「メテオスの調査ですと?」
「ああ」
フォブの言葉に、クレスは苦い顔を隠さずにうなずいた。
上層部で決定が出されて数時間後。
ネットワークを利用しての光速通信により、クレスたちメタモアークのメンバーはその指令を受け取った。
メテオスの調査。言葉にすると簡単だが、実際はそのメテオスの位置が特定されていないため、事実上無茶な命令だ。一種の左遷とも言える。
これは結果を出していない我々に対する仕置きと言う事かな、とクレスは内心でつぶやく。
「で、エデン少年たちに対する対処は?」
「そのあたりには触れていない。あの言い訳を頭から信じたわけではないだろうが、少なくとも今拘束するほどのものではないと見越したのだろう。
特にGEL-GELは、多大の戦果を上げている。今、彼を拘束するのは大きな損失と見たに違いあるまい。調べるにしても、かなりの時間がかかるだろうからな」
ラキも彼の解析に四苦八苦している。おそらくメックス星に連れて行っても、彼の全てがわかるとは思えなかった。
それにしても、改めて考えるととんでもない人材ばかりが集まってきている気がする。今のところ、全員協力してくれているのが幸運ではあるが。
GEL-GELを始めとして、エデンにギガントガッシュの姫、そして艦内にいるという「座敷童」。人数は少ないかもしれないが、全員何かを持っている。
メタモアークにある「あれ」の影響なのだろうか。
「それで艦長、我々の今後はどうするつもりですかな?」
フォブがパイプを咥えて、一息吸う。ふわりと出てきた煙は、何となくヒュージィ星を彷彿とさせた。
「現状維持だ。メテオの研究を中心に、出来る限りの事は解明させる。それに……」
「それに?」
コーヒーを一口すする。ブラックは苦すぎるのでミルクを少し入れているのだが、何故だかちょっとだけ甘すぎるように思えた。
「どうも、このまま行けばメテオスへの道を自然と掴んでいるのではないかと思ってな」
楽観的観測のせいなのか、それは解らなかった。
一方その頃、大分体調が回復したラキは、ラボに戻って本部からの指令とそれに基づいての補給報告をサボンから受けていた。
「本部からGEOLYTEが一体回されるって?」
「はい、タイプはマルチのチャイルドだそうですよ」
「またちびが一人増えるのか……」
GEOLYTEは量産を基に考えられてあるタイプなので、様々なフレームタイプが存在する。高速戦闘向けのタイプや砲撃戦向けのタイプなど、もう何でもありだ。
ちなみにビュウブームはスピードのアダルト(メール)、アナサジはガンナーのチャイルド(フィメール)、ラスタルはサーチのチャイルド(メール)が元だ。
さて、今回はどんな風に改造するべきだろうか。ビュウブームの件もあるので、少し余裕を持たせたカスタマイズを考えるべきか……。
「どうします? まだ感情OSなどの設定はされてないという話ですけど」
「……いや、やめとく」
「え?」
ラキの答えにサボンは目を丸くした。
「それって、GEOLYTEをそのままにしておくってことですか?」
「メックス製ではあるけど、もう基本フレーム作り始めちまったんだよ。実験も兼ねて、俺はそいつに付きっ切りになる」
流石のラキも二体を製作するなんて事は出来ない。送られてくるGEOLYTEは返すことも考えた方がいいだろう。
だが、サボンの方はそれで納得してないようだ。
「これから激戦になるかもしれないんですし、戦力はまだまだ必要ですよー」
「だけどなぁ……」
ラキはぼりぼりと頭をかく。自分が二人いるならともかく、GEOLYTEのカスタマイズも兼任するなどとても無理だ。
目の前にいる部下はまだ未熟だし、フォルテは改造などはメインではない。これから激戦になる事が解っているからこそ、あえて少数精鋭で行くべきだとは思う。
とりあえずこの件は保留にして、ラキは最近手をつけ始めた最新型の設計に取り掛かり始めた。納得していない顔のサボンも、とりあえず覗き込んできた。
ディスプレイに映っているのは、メックス製のフレームを持つ女性型戦闘用アンドロイドだ。アダルト(フィメール)で、アナサジ以上の長い髪が印象深い。
「名前何て言うんですか?」
「ORigin Egg,Advanced NAme(創生の卵、次なる名前)で、OREANAだな」
「オレアナですか? 確か海の女神の名前だとか、どこかの星の名前だとか聞きましたけど。そこから?」
「まあな」
結構こじつけだったよなーと内心でため息をつく。いい名前が思いつかなくて、辞典をひっくり返して調べたのはサボンには秘密だ。
何故OREANAという名前にしたのか。それはサボンが言った通りの理由もあるが、もう一つそれなりの理由がある。
彼女は、今まで解析できたGEL-GELのスペックやテクノロジーを詰め込んだアンドロイド――いわばGEL-GELの妹に近い存在だからだ。
GEL-GELに使われているテクノロジーは、半分近くがまだ解析されていない。だが会席された部分で、今の技術よりも上だと思った部分は全て入れた。
特にレアメタルは、クレスを何とか説得して一つだけ手に入れることに成功した。今後もメテオ防衛時に手に入ればいいが、そんな幸運はもうないだろう。
メックス製のフレームで耐えられるかどうかは賭けだが、ビュウブームの証言によると人の意思がレアメタルに反映されると思われる。
上手く行けば、OREANAもレアメタルの力を手に入れられるはずだ。
「完成はいつ頃ですか?」
「さあなぁ……」
ぼかしたのではなく、本当にいつになるか解らないのでそう答えた。
と。
「ラキさん、サボンさん、いらっしゃいますか?」
とんとん、とノックの音と一緒に、ニコが自分たちを呼んできた。別に何の理由もなく、彼女が来たわけではない。ラキたちは仕事をストップして外に出た。
部屋の前ではニコと一緒にディアキグが待っていた。普段は自分の研究所に篭りっきりの彼がここにいるのは、それなりの理由がある。
無愛想な彼は相変わらずむすっとした顔のままで、「あれが見たいらしいな」と話を切り出した。
「艦長に許可は取ったのか」
「かなり説得に苦労しましたけどね。レアメタルと一緒で」
「持ち出そうとする愚か者が出ないための処置だ。無駄な心配事は減らしておくに限るだろうが」
人の神経を逆撫でするつっけんどんな物言いも相変わらずだ。まあ、この男が言葉遣いなどを変えたらそれはそれで気持ち悪いが。
ニコとはここで別れ、ラキたちはディアキグが案内されるままに歩く。最初はよく通る廊下だったが、途中からはあまりきたことのない場所へと変化した。
つまり、ここは誰かの許可を取らない限り絶対に入れない場所なのだ。修理班のソーテルやベルティヒも定期チェックで立ち寄る程度で、中には入らない。
そんな場所を歩いているので、サボンはおっかなびっくりとした足取りで歩いている。目の前を歩くディアキグも怖いが、この場所も怖いのだろう。
何となく寂れた場所を歩いているうち、ラキはあの夢で見た少年の事を思い出した。座敷童の少年は、こういう所にも現れるのだろうか。
――見覚えがある、というのは、古い血筋が何かを伝えようとしているのかも知れないよ。
例えば、今の貴方のように。
あの時の少年の言葉が蘇る。
古い血筋。
それは一体なんだと言うのか。
自分の一家は全く普通の一家で、機械工業に関して詳しいだけだった。軍に協力してはいたが、別に名門一家と言うわけでもない。
あのファイアムに行ったのもくじ運が良かっただけで、特別な功績があったわけではない。両親が自分を案じて立候補したのは聞いていたが。
だがあの少年は、自分に何かあると断言していた。フォールダウンを生き延びた自分は、何かに選ばれたとでも言うのか。
(選ばれた? ……違う)
ラキは本能的に察した。
選ばれたのではなく、最初から自分が特別だった。だからフォールダウンを生き延びた。
義姉であるフィアがそうなのかは解らないが、自分は確実に何かがある。それをあの少年は知っている。
(一体何を知ってるんだ? あいつ)
うーんと考えそうになると、タイミングよくディアキグが「着いたぞ」と二人に声をかけてくれた。
「ここだ。俺か艦長の許可がない限り、ここには入れん」
「何故ですか?」
サボンが聞いたが、ディアキグは答えなかった。指紋でコンピューターに本人だと確認させると、ドアをさっさと開ける。
暗い部屋に廊下からの光が差し込んだので、埃が舞い散っているのがよく解る。だがそれもすぐに見えなくなり、部屋は元の落ち着きを取り戻した。
その落ち着きを取り戻した部屋の中には、質素な台座だけがあった。その上に飾られているのは、ガラスの障壁に囲まれた大きな石。
大人の男が抱えて持てるほどの石は、誰も何もしていないと言うのにぼんやりと発光していた。一目見て、これがただの大きな石ではないということが解る。
「あの、これは?」
ラキの問いに、ディアキグは今度は答えた。一言だけだったが。
「メタモライトだ」
メタモライトはきらりと光る。
その光は、どことなくレアメタルの輝きに似ていた。
そして、その輝きは何かを思わせた。
――人の魂のように。