパルトが閉められ、艦はワープ体制となった。